戦いのできない底辺冒険者ですが、拾った男は最強だったようです(※ただし訳アリ)
とととき
第一章
第1話 戦いのできない冒険者
冒険者に必要なものはなにか。
どんな魔物にも負けない力。困難に立ち向かう勇気。未明を照らし出す知識。万人に手を差し伸べる博愛。
きっと冒険者の数だけ答えがあるのだろう。そして恐らく、どれも正解だ。だが、あえて一番を決めるとするならば、それはどこへでも行ける自由な肉体ではないだろうかとリリエリは思う。
持たざる冒険者リリエリは、往来を行き交う同業の姿を見て小さく溜息を吐いた。冒険へ旅立つ軽快なステップも、鎧に守られた重厚な足取りも、洗練された無駄のない歩法も、どれもこれもが無縁になって久しい。
もう慣れたものだ。足手まといと扱われるのも、湧き上がる悔しさに見ないふりをすることも。
右足の動かない少女リリエリは、それでも冒険者でいたかった。
□ ■ □
「というわけで、採集師を募集しているパーティに心当たりはないでしょうか」
「おぉ、二ヶ月ぶり七回目。久しぶりに聞くと沁みるねぇ、その無茶振り」
ここは小都市エルナト唯一の冒険者ギルド。
ギルド受付嬢兼リリエリの親友であるマドは、リリエリの言葉を軽快に受け流してみせた。幾度となく繰り返してきたやり取りだ、聞かずとも答えは知れたようなものだった。それでも一応訪ねてみるのは、親友間のお決まりといつやつだ。
冒険者リリエリ。特技は採集・採掘。等級はC。特記事項として右足の不随及びこれに伴う魔力制限あり。
……冒険者パーティを募集するには、あまりにも厳しい条件だった。
最大のネックは言わずもがな、その不自由な右足だ。杖や魔法で補ってはいるものの、魔物との戦闘はほぼ不可能。魔力の大半を足の補助に費やしているせいで、ろくに魔法も使えない。
採集の腕や知識は抜きん出ているものの、それが冒険者パーティに望まれるかというと、答えは圧倒的に否。
リリエリは、自他ともに認める冒険者の最下層である。
何らかの事情を持ったパーティに一時的に属することこそあれど、それもあくまで期間限定の話だ。リリエリは基本、たった独りで依頼をこなしている。
見方を変えれば。リリエリのソロ冒険者歴は他の冒険者とは比べ物にならないほど長いとも言えるが。
索敵、解体、サバイバル、そして採集。戦闘以外のことは独りでなんでもできるようになってしまった。ただ一点、戦闘が全くできないことが、彼女をC級冒険者たらしめている理由である。
「ここ二ヶ月の間、お試しでアイザックさんのところのパーティに入れてもらっていたじゃないですか」
「あぁ、彼ね。戦闘力は不問、料理と魔物の解体ができるメンバーを求めてた」
「最近パーティを抜けろと言われてしまって。やっぱり戦いができない人材をつれてはいけない、と」
口でこそあっけらかんと言うものの。ようやくソロから抜け出せると嬉しそうな笑顔を浮かべたリリエリの様子を覚えているマドは、とても苦々しい気持ちになった。
「ソロでもできる依頼から、またコツコツやっていけばいいんです」
とはいえ、ソロのC級冒険者がこなせる依頼の報酬なんてスズメの涙もいいところ。戦えないリリエリがたった一人で冒険者として生活を成り立たせるには、途方もなく膨大で地道な努力を必要とするだろう。
「また貧乏生活に逆戻りですね」
「それでも辞める気ないんだろ、冒険者」
「当然」
マドは笑ってショートカットの黒髪を揺らした。リリエリの頑固さは誰よりも知っている。受付机で隔たれていても、二人は無二の親友だ。
「とりあえず、人手が欲しそうなパーティには片っ端から声をかけておく。いつも通り、僕にできる手助けは全部するよ。……それでも、見つかる保証は、」
「ええ、わかってます。でも待てます。私、まだまだ冒険者でいたいので」
「……そうだね。じゃあ、ここからは僕の本業だ」
さて、と一つ手を叩いたマドは、受付机の下から分厚い紙束を取り出した。ダンッと重々しい音とともに少量の埃が舞う。誰も手に取らない依頼のほとんどは、労力ばかりがかかるくせに報酬は安い単純労働ばかりだ。依頼書の山の高さからして、ざっとここ二ヶ月分程度か。
「これが今ウチにあるリリエリ向けの依頼だけど。……どれをやる?」
「全部で」
戦えないリリエリがたった一人で冒険者として生活を成り立たせるには、途方もなく膨大で地道な努力を必要とするだろう。
――裏を返せば。膨大で地道な努力さえあれば、誰だって冒険者であり続けられるのだ。例えそれが、剣も魔法も使えない片足の不自由な少女であったとしても。
堅実・実直・忍耐。
これが戦えない冒険者リリエリの有する唯一にして最大の武器である。
「どこかにいないですかねぇ。めちゃくちゃ強いけど一人じゃ冒険できなくて、それなのに何故かソロで冒険者してる人」
「ははは。いるわけないねー」
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