第11話 再就職はすぐに?

 「助手ってどういうことですか?」


 アランさんが何を言っているのか良く分からない。それにオルウェンって誰だ。その人のところで働き口を紹介してくれると言う事か?


 俺は事情を知っていると思われるハンナさんを見る。


 しかし、彼女は明らかに困ったような顔をしている。


 「……本当に紹介するつもりですか?」


 彼女は念を押すようにアランさんに言う。


 「当然だろ? 此奴に今すぐにでも紹介できる仕事って言ったらそれしかいないだろう? それに、あそこならよほどのことがない限りクビを斬られることもない、違うか?」


 「それはそうですけど……」


 なんだろう、ハンナさんは歯切れが悪い。そのオルウェンという人のところで俺が働くのに何か問題があるのだろうか?


 「それよりもハンナ、此奴が読み書きできるのを知っていたのか?」


 「ええ、それはまぁ、請求書をお渡しする時に……」


 「なら言わせてもらおうか、その事を俺に伝えてさえいれば初めからあいつのとこを推薦したと言うのに。あそこの方がどう見てもトーマスのとこよりも此奴に向いているだろう?」


 アランさんは不満げだ、ハンナさんを半ば睨む様な感じで話を進めている。

彼に詰められているハンナさんは瞳を左右に彷徨わせた後、視線を床に向ける。


「それは私もあそこの事が頭に浮かびましたけど、オルウェンさんのとこを初めてこの街にいらした方に紹介するのはいくら何でもアレじゃないですか」


 言い訳をするというよりも、彼女なりに考えが合っての発言の様に思えた。

 

その発言を聞いて、ほんの少しの沈黙と共にアランさんが考えるようなそぶりを見せた。


「……まあ、俺もそう思わなくはない。だが、背に腹は代えられない状況でもあるし、何より案外馬が合うかもしれんぞ?」


 あっ、ハンナさんの言うことを否定“は”しないのか。


 「それにあいつが悪い奴じゃないのは知っているだろう?」


 話を逸らすようにアランさんは言う。


 「それは、そうですけど……私も週に何度か一緒にご飯食べますし……」


……何だろう、ここまで話を聞いて、オルウェンの事をこの二人はよく知っているということは分かった。


 だが、それ以上にこれから紹介される仕事先に何か、問題がるような気がしてならない。


 でも、無職でいるわけにもいかないからなぁ。


 「カズオさん、先にしっかりとオルウェンさんのことを、彼女の仕事についてちゃんと確認した方が良いと思いますよ? あっ、でも別に彼女が駄目とかそう言うんじゃないですよ! ただちょっと、クセというか何というか……」


 何かを伝えようとするハンナさん。ただ表現を選んでいるのか、どうにも言葉がうまく出てこないようだ。


 俺は片手を前に出して、心配ないと言うジェスチャーを見せると共に、今思っていることを言う。


 「ハンナさん、色々と何かある職場なのは今までの会話の流れで分かっています。でも、僕はこの話を受けるつもりでいます。せっかく紹介していただいた仕事を最後まで完遂出来なかった僕に、アランさんが新しい仕事を紹介してくれると言うのですから乗らないわけにはいきません」


 「そう……ですか、分かりました。私も変にお止めするようなことを言ってすみません。そうですよね、何事もやる前から否定するのも良くないですよね! それに、まぁ、たぶん、大丈夫でしょう、うん! 私からも彼女に言っておけばいいわけですし!」


 ハンナさんは自分を納得させるように「ウンウン」と小さく呟くと、両手をパンと合わせて笑顔を見せた。


 「分かりました!では、オルウェンさんに伝えてきますね。今日もまだギルドにいらっしゃると思うので!」


 そう言うとハンナさんは踵を返してパタパタと足と音をたてながら奥に引っ込んでいった。


 「ありがとうございます。アランさん、まさかすぐに仕事を見つけてもらえるとは思いませんでしたよ」


 「そうか?」


 アランさんは片手にジョッキを持ったまま返事をする。


 「ええ、僕としては最悪、野宿することも頭に入れていましたから」


 「そうか、それなら良かった……」


 「アランさん?」


 なんだろう? さっきまでは良いことを思い付いたとばかりに嬉々としてオルウェン……おっと、これから仕事先の上司になるのだから心の中でも“さん”付けすべきか……オルウェンさんのとこを紹介していたというのに、今になって急に気まずげな雰囲気を醸し出しつつ僅かに俺の視線を避けるようにしているように見えるけど……?


 俺がハンナさんと話している間……から段々とそう言う風になっていたような、まぁ気のせいだろ。


 ジッと見ていたら、アランさんはジョッキをグッと傾けてエールを全て飲み干すとドンと効果音の文字が見えるほど音をたてながらジョッキをテーブルの上に置き、酒臭い息を吐いた。


 「さて、そろそろテオードリヒも戻ってくるだろうし、俺も一度部屋に戻る」


 そう言うと、アランさんはスッと席を立ち、俺に背中を向ける。


 「まぁ、何だ。色々と気になることもあると思うが、トーマスのとこよりは向いているのは間違いない。それと……もう一度言うが、悪い奴じゃないんだ。それだけは、な。覚えておいてくれ」


 アランさんは言いたいことを言えたのか、俺の返事を待たずにギルドを出て行った。ここでテオードリヒさんを待つんじゃなかったの?


 そしてだだっ広いギルドに一人俺は残された。


 まぁ、とりあえずは新しい仕事が見つかったってことでよしとするべきだよな……でも、そんなに何度もオルウェンさんの事を言われると気になるんだけど。


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