寝取ってくれるアナタが好き?――まさかの寝取られ希望なのかよ!?――

他津哉

前編――出世と無茶ぶり――


 怒号、悲鳴そして歓声が響き渡る戦場では悲喜交々ひきこもごもの感情が交差する。そして青年と少女の出会いもその中の一幕に過ぎなかった。


「ここまでだ名を聞こう」


 青年は黒の鎧に大小の剣を両手に構えた騎士だ。胸のプレートに騎士団の長である証の紋章が刻まれていた。


「……あなた達に名乗る名はないわ!!」


 少女は敵軍に囲まれながら気丈に振る舞うが、着慣れてないサイズの合わない鎧も戦場を駆けくすんで汚れた金の髪も震え翡翠色の瞳も不安で揺れていた。


「だが可愛い魔導士マギウス殿? ここで意地を張っても時間の無駄では?」


「くっ……なら、この場で殺しなさい!!」


 青年の背後には百を越える兵が控え勝敗は明らかだ。ここ国の要たる王城にも火の手が回り、少女が守ろうとした王国の滅亡は既に確定事項と言えよう。


「それを決めるのは我が皇帝陛下だ……連れて行け一応は女性だ丁重にな?」


「「はっ!!」」


 青年が手で合図をすると控えていた兵士二人が前に出て少女を拘束する。


「くっ、放しなさい!! 放せっ!!」


「部下が無礼を働いたなら私、レオサルス・パッスァーノ第二騎士団長を呼んでくれ、道中の身の安全は保障する……では連行しろ!!」


「無礼者!! 許さない!! 必ず殿下が……ラサムが助けに……」


 こうして最後まで抵抗した魔導士を拘束し戦争は終結する。向かうところ敵無し常勝国ガーナリスタン帝国の大陸支配の野望は進んでいく。そして大国の一つビューリガイン王国は数年に渡る戦で滅亡した。




