RBH(Renai Black History)

風間絆名

第1話 消えた男

さて、何から話そうか。

時を戻し、まだ平成になり数年後の、2000年になる前。

20歳のまだ世間を知らない頃、仕事の関係で15歳年上の社長と出会った。

家具屋で働いていた時で、インテリアの展示会でその人と出会った。

コンパクトタイプのお風呂の浄水器という少々あやしげなものを取り扱っており、特に必要性の高いものでもないため、そのブースはあまり繁盛していなかった。


ところが。


暇つぶしに私がそこへ行き座って社長と話をしているとどんどんお客さんが入り、気づけばほどほどに大盛況。

そして百万円近くする商品が売れた。


社長は私のおかげと大喜びで、お礼に焼肉に連れていってくれた。

「君は福の神だ、絶対に手放したくない」

そう口説かれて、関係をもった。

朝帰りして母親にどえらく怒られ、遅い反抗期をむかえていた私は、この頃から夜遊びを度々するようになった。

(もう母親は亡くなってるけど、あの時はごめんなさい)


彼は四国在住だったので、本州の私とは瀬戸大橋を挟んだ遠距離恋愛だった。

当時は携帯電話も普及する前で、今みたいに気軽にメールや電話もできない。

なかなか会えないからこそ、勝手に気持ちに火がついちゃうのでしょうね。


仕事で来る度に会って、いつも決まったラブホに泊まった。

今みたいにオシャレなファッションホテルじゃなくて、田舎の古くさい、車で来て利用するモーテルみたいな。


何年か前、その場所を通ると閉鎖されており、朽ちた建物が廃墟と化し残っているのをみて、なんとも言えない気持ちになった。


その人と連絡をとるには彼の携帯電話か会社に電話をかけるしかなかったのだが、つきあいだして数ヶ月経つと、携帯が全く繋がらなくなった。

心配になり思いきって会社にかけると、出たのはドスのきいた無愛想な男の声だった。

彼の所在を尋ねると、自分は不良債権の取り立てにきたが夜逃げされ探してる、とのことだった。


もしかしてこの人ヤクザなのかも


ただ事じゃない予感がした。


それからしばらくして、自宅に彼から電話がかかってきた。

生気のない声だった。

会社に電話したらこんなこと言われた…と告げると、彼は自嘲気味に笑い答えた。

これから船に乗ると。

「もう戻れないかもしれない」


そんなこと言わないで


私は電話口で泣きながら伝えた。


その後電波状態が悪くなり、電話は虚しく途切れた。


それっきり、彼は消息をたった。


職場の人に彼のことをそれとなく聞いても、誰も行方を知らなかった。

数年後ネットや携帯も普及しだし、彼の会社名を検索してみたが、何も出てこなかった。


その人は私の誕生日に、大きなアンティークの鏡をくれた。

自分の店で扱っていた商品の中で、結構高価なものだったと思うのです。

見る度にその人のことを思い出すから、ずっと実家に置いていました。

突然消えたあの人は幻のようですが、その鏡を見る度に、彼は実在していたんだな、と感じました。

鏡の中に映る自分をみると、隣にあの人が現れそうで、なんとなくあの人は、海に沈められたんじゃないか。

そう思ったりもしました。


朝帰りして親に怒られたとき、

私だって結婚したい人がいる。

そう感情的に訴えてた自分が

今となっては恥ずかしい。

だってその人既婚者だったんですもん。


まだ青臭く、不倫の代償や万が一には慰謝料背負うとか何も知らず、結婚に夢だけみて地に足がついていなかった。

ただ本気でその人と一緒になりたいと思っていた。

そう簡単になれっこないのに。

若い時の恋は、経験が少ない分怖いもの知らずだ。


私の恋愛黒歴史は、ここから始まった。










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