fight26:空手はやめません。

「私は空手をやめてから、あのトラウマを忘れる為に色々な趣味を講じたり、学級委員の責務を全うしました。それはそれでいい思い出になったかもしれません。」

「ならば、何故忘れられなかった。」

「思い出したんです。蓮火が空手部と闘ったのを見て、口元が笑って、嗚呼、なんて素晴らしいんだろうって。今まで、何でそう思ったのか分からなかった。その後、蓮火と闘って分かったんです。私、彼女に惹かれていたんだって。」

 突然、自分の名を呼ばれた蓮火は一時驚いて目開くも、その告白の意味を知って、すぐに頬を赤くした。

「かつての私、空手が好きで、強い人と闘うのを楽しみにしてた私と重なってたんです。そんな蓮火となら、私はどこまでだって行ける。もし、私の暴力の魔を抑えてくれる。そして、修羅となった私をってことを。だから、私は空手をやめません。」

「奈緒!? 殺すってそんな大袈裟な!?」

 奈緒を殺すかもしれないという事実に頬を赤たはずの蓮火は一瞬で青ざめた。

 そんな蓮火を額を重ね、宥める奈緒は彼女を抱きしめ、こう諭す。

「私を目覚めさせた責任は取ってもらうわよ。」

「ちょっ、奈緒!?」

 突然の急接近に驚く奈緒は再び赤面し、それを見届けた炎焔は彼女たちに背を向け、去っていく。

「そうか、なら良い。ならば、蓮火。これからは彼女の家に居候しろ。ここは学校に遠過ぎて、非合理的だからな。」

「ちょっと、お父さん!? 待って!? 待ってってば!?」

 蓮火の悲鳴も聞かず、炎焔はせっせとその場を後にした。


 縁側に来ていた炎焔はそこに胡座をかく、この家の大黒柱である炎魔に声を掛けられる。

「相変わらず、変わっておらんのう、格闘嫌いの息子は。」

「別にいいだろう。格闘が嫌いなのは俺の性分だ。」

「儂から見て、彼女らは長続きするぞ。」

「そして、その分の苦難が待っている。俺や親父の闘いの日々のようにな。」

 そう二人は言い、月を眺めた。


 翌朝、試合当日の早朝、山の頂上をヘリポート代わりの広い平地に炎焔の職場のヘリコプターが来ていた。

 試合に意気込む鉄輝一心、実況と解説に再び挑むことに緊張する穂宮呂夢と清王児、そして、鬼門蓮火が鋼原奈緒の手を掴み、誓う。

「昨夜の会話は色々あって、眠るまで考えました。だから、言います。奈緒を絶対に殺しません。あなたを絶対に修羅にしません。」

「分かったわ。なら、始めましょう、私たちの闘いを。」

 こうして、格闘技女子部、もとい略して、格女部の初めの闘いが幕を開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る