勝ち組 side:ウィル8
この世界に、そして、我が愛すべき故郷、地球に生きとし生きる全ての尊き童貞達よ。
すまない、今日この日、俺は童貞ではなくなった。(いえ、童貞です)
しかも、俺はそこら辺で童貞を捨ててきたモブ達とは違う。
俺はこの世の頂点とも言える絶世の美女を手中に納め、この世界における究極完全体の勝ち組となった。
ありがとう、神様。バンザイ、神様。
なんだかんだであなたは俺の願いを叶えてくれるんですね。
もう顔の件も許しましょう。
俺達一向は王女様を連れて、応接間へと移動していた。
座り方としては、右にオルトス父さん、左にイレーナ母さん、
真ん中に俺、そして、その対面が王女様といった感じだ。
席に着くと、この場にいる誰よりも先に王女様が口を開く。
「改めまして。ウィルミス・フォン・シュタイン様、並びにイレーナ様、オルトス様、
今日は父の突然の願いを聞き入れてくださり、誠にありがとうございます」
俺と同じ歳と聞いていたが、そうとは思えない程、丁寧な口調でそう言って頭を下げる王女様。
それに続いて後ろに待機しているブラックスーツの方達も頭を下げる。
「ど、ど、ど、どうか頭をお、お上げください、セ、セレス様。
私共一同、きょ、今日という日を心からお待ちしておりました」
10歳の子がハキハキと喋る一方で俺の隣で甘噛みしまくる38歳。
こんなにも情けないオルトス父さんは初めて見た。
…………今度なんか困った時はこのネタを持ち出して強請るとしよう。
「どうかそんなに緊張なさらないでください、オルトス様。
以前からオルトス様は非常に頼りになる方だと伺っていたので今日は敢えて光栄です」
「っ、そ、そうですか!それはこちらとしても光栄の至り」
はぁ。オルトス父さん、見事に王女様の手のひらで転がされてるな。
誰も国王様が言っていたなんて言ってないのに絶対に勘違いしてるよ。
「イレーナ様も相変わらずお綺麗で羨ましい限りです。
以前、母がどうしたらあんなに綺麗でいられるのかとぼやいておりました」
あっ、そっちはちゃんと言ってたのね。
「ご冗談はおやめください、セレス様。私の方こそあの美の秘訣を伝授して頂きたいくらいです」
うん、やっぱりこっちが正しい返しだよな。
流石、イレーナ母さん。
「是非いつかイレーナ様と母と私の3人でお茶会でも」
「えぇ。是非」
2人に軽い挨拶が終わり、とうとう王女様の関心が俺に向けられる。
さて、俺にはどんな事を言ってくるんだ?
さっきの挨拶を除けばこれが王女様から俺に贈られる最初の言葉。
これは俺達の行く末を決めると言ってもいい。
そんな、彼女の第一声は…………、
「ウィルミス様、なんだかいきなり大変な事になってしまいましたね」
そう苦笑しながら、でも、なんかちょっとだけ嬉しそうに告げる王女様。
その笑顔に俺のハートが撃ち抜かれたのは言うまでもないだろう。
「ですが、私としては父に婚約の話を聞かされた時からこの日を待ち侘びていました。
王宮にいて神童と謳われるウィルミス様のお話を聞かない日はない程なので」
「俺……じゃなくて、私も王女様のお噂はかねがね耳に致しておりました。
なので、今日はお会いできてとても嬉しく思います」
まぁ、実際はちょっと前に2人から聞かされただけだけど。
「ふふっ、そうなんですか。私達、気が合いますね」
「っ!?」
き、気が合いそうだと!?
これはもうプロポーズなんじゃ!?
いやいや、落ち着け、俺。まだ早いぞ。
早い男は嫌われる。重要なのはタイミングを合わせることだ。
「あの、オルトス様、私から少し提案があるのですが」
ん?
俺が馬鹿な事を考えていると、王女様がオルトス父さんに向けてそう告げる。
提案?さっき着席したばっかりなのに?
「先に少しだけウィルミス様と2人きりでお話させてもらうことは出来ないでしょうか」
「「「「「っ!!?」」」」」
王女様のその突然の提案に俺だけではなく、オルトス父さんもイレーナ母さんも、
なんならあっちの執事やボディガードの方達まで驚く。
ふ、2人きりで話したい!?(話したいとは言ってない)
さ、さっきはちょっとイキっちゃったけど、童貞の俺にそのハードルは高いぞ?
「このような席を用意して頂いておいて大変申し訳ないのですが、
やはりこういう堅苦しい場ではお互いの本質は見えてきません。
…………なので、少し広場の方で散歩でもしながらと」
「い、いや、ですが、やはり2人きりというのは…………」
うん、うん!そうだ、頑張れ、オルトス父さん!
2人きりにされても喋れる気がしないので俺はオルトス父さんを応援する。
しかし、
「あっ、そういえば、父が……「セレス様の御心のままに」
「ありがとうございます」
おい!まだ何も言ってなかったろ!
この人、とことん権力に弱いな…………。
いや、でも、まだだ。
ここにはイレーナ母さんもいる。
イレーナ母さんが許可を下さなければ王女様も流石に連れ出せないはず。
「イレーナ様も構いませんか?」
「えぇ。息子でよければ幾らでも」
「…………………………………。」
…………そうだ、忘れていた。
イレーナ母さんはこの婚約に乗り気だった。
って、ことで、
◆◇◆◇
「んー!今日はいい天気ですねー!」
広場に出ると、身体を伸ばしながら王女様はそう告げる。
ど、どうしよう。本当に2人きりになってしまった。
これ俺から話しかけるべきなのか?
でも、なんて話しかければ…………、
「申し訳ございません、いきなり連れ出してしまって。ご迷惑でしたか?」
「えっ、あっ、いえ、大丈夫です」
さ、先を越された。情けねぇ…………。
「実はさっき私が言った本質が見えないだのなんだとのいうのは嘘……、
いえ、ウィルミス様とこうして2人きりになる為の口実だったのです」
「え…………」
俺と2人きりになる為の口実?
それってどういう……「っ!」
まさか、この王女様、幼くてして…………。
そうか、10歳……ちょっと早い気もするが、王女様ならそういう知識もつけられてるだろうし、
もう覚醒しててもおかしくないお年頃か。
んー、けど、俺のストライクゾーンは18以上だし、
将来有望だとは思うけど俺が心惹かれてるのは今の王女様じゃなくて、将来の王女様っていうか、
「ウィルミス様」
「は、はいぃ!」
気のせいかもしれないが、心なしか艶かしい声で王女様に名前を呼ばれ、俺はその身を硬直させる。
ど、ど、ど、どうしよう、とんでもない展開になってしまった。
さっきも言ったが、俺の名誉の為にもう一度、言わせてくれ。
俺のストライクゾーンは18からだ。
だが、王女様に強引にされたら俺は止めることができなあ…………、
「私にあなたの魔法を見せてくださいませんか!?」
「………………い?」
魔法を……見せてくださいませんか?
え?ん?いや、ちょっと待って。
あれ?もしかして俺、メチャクチャ勘違いしてた?
ってか、魔法を見せてくれってどういう事?
俺が状況の整理に戸惑う中、王女様はさっきのお淑やかな雰囲気から一転、
歳相応のおてんば娘みたいにその蒼い目をキラキラと輝かせる。
「ま、魔法ですか?」
「はい!さっきも言いましたが、私は幼少期からウィル様は魔法の天才という噂を
幾度となく耳にしてきました!その時からいつか会えたら魔法を見てみたいと!!」
うーん、ダメだ。分からない。
さっきとのギャップも相まって身体がついていかないぞ。
「申し訳ございません、本当はもう少しお話を重ねてからと思ったんですが……」
はい、その通りです。
是非そうして欲しかった。
「ただウィルミス様にお会いできたら居ても立っても居られなってしまい」
「え、えーっと…………、ど、どうしてそこまで?」
そう、咄嗟に出た質問だが、全てはそこだ。
何故、この王女が俺の魔法にそこまで執着しているのか。
「…………………………………。」
…………嘘だろ。突然の無視。
どうしよう、分からない。分からないよ、この王女様。
「あの…………、「絶対に」
俺が無視されて話し掛けようとしたところに王女様の言葉が重なる。
今度はいきなり。…………なんだ?
「こ、これは誰にも言ったことがないことです。
なので、絶対に他言しないと誓えますか?」
口元を軽く抑え、少し頬を赤らめながらそう告げる王女様。
た、他言しないと誓えるかって…………、正直、自信はない。
自分で言うのもなんだが、俺ってかなり口軽いし。
というより、隠すのが面倒くさくなって言っちゃうんだよな。
だから、あんまり重い話とかされるとエルド兄さんあたりに喋ってしまう気がする。
けど、これ聞かないと話が進まなそうだし…………、
「は、はい。誓います」
俺は話を進める為、堂々と嘘をつく。
「じゃ、じゃあ…………、わ、笑わないでくださいね」
「はい」
まぁ、内容次第だけど。
余程の暴露でもするのか、王女様は深く深呼吸をして、それから口を開いた。
「じ、実は私…………、この世界にある全魔法をこの目で見るのが夢なんです!」
ふーん。
ふーん。
ふーん。
これ以外に感想は出てこない。
別に笑うような事でもないし、思っていたほど重い話でもない。
ってか、なんでこれを今まで秘密にしてたんだ?
