突撃!お前の晩御飯!

薄明

『突撃!お前の晩御飯!』

「はーい!『突撃!お前の晩御飯チャンネル』でーす」


「うわっ!本当に来た!!」


「ちゃんと事前にメール送ったじゃないですかぁ!」


「ま、5回目だしwww」


ここはとある配信者のマンションの一室。

そこにスマホを持った男がチャイムを連打しながらしゃべっていた。


『突撃!お前の晩御飯チャンネル』


このYouTuberは名前の通りで、他の配信者の食事の様子をリポートする。

これは以前テレビ番組であったものを、


「おもしろそうだなぁ」


と思った四宮響しのみやひびきが作ったチャンネルである。

今はYouTubeであったり、tiktokであったりと、動画配信が主流となっている為、誰でもスマホ1つで簡単に動画配信をすることが出来る。


しかし、プライバシーの侵害もテレビ番組があった時と比べてかなり警戒されている為、おいそれと


「こんばんわ!」


と他人の家にアポなしで突入しようとするならば、当然即刻警察行きだ。


そこで響が考えたのが、


「配信者だったら、自分のチャンネルの宣伝にもなるし、有名な配信者だったら美味いもの食ってるから面白いものになるだろう。しっかりアポ取ればたぶん行ける」


とかいうそもそもチャンネル開設したところで、有名配信者に突撃する動画は、一歩間違えれば迷惑系のYouTuberと何の変わりもないことに気付いてなかったのは、響の頭が足りなかったからかもしれない。


とはいえ、彼の人柄の良さ、どんな人にでも低姿勢で接する姿、動画のクオリティの高さに、多少動画の更新頻度は思わしくないが、瞬く間にチャンネル登録数40万人を突破した。


さて、家に入れてもらえた響は、さっそく配信者の食卓へと赴く。


冒頭でも相手が言ったように、この配信者に突撃するのも5回目であり、この配信者に突撃する動画はどれも人気だったりする。


「あ、録画回してるけどOK?」


「ダメって言ってもお前動画撮るやんけ」


「まあそうなんだけど」


「まあいいや。ちゃんとお前の分も用意してるから食べてけよ」


「さすがたくちゃんは違うなぁ」


「いつも言ってるけど、本名の方で言うなや!」


「あ、ごめん。何だったっけ?連敗王さん?」


「おま…まだ2敗だけだわ」


「冗談冗談。それで、今日の晩御飯はなんだよHARU」


「今日はカレー。スパイスから作ってるから美味いぞ」


「まじかよ!!早速食べたいぜぃ」


「よそうの手伝えよ」


「もちのろん」


そそくさとカレー皿にご飯をよそったHARUのカレー皿を受け取り、カレーを注ぎ分ける。

カレースパイスのいい匂いが全身を刺激する。


「美味そう!!」


「だろ!いい感じに作れたぜ」


「じゃあさっそく」


「「頂きます」」


対面で座り、響とHARUが手を合わせる。


「「うまぁ!!!」」


2人してカレーの美味しさに、舌鼓を打つ。

このカレー、スパイスから作っていると言うだけあって、市販では出せないスパイスのうまみがある。


「あ、ナンもあるぞ」


「なんだって!?」


「しばき倒すぞ」


「なんでもないです」


「よし、覚悟は出来ているようだな」


「勘弁してください」


なんて冗談も交えつつ、ある程度食べている動画や雑談を済ませ、響は撮影を終えた。


「よし、撮影終わったよ」


「そうか。じゃあ続き食べようぜ」


「うん。それにしても本当にこれ美味しいね」


「だろ。最初は料理できなかったけど、お前が来るからって料理の練習してたらだんだん上手くなってしまったわ」


「なんかごめんね」


「いい意味で、だよ。本当に嫌ならそもそも最初から断ってるし、自炊するようになって健康にも気を付けるようになったからな。ある意味感謝してるよ」


「嫌ならいつでも言っていいからね?」


「多分お前が突撃してるチャンネルで嫌がっている奴はいねぇよ。今後も投稿楽しみにしてるぜ」


「ありがとう」


「そういや、お前って生配信はやらないの?」


「うーん、あんまり考えてないかな。需要あると思う?」


「めちゃくちゃあるだろ。突撃っていうから、生配信して突撃してなんぼだろ」


「でも、生配信にしちゃうと、映してはいけないところも映ってしまう可能性があるから、女性配信者とかだと迷惑になるかなって思って」


「なんなら、その配信者の家じゃなかったらいいんじゃね?ほら、ダンジョン配信者とか」


ちらっとテレビにYouTubeの動画を映すHARU。


映し出されたのは、美少女がスライムのようなモンスターと戦う動画だ。


「たしかダンジョン産の食べ物は美味いって聞くし、お前もたしかダンジョンは潜れるって言ってたからありだと思うぜ?」


「明日から潜ってくるよ」


「判断が早すぎる!!」


「やっぱり持つべきものは友人なんだなって再確認できたよ。善は急げって言うし、生配信突撃やってみることにするよ」


響の動画は人気ではあるが、響も配信者。

安定した動画ももちろん大事に思っているが、バズってさらにチャンネル登録数を増やしていきたいと思っていた。


「さっそくTwitterで宣伝して明日から突撃してくるよ。ごちそうさま」


しっかり皿洗いも手伝い、響はHARUのマンションを後にする。



さっそく響は、ダンジョンへ向かう。

Twitterにて宣伝もしている為、生配信前だが、待機人数が6万人を超えている。


「じゃあ行きましょうか。今日は有名ダンジョン配信者のあかりさんが配信してるらしいし、心配されたけど行ってみよう!」

 

生配信を開始した響は、ダンジョンへと足を踏み入れた。



これが、伝説の始まりと言われるのも知らずに。

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