第84話 魔法剣が消し炭に
模擬戦用の格闘技場へ移動することになった。この区画内は特殊な防壁が張られており、外で観覧している者には攻撃の被害が及ばないらしい。
「反撃してもいいんだぜ? 少しくらい相手してやるよ。稽古くらいはつけてやる」
「じゃあ、この短剣で……」
私は模擬戦用に用意されていた練習用の剣を手に取る。
「おい、そりゃ本当にレベル5あたりが使うやつだぜ」
「まあ、壊れなければいいので」
戦闘用の区画は正方形のラインが引かれている。その周囲にはいつの間にかハンターたちが集まってしまっていた。
「いつでもいいぜ、来な」
「いえ、早く終わらせたいので、さっさとファイアーボールとやらを撃ってください」
「……くそ生意気なガキだな。剣の相手をしてやるって言ってんだよ。さっさとかかってこい」
「やですよ。早くファイアーボールを撃ってください。本当に撃てるんですか?」
私の挑発に、男は「吠え面かかせてやるよ!」と叫びながら剣を振り上げ、剣先を私に向けた。
「くらええぃ! ファイアーボール!!」
叫ぶと同時、魔法剣の先に野球ボールくらいの炎の玉が出現し、勢いよく向かってくる。
だが、私に届くだいぶ手前で大きく弧を描き、区画の外で観戦していたハンターたちへと向かっていく。
外の区画との境界線、観覧していたハンターの目の前でファイアーボールは炸裂して爆散する。
大きな音と、爆発、煙が立ちのぼった。
「あぶな……」
目の前でファイアーボールが破裂したハンターは、驚いて尻もちをついていた。
この格闘技場の区画は見えない防御壁があるようだ。外には魔法は届かない。
私は男に向かって言う。
「ちゃんとコントロールしてもらってもいいですか?」
「う……うるせえ……。初めてで慣れてねえんだよ」
そういって男は2発目のファイアーボールを撃つ。今度は反対に大きくカーブし、別のハンターのところへ。「あぶねえ!」観覧していたハンターは叫ぶが、その手前で同じように爆散した。
「く……」
2発目も大きく外し、苛立った男はファイアーボールをやみくもに連発しはじめた。無数の火の玉がこちらへと飛んでくるが、そのどれもがかなりの手前で別々の方向へと弧を描いて曲がっていく。同じように格闘技場との境界線で爆発した。
周囲で見ているハンターたちの手前で次々に爆発が起こる。あたりには煙が立ち込める。
小太りの男は「はあはあ」と息を切らせながら、ひたすらファイアーボールを撃っていた。
■ハルナっちの
■一生かかっても当たらないと思うよ
■これ、終わらんね
■どうすべか……
■ハルナっちが短剣でコツンと奴の頭を小突けば
■こっちから攻撃して、さっさと終わらそう
■いや、殺しかねないだろ
■ここで殺人はまずい
■諦めてくれるのを待つしかないのか?
■弱いくせに吠えるやつは本当に面倒だな
■早くハルナっちのダンジョン配信が見たいのに
■せっかくレベルアップしたのに、ダンジョンにすら入れていない
コメント欄にあるように、私は早く終わりにしてダンジョンへ行きたかった。
「えっと、あの……。当てていただかないと終わらないのですが」
「くそお、ふざけんじゃねえ!」
男は今度は剣を振り上げてこちらに向かってきた。剣で斬りつけようというのだ。
「それは駄目です! 怪我ではすみません!」
女性ハンターが叫んだが、男はそのまま剣を振り下ろす。
剣はまるで炎に包まれたかのように、刀身が燃えていた。
「これがファイアーマジック・ソードの真価よお! 灼熱の炎で、通常では斬れないものまで叩き斬るのよお!」
私は冷静に配信画面のコメントを読む。
■剣の周りを魔法の炎が包んでいる
■これを受けて終わりにしたら?
■ダメージを与えられないと知ったら諦めるのでは?
■適当に初級用スキルであしらうとか?
「もう……。面倒くさいな……」
すでに獲得しているアクティブスキルがあるが、どれも弱そうで実践ではあまり使えそうになかった。
ただ、実際で使ったわけではないので、どのくらいの効果かがあるのかは実感ができていない。
実験にはちょうどいいと思った。
――
――
――
魔法なら弾けばいいし、攻撃はそのまま返す、武器は……このスキルが手頃? そんなふうに考えてスキルを発動した。
■ハルナっち、それ、やばい
■ファイアーマジック・ソードが消し飛ぶ
■最後のそれはウェポンブレイクの上位版で……
■跡形も残らないかも
え?
あ……
そうなの?
先に言っておいてほしかった。
男が振り上げた剣が私の頭上に迫る。
まるで空振りをしたかのように、男が剣の
刀身はまるで消し炭になったかのように細かい炭の粒子となって、空中に溶けていった。
男が振り下ろした柄だけがそこに残っている。
観客の誰かが呟いた。
「な……。何が起こったんだ……」
小太りの男は剣が消失したことに気がつく。
「お、俺のファイアーマジック・ソードが……」
柄だけが残った剣を見て、発狂するかのように叫び声を上げた。
「うわあああああぁ…………。剣が……。剣があああぁぁぁ…………!」
ファイアーマジック・ソードは
確かその剣は相場で一千万円くらいと言っていた。
本当に申し訳ない。
悪いことをしてしまった。
でも、レベル71になったばかりなんだし、手加減とかまだよくわからないんだよな……。
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