「は? 陛下、今、なんと?」


「今回の功績で、おまえ明日から将軍な」


「……へ?」


「もっと喜べ出世だぞ~」


 謁見室で主君ガーナリスタン皇帝から言われた言葉にレオサルスは困惑した。騎士団長になり三年弱での出世は異例だった。


「はぁ……ですが、陛下……私の武勲など」


「敵城に一番に乗り込み早期決着させた功労者だ。それで損耗は予定の半分以下だから今日は豪華なうたげができてんだぞ? 城下も賑わってるしな~」


 実は今この城のダンスホールでは過去に類を見ない盛大な宴が行われていた。さらに城下でも盛大な祝賀ムードとなっていた。それに貢献したのだと皇帝は言っているのだ。


「ですが……首級を上げたわけでも、ましてや敵将らを逃しました」


 レオサルスは真面目な男で質実剛健という言葉を地で行くような騎士である。今回も功労者なのに敵将や一部王族を逃がした事から武勲は無いと思っていたほどだ。


「首級は無いが、お前が捕えた女は逃亡中の王子の婚約者だ」


「へ?」


「つまり王族に等しい、今は魔導士隊所属だそうだがな」


 そこで思い出すのは最後まで王城を防衛し魔法で部下達を苦しめていた少女だった。魔法という才が有り戦場で脅威的なのが魔導士という存在だ。


「そんな重鎮……せいぜい部隊長クラスかと」


「そんな御方がお前をご所望だ」


「俺、いえ私を?」


「お前の名を叫び暴れてるらしい、困ったら呼べと言ったんだろ?」


 そういえば言ったなぁ……と思い出すレオサルスだった。捕虜の扱い特に相手が女だから義務で言っただけだと内心で愚痴るが後の祭りだ。


「行かなきゃ……ダメですか?」


「うるさくて苦情が出てる、はよ行け、め~れいだ」


 その言葉でレオサルスは宴を楽しむの諦めた。こんな晴れの日に捕虜の相手は貧乏くじだとガックリし部屋を出た。背後で皇帝がほくそ笑むのを見逃していた。




「早くレオサルス・パッスァーノを呼びなさい!!」


「あ~間も無く来ますから……はぁ……」


 遠くから響く声で早くも回れ右して帰りたくなったが命令だから逃げられない。そして見張りの嫌そうな声にも同情した。


「待たせたな、ご苦労、お前も宴に行っていいぞ」


「レオ団長!! よろしいので?」


「ああ、今日くらいはな、それに二人きりの方が話しやすいからな」


「え? ああ、なるほど……では遠慮なく!!」


 レオと愛称を呼ばれるくらいには顔見知りの見張りの兵は謎の納得をすると宴の会場へ走って行った。気になったが今は厄介事が先とレオは魔導士の少女と対峙した。


「来たわね!!」


「何かご用が? えっと……失礼、お名前は?」


「なっ!? わ、わたくしを知らないの!?」


「会うの二度目ですし……名乗るのを拒否したのはそちらでは?」


 敵国の姫という事前情報しかない上に目の前の少女は名乗らなかったはずだと記憶を呼び起こしレオは答えていた。


「ふぅ、そこまで言うのなら……仕方ない」


「いえ別に――――「わたくしは、ビューリガイン王国のナーガスタン公爵が一人娘ユユラーナ・ナーガスタンよ!!」


 レオの言葉を完全無視し名乗ったユユラーナは今は町娘のような恰好なのに無駄に貫禄があった。これが公爵家の姫様なら納得だと平民出のレオは思い知らされた。


「は、はぁ……ではユユラーナ嬢、本日は何を?」


「決闘よ!!」


「あの~、なんで……でしょうか?」


「わたくしが勝ったら解放しなさい!!」


 予想通り過ぎる答えにレオは早くも呆れていた。姫と言っても小娘だったと嘆息する。だが実はレオ自身も二十三歳の若造なのだが言わぬが花というものだろう。


「受けません……大事な人質ですし」


「くっ、卑怯な!!」


 実はそこまで大事ではないが宴を邪魔されてまで相手をしているから意趣返しの意味合いのイジワルに過ぎない。しかし、この選択が失敗で後悔することになるのだが今はまだ知らない。




「レオサルス将軍、貴公にユユラーナ嬢の世話係を命じる!!」


「は? いま、何と? 陛下?」


 あれから数ヶ月、レオは将軍として忙しく今まで以上に仕事も増え慣れるのにも一苦労していた。その一方ユユラーナから連日のように呼び出しも受けてハードなスケジュールが日課になっていた。


「なんか前もあったな、こんなやりとり……ま、今言った通りだ」


 しくも前回と似た呼び出しよりも皇帝の言葉にレオは困惑した。さらに問題は今回はユユラーナも同席し不可解だった。


「……俺が世話係ですか、陛下?」


「おう、頼むわ!!本人の希望だしな~」


「よろしくお願いいたしますレオ様……」


 そして皇帝の前で猫を被っている隣のユユラーナに唖然とした。普段は令嬢の片鱗すら見せないのに今は完璧な令嬢だからだ。


「どうして……俺が……」


「ふふふ……」


 そのユユラーナの笑みの裏に何か有るとレオは察したが時すでに遅し皇帝の決定は下された。それに逆らうのは騎士として将軍として出来なかった。




「レオ将軍!!」


「なんだ? いや……分かってる、ユユラだな?」


「はい、お願いします」


 そして一年後、帝国はさらに力を増し帝国の天下と言わんばかりの今日この頃だが最近レオ将軍はサボり気味で部下に見つかっていた。


「はぁ、朝から元気だな……」


「当然よ!! 待ちかねたわレオ!!」


 現在レオは旧王国に建造された城砦で任に従事しているのだが一つ問題が有った。将軍として実質的に監視と統治をしているのだが任務にユユラーナも一緒に付いて来たからだ。

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