簒奪の魔女〜全てを奪われた少女は、加護《捕食者》の力で全てを喰らい、復讐を願う。
@coco8958
始まりの前
――――――――――――
夢を見ている。
昔の幸せだった頃の記憶だ。
師匠――いや、母との記憶だ。
「お母さま、次はどんな魔法を教えてくれるの?」
私は、ローブに身を包んだ淡麗な顔立ちの彼女に声をかける。真紅の髪を持った、優しげな雰囲気を纏っていた。
この頃は、私も今よりずっと幼かった。
本当に幼かった。
「お母さま……ですか。センセイと呼んだり、師匠と呼んだり貴方は大変ですね」
「いいじゃん。お母さま、と言うか――カルディナは本当にお母さまみたいなものだし」
私はそう言って、
「そう言ってくると嬉しいですよ」
お母さまは、それに応える様に優しく頭を撫でてくれる。
嬉しかった。
そう、嬉しかったんだ。
あの、身寄りのない私に初めて優しくしてくれた人。親がわりになってくれた人。
「二人は、本当に仲がいいですね。まるで本物の親子みたいです」
そう声をかけてきたのは、この小さな屋敷で働いている唯一のメイドだ。
リッタという名前で、私も仲良くしていた。
「うんっ、お母さまとは、本当の親子だよ」
私はそう言った。あの頃は――いや、今もそう思っている。
「そうですね。セリは私と自慢の娘です」
お母さまはそう言ってくれた。
なんで、そんな優しい人が惨たらしく殺されなければいけなかったのだろう。
「これから少し診療で町に行ってきます。魔法を教えるのはその後でいいですか?」
「うん、早くかえってきて帰ってきてね」
「えぇ、勿論です」
お母さまは《加護》の力で、人々の病や怪我を治癒をしながら町外れの小さな屋敷で生活していた。
私はそこで、弟子という名目で一緒に暮らしていたが、事実上親子だったし、町の人達にもそう思われていた筈だ。
次に会う時、お母さまがあんな姿になっているとは思うわけも無かった。
これがセリの幸せだった最後の記憶だ。
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