第53話 完全魅了

 どうやら本当にミリアは私たちにとっては無害なようだ。けれど、男性に対しては完全魅了パーフェクト・チャームの能力を使うことができる。


「ミリアはね、男性を操れちゃうみたいなの。ミリアは無自覚なんだけどね、男の人の経験値を全部ミリアがもらうことができるの。それとね、自由自在にコントロールもできるんだけど、それはしないから。お願い、命だけは助けて」


 なんか、さりげなくすごいことを言った気がする。


「自由自在にコントロール?」


 もりもりさんの顔が怖い。


「うん、なんでも」


「たとえば?」


「みんなをこの218階層に呼び寄せて、集めて、全員集合! そしてあなたたちを殺して!って命令するの。そんなこと、絶対にしないから! お願い! ミリアを殺さないで! 命だけは助けて!」


 私は長剣を鞘から静かに抜く。


「はい、ヤバいヤツ、決定。もりもりさん、いいですか?」


「仕方ないですね。でも、私がやりましょうか?」


「ひええー。ちょっと待って。待ってよ! みんな弱い子ばかりだから、この階層になんて来ることできないし! まだ操ったりしてないから! お願い! 助けて!」


 ミリア自体に攻撃力はないのは本当のようだ。ミリアは男を操り、女性ハンターを殺すということなのだろう。


「ミリアが操ると、目がぴかーって光るからわかるの! ほら、誰もぴかーってしてないでしょ? だから、誰もまだ操っていないの! 信じて!」


■ミリアたん、信じるよ

■鏡を見たけど、大丈夫だ

■まわりは誰も目が光ってない

■俺のこの気持ちは本物だ。魅了なんてされてないから安心して。

■ミリアたん、愛してる

■俺の気持ちに偽りはない

■俺だけは操られていない。気持ちは本物。

■愛だ。愛は嘘をつかない。

■ミリアたんと結婚したいと思っている。

■もうミリアたんにぞっこん


 私はぐい、と剣をミリアの喉元に突きつける。


「とりあえず、今すぐ完全魅了を解除して」


 私はきっととても怖い顔になっていたのだろう。それはミリアの表情から見て取れた。


「えっと、あのね……。非常に言いづらいのだけれど……。言ってもミリアを殺さない?」


「内容による……」


 ミリアはごくりとつばを飲み込んだ。


「『ヤバいヤツ決定』って言われた時に、ひええーって思って、全部、解除したの……。とっくに解除してるの……」


「まだ、視聴者はミリアにぞっこんみたいなんだけど?」


「それは、たぶん、完全魅了とはまったく関係ない」


 ミリアは可愛らしく、目をぱちぱちとまばたきさせる。


「〝能力隠蔽解除〟――これで、私の情報がわからないかな?」


 ダンジョンデバイスにはさらに詳細にミリアの情報が表示された。


――――――――――――――――

完全魅了パーフェクト・チャーム:対象者数0人

――――――――――――――――


「……」


「ね? ミリアは嘘を言ってないでしょ?」


■俺のミリアたんへの愛が本物だと確認できた

■ミリアたんに会いに218階層へ

■お前じゃ無理だ。俺が行くまで待っててくれ、ミリアたん

■ああ、ミリアたん

■俺のミリアたん

■愛してる! ミリアーーー


 ミリアに完全魅了されていない視聴者の言葉。ある意味、問題なのは視聴者の頭だ。

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