第16話:中華風悪役令嬢@皇帝を添えて
主要の三国に囲まれているアステール大陸。
その中心に位置するアステール王国に俺とシズクは足を運んでいた。
このアステールという国は世界有数の迷宮保有国であり、魔物……この大陸で言うところのモンスターが多い代わりに資源や鉱物などが豊富でかなりの強国だ。
そんな国のアステールという都市はファンタジー基準の場所であるものの、その豊富な資源と大陸に満ちる魔力によって電気や下水なども整っていて、見た目は中世風のファンタジーだがかなり近代的な都市である。
船旅約五日、実技試験があるとはいえそのぐらいだったら和国で行えば良いのにと少し愚痴りながらも、船の発着場に立つ。
試験当日ということもあってか、和国や他の国の貴族達が集まっていてかなり賑やかになっていた。そんな中で俺等に注目が集まるが、それは慣れてしまったので封津にシズクと会話する。
「やっとか。シズク、船旅はどうだったか?」
「退屈ではなかったわね、外国に行くのは久しぶりだもの――
「その話は……あんまり、掘り返さないでほしいだが」
「ふふ、嫌よ。まだあれに関しては怒ってるんだから」
「俺は悪くないと……思いたいぞ」
船から下りて早速シズクに話しかければ、返ってきた言葉に微妙な反応をしてしまう。主要三国のうち中華ファンタジーを参考に作られた羅華という国、そこにはある用事で一年ほど前に行ったのだが、そこでちょっとやり過ぎて黒歴史が出来たのだ。
「そうね、確かに貴方は悪くないわ。全部あの
どうしよう主が怖い。
理由はなんとなく分かるが、あの人は完全に俺で遊んでいるだけだろうから――そこまで気にしなくてもいい……ような。
「何考えているか大体分かるけれど、本人もそろそろ来るだろうから聞けばどうかしら?」
「……今日来るのか?」
「えぇ、和国と羅華の試験日は今日だもの――どうせすぐ」
そこまでシズクが言ったときだった。
急に場に冷気が満ち始め――騒がしかったこの場所が静まりかえる。
……その現象に誰が来たのかを察して、振り返ればそこにはシズクとは違うベクトルの美少女……というか美女がいた。
「相変わらずね、あの子」
白く着物に近いような道士服を身に纏った白銀の髪を三つ編みに束ねた美女。
虚ろながらも吸い込まれそうな淡い色の瞳の彼女は、その衣服も相まって鶴を擬人化したようなイメージすらある。
「あー久しぶり?」
「久しぶりだなカグラ、我は貴様が元気そうで嬉しい」
挨拶しないのも不味いので俺は彼女に声をかければ、彼女は旧友に会ったかのように少しの歓喜を含ませたような声音でそう言って――次の瞬間。
より近づいたかと思えば、俺を急に抱き寄せてきた。
抱かれて感じるのは冷気の寒さと柔らかさ、何とは言わないが色々大きい彼女の感触を感じながらも逃げようとするが、力が強い彼女の抱擁から逃げるのは魔法を使わないと無理。
「この暖かさ、本物はやはり違うな」
「離しなさい雌狐、カグラは私の物よ」
「むぅ……前々から言っておるが、そろそろ我に譲ってくれても良いだろう?」
「嫌ね、絶対に嫌よ――寝てから吐いたらどうかしら、その妄言」
「怖いな、こんな気性の荒い娘より我の方が得だぞカグラ? ――それに、ふっ」
「ねぇ今何を見て笑ったの死にたいなら言ってくれれば良いのよ?」
俺を間に挟みながら喧嘩をするのは止めてほしい。
割と切実に魔力が迸っているし、何よりシズクの感情に呼応して影の式神達が出そうになってる。何よりこんな場所で問題起こしたらやばいので止めたいけど、俺が暴れたときが一番最悪だし。それに本当に力強くて逃げられないし……これじゃあそろそろシズクが限界に。
「というか貴方はいつまで抱かれてるの?」
「悪いな和国の姫……やはりカグラは我の方がいいそうだ」
「貴女には聞いてないわ。早く離れなさいカグラ」
「――なぁ鏡月離してくれ、そろそろ不味い」
「仕方ない……貸し一つだぞ、学園に入ったら我の部屋に来ると良い」
「行かせるわけないでしょう?」
離してくれたけど、やっぱり二人は一触即発状態。
このカオスな魔力があふれる空間で仲裁しようという勇者は現れず、俺が宥めるも火に油を注ぐだけなので何も出来ずにいた。
「そこまでだよ鏡月? これ以上は危ないだろう?」
「む……
「君らの魔力を抑えるために結界を用意してたんだけど? ――それと、相変わらず大変そうだねカグラ。友人の僕としては見てて楽しいよ」
「……もっと早く止めてくれよ」
今現れたこいつの名前は滄波――すっごくわかりやすくいえば、羅華の未来の皇帝であり、俺と同じで『徒カネ』の攻略対象だ。純粋な魔法特化な人物で、サポートから攻撃までこなせる万能タイプの一年ほど付き合いのある友人だ。
そんな彼……そして鏡月は中華ルートの主要メンバーであり、なんならヒーローと悪役令嬢という立ち位置だ。
本来ならそんなに早く出会う予定ではなかった彼等だけど、シズクの人脈のおかげかある事件で出会い、今では文通する仲でもある。
「ははっ、だって君が困っているのを見るのは楽しいからね。被害だけを抑えるのはしたけど、種をまいたのは君なんだからさ、存分に困ると良いよ」
「俺は悪くねぇよ」
「果たしてそうかな?」
……その返しに何も言えなかった俺は、顔を逸らしてから話題を変えることにした。そろそろ試験も近づいているし移動しないと不味いと思ったからだ。
「まあ改めてになるんだが、久しぶりだな二人とも。元気そうでよかったぞ?」
「うん、僕も君に会えて嬉しいよ」
「――我も同じ気持ちだ。貴様と過ごせるだろう学園での時を楽しみにしよう」
そうやって俺は友人である二人と握手をし、試験会場に向かうことになった。
俺が受けたのは最上位クラスの試験、筆記が心配だしそれ相応の実技が行われるだろうが……首席を取らなければいけないので今から気合いを入れよう。
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