15.「やっぱり腰巾着じゃないか」
その壁を寄越して来ただろうものへ振り返る。
あのくす玉モドキが、子供が手放してしまった風船みたくふらふら宙を漂いながら、被った黒いボロ布の下から伸ばした管を束ね私達を阻んでいた。
背中が冷える。
何故戦力外となった
管の壁が爆ぜ、私と
手数は凄まじいが矢張り鈍い。ベタベタと纏わり付いて来る鬱陶しさに、私はくす玉モドキへ向き直り向きながら
「やっぱり私が引き受けます」
言いながら横に払った木刀で接近して来た管を折る。
背中越しに
もう夜と言っていいぐらい弱まった陽光に照らされるその姿に連想する。強度は知れているので木刀を振り上げるが、嫌な静けさに辺りを見た。
他の管が停止している。
また背中が冷えた。今度はその原因が分かる気がする。
海から来た神々の中に、一体妙な奴がいた。あの仏像モドキ。あいつだけが仲間の死体に紛れて奇襲を狙うという、頭を使った動きを見せていた。とは言えすぐにくす玉モドキが現れたから、くす玉モドキがこの群れを率いる一個体だろうと思った。でも奴は今、
もしや今回の〝
古くからこの地を守り名を馳せて来た
今年の〝
なら、
粘着質な声が嘲笑う。
「やっぱり腰巾着じゃないか」
くす玉モドキの胴から電柱何本分かも分からない太い腕が三本突き出て、胴を黒いボロ布諸共左右へ引き千切った。破れた胴から毛糸玉のように密集していた管の塊が零れると、三本の腕ごと宙へ投げ出される。三本腕は胴と同じく毛糸玉を引き裂くと、露わになったその身で市街地に降り立った。
それは杭を打たれた両耳から血を流す、禿げ頭の巨人。その身丈はこの町のどのビルよりも高い。だらしなく開いた口から垂れる舌は膝の前でぶらぶら揺れ、右の肩甲骨辺りから生える三本目の腕の重みで姿勢が悪い。右へ傾いている身体に、くす玉モドキが被っていた黒いボロ布が、法衣のように纏わり付いている。坊主の怪物みたいな巨人は傾く上体を持ち上げると、白濁した目を私に向けた。
ただくす玉モドキが壊されたので、投網のような管も跡形も無い。自由になった私はそれでも、軽々に動く気になれないでいる。私が足場にしているビルより背が高く、巨人の背後に立っているビルの屋上から、こちらをニタニタ見下ろして来る
「そこで土下座して僕に謝罪しろ。そうすればこいつを引っ込めてやる」
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