その頃、日本では~side元後輩1-1

 オレは鈴木オサム、二十四歳。去年この東京新橋の総合商社に入社した営業部の若手っス。

 いわゆる『ゆとり世代』とからかわれる世代だったり。


 俺にコーヒーを奢ってくれた八十神先輩はそのまま紙コップを持って企画部に戻って行った。

 そんな先輩を、周りの社員たちが遠巻きにヒソヒソ話してはチラチラ見ている。

 あの野郎は自意識過剰だから「僕が格好いいから見てるんだな」とでも思ってるんだろう。違うに決まってるだろ、ばーか。




 ゴールデンウィーク明け。オレが同じ営業部のユウキ先輩から退職すると聞かされたのは、先輩がもう退職手続きを済ませて有給消化で出社しなくなった次の日のことだった。

 周りに聞けば、何でも田舎のお祖母さんの介護を理由に急遽退職することになったと。


 いや待って。急すぎでしょ。かわいい後輩のオレにもなんも言わないでどういうこと?


 オレは適当な都合をつけて会社のビルを出て、のんびり歩きながら新橋から浜離宮へと歩いていった。ここは銀座ほど観光客がいないし、中が広いから意外とのんびりできる絶好のサボりスポットなのだ。

 ……これを教えてくれたのはユウキ先輩なんだけどね。


 途中、コンビニで冷たいお茶と昼飯用のサンドイッチを買い、園内のあずまやでユウキ先輩に電話を入れた。


 結論からいうと先輩、クソみたいな被害に遭っていて。

 しかもあの八十神先輩ってさあ。オレ、入社してすぐにできた彼女取られてるんスよね。まじもげろほんと頼むから死ね。


 ツナのサンドイッチをもそもそ食べながら、社内の同期や仲の良い連中で作ったメッセージアプリのグループに向けてメッセージを送信する。


『ユウキ先輩の退職について詳しい人、教えろください』


 すると数分経たずに集まるわ集まるわ。

 その中の一つには正直吹いた。


『御米田君の元カノから直接聞いたけど、別れたこととその後八十神君と付き合ったことは別々かも。穂波、プロポーズに渡されそうになった指輪のお店が嫌だって言ってたから』


「……なんスかそれ? 『もっと詳しく』と」


『なんかね、バカみたいな理由なんだけど。指輪が銀座の高級ブランドじゃなかったから嫌だったんだって』


 ユウキ先輩の元カノの友達からの報告だ。詳しく聞いてみると、どうも先輩の元カノは元々先輩との結婚をどうしようか悩んでいたと。

 そこに先輩がプロポーズ計画とそのために買った指輪のブランドが気に入らなくて別れたという話だった。

 八十神先輩はそんな元カノにつけ込んで、ついでにライバルのユウキ先輩への当てつけてその後付き合い始めたらしい。




 社内グループからのメッセージには、他にいくつか気になる報告もあった。


『コンペ審査員だったうちの上司が言ってたんだけど。御米田君、配布資料も持参しないで結局プレゼンしないまま八十神君圧勝で終わったらしいんだよね。あの御米田君がだよ?』


「どういうことスか? 表計算ソフトマニアで書類作り大好きなあのユウキ先輩が? 聞いてないよ」


 さっき本人に電話したときは、「コンペ企画を八十神に盗まれてコンペは負けた。その後彼女と別れて、彼女は八十神と付き合うと言っていた」としか聞いていない。

 ……って、しまった。企画を盗まれたってとこをもっと聞いておくべきだった!

 くそ、いつもの癖で軽く聞き流してたわ。あの人いつも説教長いからつい。


「情報、もっと集めてみるっスかね」


 などとのんびりしてたら、その後しばらくしてとんでもない事件が日本中を揺るがした。


 なんとユウキ先輩が帰京した東北の僻村〝もなか村〟が村役場を含め半分以上ごっそり村ごと消失してしまったんス。



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