第56話 モンスターの定義

 ミリアの助けを借りてモンスターを倒していく。

 けれど、なかなかレアなアイテムが出ない。いくつかポーションやアイテム合成用の素材はあるが、期待するようなアイテムはなかった。

 焦りを抱きつつも、この階層の攻略は中盤に差し掛かる。


 すでに50体以上のモンスターを倒したが、ほとんどがミリアの貢献によるものだった。

 ミリアのHPは100%のままではあるのだが、顔も腕も傷だらけ。

 ここのモンスターは小動物系が多いから、噛みつきと引っかきによる傷が絶えない。

 ミリアが着ているピンクのフリフリのワンピースはまったく損傷していない。しかし、ミリアの流す血により汚れてしまっていた。


■リアルホラー

■必死だな。必死にモンスターを抱え込むミリアの姿

■必死さがかわいい

■ミリアたんの顔が血みどろ

■か弱い少女を生贄に、ダンジョン攻略


「ミリア、役に立ってうれしいよ。るんるんだよ」


 ミリアはスキップをしながら、先頭を行く。

 少女としか思えないミリアからは悪意のかけらも伺えない。


「ミリアってさ。私たちが来るまで何をしていたの?」


 私の問いかけに、ミリアの動きがピタッと止まった。


「何を?」


 真顔になるミリア。顔は引っかき傷だらけで、少し血も流れている。

 表情がなくなり、少し不気味さもあった。


「何をしていたとは?」


 ミリアに聞き返され、私は応える。


「ミリアってモンスターなんでしょ? でも、ダンジョンに侵入する人なんていなかったわけだし」


 私の言葉に、ミリアは首を傾げる。


「ミリア、モンスターなの?」


 逆に問いかけられて、私も疑問に思う。

 人間と同じような自我があり、愛嬌を振りまき、殺されることを恐れ、いっしょに健気に戦ってくれる。

 そんな存在がモンスターなのだろうか。


 もりもりさんが回答する。


「モンスターと呼ぶのは人間の都合であって、人間を脅かす存在がモンスターなのだと思います」


「じゃあ、ミリア。モンスターじゃないよ。あれ? モンスターかも? どっちだ?」


 ミリアは首を左右にかしげた。


「ミリアねえ、ハルナお姉様ともりもりお姉様が来た時、殺そうと思った。でも、男の人がいなくて、完全魅了が使えないから、逆にミリアが殺されるって思った。助けてほしいって思って、ハルナお姉様ともりもりお姉様の役に立てばいいんだって思った」


「最初は私たちを殺したいって思ったの?」


「あ、えと。最初だけ。最初だけだよ。今は違うの。信じて」


「気持ちが変わったってこと?」


「わかりあえると敵ではなくなるということでしょうか?」


 私ともりもりさんが同時に聞いていた。


「ミリア、もうお姉様たちを殺したいって思わないよ。だって、ミリアのことも殺さないでしょ?」


「まあ、そうだね……」


「え? まだ決まっていないの?」


「いや、もう殺せないよね。気持ち的に」


「人間に対して敵意や悪意があるなら、私たちの敵と言えるのでしょう。ミリアからは、いまのところそういった敵意は感じませんね」


「仲間意識が生まれちゃったよ」


 私が言うと、真顔だったミリアが急に笑顔になった。


「やったーーー」


 両手を高く挙げて喜んでいた。

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