彼氏のフリをしてと言われても。~姉気取りの幼馴染は今日もオレに甘えてくる~
遥 かずら
第1話 もらえちゃう?
「何でそんな眠そうな顔なの~?」
「実際眠い……ふわぁ」
「あぁ、昨夜はお楽しみだったからだね? うんうん、分かる、分かるよ~」
「アホか! 何にもしてないだろーが!」
朝からアホっぽい発言をする奴……いや、誤解を招きそうなことを言ってるのは、年上の幼馴染にして無駄に美少女な
もちろん、昨夜の俺は何も楽しんでいない。そう断言出来る。
間違っても幼馴染――それも押しかけの姉気どりな奴に手なんか出すわけが無いからだ。
「そんなこと言わずに隣を歩く美少女なあたしを見なさい!」
「アホの桃未が見える……」
「いやぁ、照れますねぇ」
「褒めてねーよ!」
普通であれば姉と弟が仲睦まじい姿を道行く人々に見せつけるのは、決しておかしなことじゃない。
――ただしそれは、ごくごく普通の姉弟の話に限る!
「さぁ、可愛いお姉さま……ではなく、あなたの隣をキュートに歩いている美しき彼女さんはキミの飛び込みをこのふくよかな体で迎え撃つ! さぁ、思いきり来たまえ!」
迎え撃っちゃ駄目だろ。ふくよかなっていう表現もどうなんだ?
年上幼馴染の諸積桃未は色々とおかしい。いや、かなりおかしな状況を世の中に作り出している。
桃未はすでに高校を卒業し、本来なら俺と通学を共にすることは無い――が、同じ高校にいた頃から彼女の近くには常にあわよくばを狙う男の気配があった。
何故なら美少女コンテストに駄目元で出たらいいところまで行った……という実績があるからだ。もっとも、桃未が出たコンテストは当時一番レベルが高いものだったらしく、優勝者は桃未のさらに上を行く最強美少女だったとか。
しかしこいつも黙っていれば無駄に美しさがあるだけに、「俺と付き合って!」とか、「運命って信じる?」とか言われまくりだ。
確かに清楚そうに見えなくも無いが、そんないいものじゃなくその正体は、断る言葉を上手く出せず――いや言葉を知らない?
ということもあり、ひたすら女神のような微笑みを繰りだすだけで無駄に男を寄せ付けているというだけなのが真相である。
その悪影響は俺にまで及び……。
二年の頃、俺は好きな子がいた――いや付き合っていた子がいたが、その子はとても多忙でタレント養成所に通っている関係。それが自然と疎遠になったうえ、桃未がしょっちゅう俺の近くにいるので誤解してそのまま自然消滅。
その子は桃未の後輩だったのにどうしてこうなった。しかも俺との関係が終わってからは、世話焼きの方にシフトしたようで桃未を狙う男がいたら守ってあげなさいとまで言われてしまった。
えらい誤解のされようだった。
しかしその子の見る目は本物だったようで、桃未をナンパする男たちの影が見えるようになった。もちろん隠れたスキルとかではない。
だが、群がる男たちがすぐに引き返すほどの問題が発覚する。それは桃未から発せられる言葉のほとんどが失意と失望を与えるような発言の数々だったからだ。
不思議なセリフのオンパレード――不思議ちゃんといえばいいだろうか。
「キミキミキミ! お待ちあれ!」
「何だよ? 桃未」
「ノンノンノン!」
桃未は人差し指を左右に激しく動かし残像を作り出しながら、
「お姉さまとお呼び!」
「お、おい、それは色々と世間的に誤解を招くぞ?」
しかし俺の言ってることなど聞きもせずに。
「モヤシ、味噌、チャーシュー、湯気! いやいやぁ、そこ行く少年よ! あたしと恋が出来る甘~い味噌ラーメンを食べないかい?」
……などと言い放つ。これが桃未が不思議系と呼ばれる証拠のセリフである。そもそも何で俺と恋をすることが前提になっているのか、全く意味が分からない。
「食ったばかりで腹が減ってない。そんじゃ行くわ……」
怪しげな発言をし出したので、俺はその場を離れて容赦なく桃未と距離を取り、ついでにどこかに行こうとするが。
「まてぇぇぇぇい!!」
……などと見知らぬ通行人が思わず振り向くほどの奇声を発しながら、全力疾走で追いかけて来る。
俺もそこそこ足が速いはずなのに、桃未は俺の肩をガシッと掴んだかと思えば吸着でもあるのかのように全然離してくれない。
「おねがぁぁい! ……が、ありまして。わが愛しのumaくん。どうかどうか、この悩めるお姉さんの彼氏となりたまえ!」
「おい、やめろ! 俺は未確認生物じゃないぞ!
ええい、話にならねえ。こんな奴は無視して行ってしまおう。
「待って待って~! 真面目な味噌ラーメン奢ってあげるからぁ。食べるまででいいから、彼氏のフリをして欲しいのですよ。ヘルプみぃー!!」
真面目な味噌ラーメンって何だよ?
「……そうやって誰にでも甘い声を出して脈ありを思わせるから駄目なんじゃないのか?」
「それって、悠真くんをもらえちゃう意味かにゃ?」
「違う!!」
うぜー。もう駄目だ、もう我慢ならん。
相手をするのが面倒になったので強引にその場からいなくなろうとするが、
「待ってよぉ……。悠真くんは桃未お姉さんが嫌いなのぉ?」
桃未は祈りのポーズをしながら甘えた声を出してくる。
くっ……どこから出したその甘えた声。普段も高い声ではあるがこんな甘え声は聞いたことが無い。
しかしこの甘えた声は多分、俺だけに聞かせてきているはず。それだけじゃなく数々の甘えた言動、ツンデレではなく常に懐いてくるネコのような可愛さは思わず油断で可愛がってあげたくなる。
「しょうがない、普通の味噌ラーメンを食べるくらいならいい。それに嫌いじゃないわけだし……」
「やっふー! ラーメン、ラーメン! 彼氏ゲット、ゲットマネー~!!」
「……何? マネー?」
「悠真くんは将来的にお金になるではないか! その意味だよ? 本当だよ?」
……どこまで本当のことなのか意味が分からない。しかし道の真ん中でこれ以上変な言葉を生み出されても厄介だ。
ラーメンを食べてる間だけでも彼氏のフリくらいならしてやるか。
「分かった分かった」
「イエス! 悠真くんは最高だよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます