俺、幼女ぽんぽんしながら掲示板を見る

「ユキちゃんの好きでええ。ご先祖様のお墓もアキちゃんのお骨もちゃんとあるでな、ばあちゃんは賛成」


 アキちゃんとは、ばあちゃんの次男である俺の叔父の長男で、俺とは同い年だった従兄弟のことだ。

 もう随分と前に事故で亡くなってしまって、ばあちゃんは叔父がもなか村の共同墓地に墓を建てるまでお骨を家で預かってるのだ。

 叔父の家族で少しいざこざがあって、墓は十年以上経った今もまだ建てられていない。御米田家の先祖代々の墓はもうキャパシティオーバーなので、親父か俺の世代で新しいのを追加で建てなきゃいけなかったんだ。そのせいもある。

 従兄弟の遺骨は、ばあちゃんが仏壇のある部屋に大事に保管して、毎日じいちゃんへと一緒に線香を供えていた。もなか村には預ける寺ももうなかったし。

 俺も出勤前、朝だけ仏壇と遺骨に手を合わせている。


 話し込んでいるとあっという間に夜の十時を過ぎていた。

 しばらくはピナレラちゃんが慣れるまで、ばあちゃんの部屋に布団を並べて三人で寝ると決めてあった。

 ばあちゃんはともかく、俺は背が高くてそこそこ身体がデカいので布団も大きめだ。ピナレラちゃんには客用の枕を用意して、俺の布団で一緒に寝かせることにした。


「ピナレラちゃん。ばあちゃん、ピナレラちゃんの新しい枕とお布団作るがらなあ」


 さすがにもう俺が子供の頃の小さい布団はばあちゃんも処分済みだった。

 しかし俺のばあちゃんはな、材料さえあれば自分でワタを詰めて布団を作っちまえるのだ。主婦歴半世紀超え、半端なさすぎである。


 常夜灯のオレンジの薄明かりだけ残して、ばあちゃんも眠り、俺も掛け布団の上からピナレラちゃんのお腹のあたりをやさしくぽんぽんしていた。


 俺はやはりピナレラちゃんのお父ちゃんポジションだな……

 嫁に狙ってるんじゃないかって? おいやめろ、俺はそういう危ない間違いは犯さない男だぞ。俺は異世界チートに光源氏みたいなのは求めてない!


 ………………ロマンスがあるほうの異世界転移だったら良かったなあと、ちょっとだけ思ってるけど。ちょっとだけ。


 ……嘘です、この先良い出逢いがあったらいいなとものすごく期待してるっぺ!

 せめて限界集落のど田舎村を出ないとどうにもならんとは思うんだが。まあ、その辺はおいおい考えていこう。




 心の中で誰ともなく言い訳しながら、俺は枕元に置いてあったスマホを手に取った。

 通信状態を確認する。相変わらず謎電波がつながっていた。


 ネット掲示板の閲覧アプリをタップする。異世界に来てすぐ戯れに開いたスレ『村ごと異世界転移したけど質問ある?』が……随分と盛況だ。もう300過ぎまで書き込みがある。

 スレには『証拠見せろ』『お前は誰だ』など俺の個人情報を要求するコメントで溢れていた。


 少し考えて、俺は自分の氏名〝御米田ユウキ〟と〝もなか村のバイト〟だった事実をスレ主イッチとして書き込んだ。

 信じるか信じないかはお前ら次第だぜ。

 というか、異世界に転移してしまった今、個人情報を隠したままより、すっかり晒しておいたほうが暇なスレ住人たちが勝手にこの不思議な現象について調べてくれると思ったんだ。


 ついでに、スマホで撮った異世界の写真を何枚か画像アップロードサービスに登録してURLを載せた。

 せっかくなので、昼間ばあちゃんに撮ってもらった異世界幼女ピナレラちゃんと俺のツーショット写真も混ぜておいた。


 ……速攻で『幼女と戯れるほうの異世界転移……だと……』『もげろ。もげろイッチ』『幼女とリア充。う、羨ましくなんかないんだからねッ』『おまわりさんこっちです』『逃げて幼女マジ逃げて』『イッチ、イケメン!抱いて!』などの返信で溢れ返った。

 くそ、オカルト板の住人どもめ。イッチおれで遊ぶんじゃありません!


 それからしばらく、ばあちゃんとピナレラちゃんの寝息をBGMにしながら眺めていたが、建設的な意見は今日はもう出なさそうだった。


 ただ最後に俺は一つだけ、ネット掲示板『村ごと異世界転移したけど質問ある?』スレッドの住人たちにお願いをした。



『もなか村には神隠し伝説があった

 それが異世界転移の原因だと思ってる』


『同じような国内外の神隠し伝説を調べてくれないか?

 異世界から日本に戻れる可能性があるのか

 俺に教えてほしい』



 ネットの掲示板は基本的に便所の落書きだが、書き込みする利用者たちの中には時々とんでもない〝在野のプロ〟が存在する。

 どう見ても専門家以上の知識と経験、人脈の持ち主が紛れているのだ。


 俺は異世界転移の謎の解明を、その在野のプロたちの働きに賭けてみることにした。

 さて、結果は出るのか出ないのか。


 お前ら、頼りにしてるぜ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る