王女様として生きてたならもっと他にもやばい秘密があるだろ。
「お、驚きましたか?」
いえ,別に。…………と言うわけにもいかないし、
「は、はい、とても」
「そ、そうですよね!本当にこれを言ったのはウィルミス様が初めてです!!」
まぁ、なんかわかんないけど、嬉しそうだしいっか。
お陰で俺も段々と整理がついてきたし。
「私は幼少期から魔法という力が大好きでした。魔法は人を笑顔にして、豊かにしてくれる。
勿論、人から笑顔を奪ばう悪い魔法があり、それを行使する団体があるのも事実です。
でも、それらを倒してくれるのもまた魔法であり、善良な魔法使いなのです。
この世界にとって魔法は人で人は魔法。人の数だけ魔法は存在する。
だから、私はこの世界に存在する全ての魔法を見て、色んな人と触れ合ってみたいのです!」
ま、ま、
眩しいぃぃぃい!!!
圧倒的陽キャ。俺とは正反対の存在。
ちょっと話が違うんですけど。
全然、お淑やかじゃないじゃないですか。
超アグレッシブお嬢様じゃないですか。
し、しかも、この気配……ただの陽キャではなく、おそらく真の陽キャ。
説明しよう、真の陽キャとは陽キャを超越した完全勝ち組の人間のことである。
世間一般で言われる陽キャはその殆どがただテンションだけで生きているモブ。
それか、陽キャの皮を被っている隠キャだ。(ウィルもとい下沢調べ)
だがしかし、真の陽キャとは海賊王になろうとしたり、
背が低いのにバレーボールで活躍しようとしたり、
要は確実な夢を持ってそれを本気で叶えようとしているカッコイイ奴らのことを言う。
まぁ、とどのつまり、何が言いたいかと言うと、俺はそういう人間が大嫌いで
その特性を持ったこの王女様と上手くやっていける気がしないということだ。
「そ、そうなんですね。いつかその夢が叶う事を祈っております」
「はい!ありがとうございます!」
…………やっぱり眩しい笑顔。
羨ましいよ、そんな立派な夢があって。
きっとこの人は本気でこの無謀な夢を叶えようとして、
そして、それが結果、叶っても叶わなくても満足して人生を終わるのだろう。
それが俺の嫌った真の陽キャという生き物だ。
と、そう思ったのも束の間、
「でも、きっとこの夢は叶いません」
「え…………」
俺は王女様が発したその言葉に驚きを隠しきれず、つい声を漏らす。
そして、いつの間にか俯かせていた顔を上げてみると、
そこにさっきまでのあの天真爛漫な王女様はいなかった。
表情は暗く、あのキラキラした蒼い瞳は初めて会った時のあのどこか儚い蒼い瞳に戻っている。
あんなにウキウキで夢を語っていた王女がきっぱり夢を叶わないだと?
これは俺の知る陽キャデータにない行動だ。
「…………ウィルミス様はこの婚約をどう捉えていますか?」
俺が戸惑っていると、王女様は突然そんな質問をしてくる。
「え。ど、どう捉えてって、それは…………」
言っていいのか?
そう思っていると、そんな俺の様子を察して、王女様は顔を軽く頷かせる。
「構いません。ここには私とあなたしかいない。
だから、ウィルミス様の率直な意見をお聞かせください」
いや、そうは言われても。
これで国王批判とか言われたりしたら溜まったもんじゃない。
けど、王女様の顔、嘘を言ってるようには見えないし……、
なんかわかんないけど、真剣みたいだし…………、
「まぁ、遠慮なく言わせてもらうなら私をこの国に縛り止める為だと思っています。
自分で言うのも何ですが、自分の力が他国に渡ればこの国としても脅威だと思いますし」
俺は王女様の意思を汲み、国家反逆の意思ありと判断されてもおかしくない発言をする。
でも、流石にちょっと馬鹿正直に言い過ぎたかも。
ここまで言うつもりじゃなかったんだけど。
俺はさっきのブラックスーツの人達が襲ってこないかと警戒するが、
どうやらその気配はない。良かった。
「えぇ、父にも勿論、そういう意図があったでしょう。
実際、父は私にこの婚約の話を持ち掛けてきた時、
今ウィルミス様がおっしゃったことと同じような事を申しておりました」
へー、わざわざ王女様に直接。
「…………でも、本当の目的は違う」
「?」
いや、本当の目的も何も、王様が王女様にそう言ったのなら…………、
「っ!」
なるほど、そうか。そういうことか。
俺はここでようやくその言葉の意味を理解する。
それは多分、王女様の秘密を知っていた俺だから辿り着けた答え。
「どうやらウィルミス様もご存知だったみたいですね。
そう、この婚約の本当の目的はあなたに私を守らせるためです。
私が王女だからではなく、私が治癒魔法を扱えるから」
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