第三章 楠葵先輩は車を運転できる
第19話 まぁ……瞳ちゃんったら……
四月下旬。
「そろそろゴールデンウィークね。せっかくだからこの四人で一緒に出かけない」
いつも通り、優たちは四人で昼ご飯を食べていると葵が目を輝かせながらみんなに話す。
ちなみに優の突き指はもう治っているので、優は一人暮らしに戻っている。
最後のお泊りの日、葵は優の突き指が治って嬉しそうだったのに、少しだけ悲しそうな表情を浮かべていた。
「別に良いよ。高校最後のゴールデンウィークだし、来年は一緒に遊べるか分からないしね」
「私も賛成です」
「わ、私もぜひみんなとお出かけしたいです」
「それじゃー決まりね。早速ゴールデンウィークの予定について話すわよ。……あっ、そうだ。みんなでいつでも連絡取り合えるようにルインを交換しましょう。その方が便利だし」
みんな賛成し、葵がゴールデンウィークの予定を話している途中、まだ四人でルインの交換をしていなかったことを思い出した葵がみんなに提案する。
「確かにそうね。今後予定とか立てる時に連絡手段がないと不便よね」
「私も賛成です。私も楠先輩や中村さんとルイン、交換したいです」
「みんなが嫌じゃなければ私も交換したいです」
「中村さん、そんなに自分を卑下することはないと思うわ。私たちはもう友達なんだから誰もそんなこと思わないわよ」
優と葵では明らかにカーストが違う。
優はどこにでもいる普通の高校生だが、葵は明らかにクラスカーストの上位の人間だ。
そんな人とルインを交換するなんて恐れ多いと思った優は無意識に自分のことを卑下してしまう。
葵は優の頭を撫でながら優の卑下を否定する。
葵の手はとても柔らかく、サラサラしていた。
でもその時の葵は少しだけ怒っているように見えた。
その後、四人でルインを交換し、グループルインも作る。
「これで四人のグループルインができたから、これですぐに連絡が取り合えるわね」
葵はニコニコしながらグループルインの画面を見ている。
とても嬉しそうだ。
「そう言えばクラスメイトだったのに中村さんとまだルイン交換してなかったね」
「そうだね。私も忘れてた」
「でもこれで私たちもいつでもルインが送れるね」
葵はともかく実乃里とはクラスメイトなのに、今日までルインを交換してなかった。
実乃里は優とルインを交換できて嬉しそうにしている。
優も新しくルインに増えた名前を見て、思わず頬が緩んでしまう。
楠葵。
西条瞳。
倉木実乃里。
ルインに連絡先が加わるだけでさらに繋がりを強く感じる。
「笑った中村さんの顔が一番可愛いわ」
「葵。いきなりキモいことを言うな。中村さんにドン引きされるぞ」
「えっ、今の私キモかった。中村さん、引かないでね」
「別に引かないですよ。それに楠先輩に可愛いって言われると嬉しいです」
「ほらね。中村さんは瞳のように冷たい人間じゃないのよ」
自分が優に対してキモイことを言ってしまったと思った葵は心配そうな目で優を見つめる。
別に葵の発言はキモいとは思わないし、むしろこんな可愛い先輩に可愛いと言われて優は嬉しかった。
優に否定された葵はなぜか自信満々な表情で胸に手を当てている。
それを見た瞳はため息を吐き、実乃里は三人のやり取りを見ながらクスクス笑っていた。
そこには冗談が言い合えるほど温かい空間があった。
「……楽しいな」
思わず優の口から本音が漏れる。
葵や瞳は先輩にも関わらず、まるで同級生と話しているかのように話しやすいし実乃里とはクラスでも話すようになりボッチでいることは減った。
いきなり優のスマホが鳴る。
通知を確認すると、葵から、しかも個人用のルインだった。
『よろしく』
そこにはウサギのスタンプが送られてきていた。
優が葵の方を見ると、葵はいたずらっぽく笑いながら口元に人差し指を付けて、
「シー」
と言っていた。
その表情に優はドキッてしてしまう。
『よろしく』
優も葵にくまのスタンプを送り返す。
優のルインを受け取った葵は嬉しそうにスマホを眺める。
「どうした葵。また気持ち悪い笑みなんか浮かべちゃって」
「教えなーい。って気持ち悪い笑みってどういう意味っ。瞳こそ実乃里ちゃんとルインしてる時、気持ち悪い顔してるわよ」
「してねーわ」
「いーやしてるね。気持ち悪い顔」
「実乃里は彼氏なんだから、愛する彼氏からルインが来たら誰だって頬ぐらい緩むだろ」
「まぁ……瞳ちゃんったら……」
くだらないことで言い争いをする先輩二人に、彼女に惚気られ満更でもない表情を浮かべている実乃里。
葵と瞳の言い争いは子猫のじゃれ合いと同じなので無視してもなんの問題もない。
彼女がいない歴=年齢なので優には彼女に惚気られた気持ちは分からない。
でもいつもはニヤニヤしない実乃里がこんなにもニヤニヤしているということはよっぽど嬉しいのだろう。
今日も楽しい昼休みだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます