ギャルにフラれて陰キャになった俺の前に純真な天使が現れた

第5話 天使に挨拶

　翌日、朝から昨日の出来事で凹んででいた俺は思わずため息が出てしまう。

「ため息なんて珍しいな。どうした？」

　ハカセが聞いてきた。

「いや、実は昨日、前田紗栄子のところに来ていた三枝を追い返したんだよ。それで感謝されると思ったんだけどな」

「ふむ」

「前田さんは俺の名前すら知らなかった」

「ははは。そりゃそうだろうな」

　ハカセは笑った。

「なんでだよ」

「だって、今まで話したこと無いだろ」

「それはそうだが。俺、学年２位だぞ」

「前田さんは気にしてないだろうな。順位表もいつも素通りだし」

「そうなのか？」

　そういえば、順位表を張り出しているところで三枝とはよく遭遇しているが、前田紗栄子のような子は見た記憶が無い。

「相手して欲しけりゃ、絡んだ方がいいんじゃないのか？」

「うーむ、相手して欲しいわけじゃないが、ライバルの名前ぐらいは知っておいて欲しい」

「ライバルと思われていないんじゃ」

「言うな。悲しくなる」

「ハハ」

　俺は打倒・前田紗栄子で頑張っているのに、全く意識されていなかったか。

　少しは意識されたいもんだ。仕方ない。まずはちゃんと挨拶に行こう。

　俺は立ち上がると、前田紗栄子の席に向かった。

「あ、中里。なんか用？」

　昨日のことがあったからか、小島は俺を追い払おうとはしなかった。チャンスだ。

「前田さん」

　声を掛ける。前田さんは俺を不思議そうに見た。

「俺、中里蒼なんだけど。分かる？」

「えーと、昨日助けてもらったのは覚えてるよ」

「あ、そうじゃなくて。俺、学年２位なんだ」

「あ、そうなんだ」

「……」

「……」

　会話が止まってしまった。

「あの、前田さんが学年１位だよね」

「うん」

「……」

「……」

「中里――何の用なの？」

　小島があきれていう。

「いや、あの挨拶というか、何というか」

「挨拶？」

「あ、もし勉強で分からないことあったら俺に聞きにきてくれ」

「あのね、紗栄子が学年１位なんだけど？」

　小島が俺をにらむ。

「あ、そうだよね。俺に聞く事なんて無いか。ははは」

　完全にパニクってしまった。

「ふふ。なんか面白い人だね」

　前田さんは笑っていた。

「いや、あの……じゃあね」

　慌てて逃げてきてしまった。

「お前、何やってるんだ？」

　ハカセにあきれられてしまった。はあ。結局ため息が出た。