俺、王様に斬られる

「王様! 鑑定、防具ときたら、武器も頂戴できないでしょうか?」

「なに?」


 前世なのか来世なのかよくわからない王様に、俺は下手に出てお願いした。彼シャツならぬ王様ジャケ一枚の心許ない姿で正座のまま頭を下げる。


「異世界っぽい聖剣とか英雄の剣とかでお願いします!」

「お前な。資格もないのに聖剣など持てば下手すると持った瞬間に蒸発するぞ……?」


 呆れた王様はバックラーを魔力に戻して消し、片手を軽く自分の胸の前に翳した。

 直後、王様の胸回りに、真紅に輝く光の帯がフラフープのように出現した。イメージとしては土星の輪みたいなやつだ。


 その真紅の光の帯に指先で触れる。と次の瞬間、王様は自分の肩辺りまでの巨大な大剣の柄を握っていた!

 両刃で幅広の刃の剣だ。両手でないと持てないからツーハンドソードと言われるタイプのはずなのに、この王様ときたら片手で軽々持ってやがる!


「え、ちょ、それ何する気ですか!?」


 一歩、二歩、と王様が黒い革の軍靴の底をカッカッと鳴らして近づいてくる。

 ヤバい! 俺は本能的に危機を感じて正座から慌てて立ち上がり、逃げようとしたのだが……

 ――王様が大剣を振り下ろすほうが早かった。


 そのまま脳天からバッサリ斬られた俺は絨毯の上に脳漿や血肉を飛び散らせ……たりはしなかった。

 斬られた感触がない??? でも刃は確かに俺の中にざっくり入ったはずなのに。

 恐る恐る王様を見ると、握っていたはずの大剣が消えている。――剣は俺の中に消えたのだ。


「お、俺、生きてる?」

「私の手持ちの剣の中でも、最も〝チート〟とやらに近い剣を授けた。神人四人と数多の聖女聖者の祝福を賜った究極のプレミアものだぞ。イメージしてみろ」


 と言われたので王様が俺を斬った剣をイメージする。途端、目の前に王様が持ってたはずの大剣が現れた。

 しかも、――軽い。見た目だけなら何十キロもありそうなのに不思議と重みを感じない。持てる重さだ。


「込められた祝福がお前に、不可能を可能にする力を与える。刀身を見よ」


 大剣の銀色に輝く刀身の中央付近に、三つ横に並んだ透明な丸い小さな石が嵌め込まれている。


「ただの石ではない。ダイヤモンドの上位鉱物アダマンタイトだ。究極の魔石でもある。お前の手に余る問題を解決したいとき、一つずつ使うといい」

「それって三つ使い切ったらどうなるんです?」

「そのときは、…………、…………、……………………」


 王様の声が遠くなっていく。いや俺の意識が薄れていったのだ。

 え、ちょっと待ってくれ。まだアダマンタイトの使い方も聞いてないのに……。




  * * *




「おにいちゃ! あさだよ! おさんぽ! やまにいこ!」

「ピナレラちゃん……?」


 俺は朝から元気いっぱいのピナレラちゃんに起こされた。

 うーん。なんか不思議で濃ゆい夢を見ていた気がする……。


「やま! やまだよ、おにいちゃ!」

「ん、ちゃんと早起きしたんだな。偉いぞピナレラちゃん」

「えっへん、なのだ」


 先に寝巻きから普段着に着替えていたピナレラちゃんが自慢げに胸を張る。まだ四歳児のぽんぽんの柔らかそうなお腹のほうが出てるところも……くう、めんこい!

 

「ん? 風が強いな」


 ピナレラちゃんが期待たっぷりに大きなお目々をキラキラさせているので、俺は慌てて布団から飛び起き、今日も作業着の黒いつなぎに着替えた。

 だが家の中にいてもビュービュー吹いてる風の音が聞こえる。こりゃ山に登るのはちょっと無理じゃないか?


「ユキちゃん、起きたのけ。いま清治さんからLINEきてな。嵐になりそうだから早めに男爵さんのお屋敷来てけろって」

「村長が? やっぱり」

「ええー!? あらちぃー? ……ちかたないのだーやまはまたこんど!」


 駄々をこねるかと思ったピナレラちゃんは、やはりど田舎村の住人だ。自然の厳しさをよく知っている。残念そうにしながらも今朝の山登りを諦めてくれた。


「朝は昨日の残りご飯で焼きおにぎりの出汁茶漬けだあ。さ、二人とも早く来い」

「はーい!」


 ピナレラちゃんがよい子のお返事でばあちゃんと一緒に居間に向かう。

 俺も欠伸しながら二人の後を追おうとして。


 ふと、自分の左手を見た。


「バックラー、出てこい」


 すると真紅のもや、魔力が左手から肘の間にもわっと出現して、見る見るうちに丸くて黒い、小剣付きの小型盾が出現した。


「……大剣は家の中じゃ無理だな。畳が傷ついちまう」


 夢でお会いした王様、この御米田ユウキ、確かにチート頂戴しました!




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