第20話:入学式
入学式当日のこと、新入生達は王国の劇場のような場所に集められて始まりを待っていた……そんな中、首席である俺は壇上の裏にいて職員や校長であるニーアさんの話しが広げられている。
「やべぇよ、話とか全く固まってねぇ」
入学首席になったせいかニーアさんから自由に挨拶をしろと五日ほど前に言われたが、この瞬間になるまで固まっておらず……割と胃が痛い中で今過ごしている。
これが戦闘至上主義! みたいな世界観の学園なら良いのだが、ここは一応乙女ゲーの女性上位の学園。王太子のような圧倒的なイケメンで話が上手いのならいいのだろうが生憎俺は割と口下手だ。
一応魔法によるパフォーマンスも考えたが……俺の魔法属性は闇。
他者を魅せられるような魔法が殆どなく煌びやかな技など一切ない。どれもが殺傷力に特化しておりこんな場所では使えない。
「さぁ次は首席合格者カグラ・ヨザキ君による挨拶だよ。ここにいる皆には彼の魔法を体験して貰うじゃないか!」
――まっ、ちょニーアさん!?
挨拶で悩んでいたのに加え魔法は無理だと思っていたのに……それをやれとか正気じゃない。というかこんな場所で使える魔法とか本当に限られていて……一応あるにはあるがそれを使うのは危険なような。
『これ念話ねカグラくん、とりあえず劇場の屋根に撃って被害の少ない奴で頼むよ』
『無茶すぎるだろ、こういうのは鏡月みたいな綺麗な魔法使える奴の方が良いって』
『一応あるだろう? 怨鎧髑髏を倒したあれさ!』
『えっと、屋根って開けること出来ます?』
『勿論さ、ここは私が作った劇場だからね。その代わり威力は抑えること、あれを本気で放たれたら普通にやばいから――一応別空間には送るから安心してね』
「――了解です」
そこまでやってくれるのなら俺も魔法が使えると判断し、そして念話を終わらせる。そして俺は壇上へと歩を進め、イザナを抜刀して魔力を練った。
「――黄泉坂下りて罰を成し、祟り蝕み咒を喰らい星は瞬き命は廻る」
そして一言一言に術を編み込み、俺は明確な効果を魔法に籠めて――そして劇場の屋根が開き晴天が見え――瞬く間に空に闇が広がった。
広がる闇はまるで夜空のようで、その闇の中には幾つもの星が瞬いている。
――だがこの魔法はこれで終わりではない。ただ単に綺麗なだけの魔法は必殺にはなり得ないのだから。
「闇夜に焦がる愚者の果て、天地太極夢うつつ、虚空の果てに願いを託す」
本来これは闇空を展開している間に俺が敵意を持った者全てに凶弾を放つ魔法なのだが、こんな場所でそれは使えないのでやるのは最終段のものだけになる。
効果としては倒した魔物から魔力を吸い取り巨大な一撃を放つものだが、今は敵がいないし魔力も十分なのでこれが使えるだろう。
「これは闇空を切り裂く
そして闇を晴らすように――箒星が落ちてくる。
瑠璃色のその星は、誰に当たるものでもなくキラキラと輝きながらも姿を消していき今の魔法がなかったように静寂のみが支配した。
あれ、やり過ぎた? そう思ったのも束の間、大歓声というか拍手のみが一気に場に満ちた。
「さてこれが首席。カグラ・ヨザキの魔法さ――これからの三年間、彼はきっと君達の目標になってくれるだろう」
そしてそう締めくくられて入学式が終了した。
……拍手するものの中には、当然だが主であるシズクがいて、友人である滄波はやり過ぎた俺を見て笑ってるのか楽しそう。鏡月は腕を組みながら笑顔を浮かべていて、何を考えているかは分からない。
というか呆けてたせいで聞き逃したけど、ニーアさんはなんて言ったんだ? え、俺が新入生の目標? 本当にちょっと待ってほしいんだが……。
そしてどうしようかと迷っている中、偶然目にした見覚えのある女子生徒の姿を見つけた。長い金の髪をした碧眼の少女、一見すれば貴族の令嬢に見えるほどの容姿を持っているが、この場に慣れてないのかおどおどとしているそんな子。
「本当に始まるんだな……」
そんな彼女を見て、改めて動くストーリーを思い……俺は気を引き締めた。
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