悪魔は天使を放っておけない

月影澪央

第1話

 この世界には魔法が存在する。そして世界の中心は聖都と呼ばれる都市で、その周りにいくつもの都市が国家として存在している。



 その聖都を支配する王族の家に生まれた双子がいた。


 片方は白い髪。もう一方は対照的に黒い髪。そしてそちらも赤色の目をしていて、これらは両親親族との関係が一切見られない特徴だった。


 それだけならただの突然変異で片づけられた。だがその双子は、赤い満月の日に生まれた。


 古くからの伝承で、赤い満月の日には悪魔の子供が生まれるという言い伝えがあった。ただし、双子の場合は片方が悪魔を抑える救世主となるとされている。そのため、二人は生まれることができた。


 聖都では古くからの伝承やしきたりを重んじているので、もし双子でなければ殺されてしまっていただろう。王族の子であるならなおさらだ。


 だがたとえ救世主がいるとしても、悪魔がいるという不安はどうしても無くならず、二人は軽蔑されるようになった。王族がそんな事態にあってはならないと危機感を持った周囲は、明確な根拠はないが見た目で黒髪が悪魔だと見るようになった。そして幼い救世主が悪魔に染められることがないように、二人は別々に育てられた。


 初めは両親は否定的だった。自分の子供が悪魔なんて信じたくないだろう。だから別々に育てられているとはいえ、一緒にいる時間の方が多かった。


 でも成長するにつれて黒髪の方が攻撃的な魔法が得意になり、聖都を崩壊させる悪魔だという説が強まってきた。すると両親は態度を変え、黒髪は辺境に閉じ込められた。


 そんなある日、黒髪は辺境から抜け出し、聖都の東側に位置する先都せんとに逃げ込んだ。


 先都は聖都の伝統を重んじる風潮を否定する人々によって作られた都市だ。聖都とは別の国で、先都は聖都からの移民を受け入れる裏システムとそれに通じる裏ルートがある。裏といっても、先都としてはそういう人たちのための国ではあるので歓迎はしている。表立ってそれを言うことはないけれど。


 そして黒髪はそのルートを通じて先都に行った。


 先都は聖都とは異なり、技術の発展によって魔法を使わずとも魔法よりも便利な暮らしができるようになった都市だ。高いビルや高度なネットワーク、聖都ではとても考えられないもので、黒髪はとても驚いた。


 この都市では聖都の常識のなかで科学的な根拠がないものは全て否定されている。黒髪が差別されるきっかけとなった赤い満月の言い伝えも否定されている。


 誰も自分のことを知らないこの都市で、誰も自分を悪魔と呼ばない場所で、黒髪は一ノいちのせ春樹はるきという名前で新たな人生を始めた。

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