第17話 ……どうして楠先輩はそんなすぐに寝れるの~
「楠先輩」
「はい、なんでしょう」
「今日は私のサポートをしてくれてありがとうございます。楠先輩と気持ちはちゃんと伝わってますから、そんなに落ち込まないでください」
また優になにか言われると思った葵は声が上ずる。
こんなにもサポートしてくれたのに未だにお礼を言っていなかったことを思い出した優は、今までの感謝を葵に伝える。
暗闇に慣れたおかげで、葵の表情もなんとなく分かる。
葵は安堵の表情を浮かべていた。
「そんなのお安い御用よ。もしまたなにかあったら私に頼ってちょうだい。サポートしてあげるから」
葵は頼られるのが好きなのか、とても生き生きした表情をしていた。
「……その時はお願いします」
「任せてちょうだい」
ここで遠慮するとまた葵の表情が曇ると思った優は、遠慮なくお願いする。
葵は自分の胸に手を当てながら力強く頷く。
「それじゃーもう寝ますね。おやすみなさい」
「おやすみ、中村さん」
寝る前、ひと悶着があったがもう眠くなり、それに加えて明日も学校なので優と葵はまぶたを閉じる。
葵の寝息が暗闇の部屋に響く。
「……どうして楠先輩はそんなすぐに寝れるの~」
優が寝たのはその一時間後のことだった。
朝になる。
寝る前には葵が隣で寝ていることを意識してなかなか眠れなかったが、寝ている時はそんなことを忘れて熟睡できた。
六時半にアラームが鳴り、その音で起きる。
横を見ると葵もアラーム音で目を覚ます。
寝起きの無防備な葵。
異性に見せて良い顔ではない。
「おはよう~……中村さん」
「お、おはようございます、楠先輩」
寝起きで頭が回らない状態であいさつをする二人。
活舌が死んでいる。
「とりあえずカーテン開けますね」
「お願い」
優がカーテンを開けると爽やかな朝日が差し込んでくる。
起きてすぐに朝日を浴びると、すぐに目が覚める。
「……眩しい」
朝日の眩しさに葵は目をくらませる。
いつも完璧な少女はそこになく、無防備で可愛らしい少女がそこにいた。
「着替えをするから脱衣所、使わせてもらうわね」
「はい、どうぞ」
葵は着替えをするために脱衣所へ消える。
その間に優は布団をたたむ。
その後、学校の制服に着替え終えた葵が出て来て、それと入れ替わるように優も脱衣所で制服に着替える。
「中村さん、勝手にケトルでお湯沸かしてたけど良かった?」
「別に大丈夫ですよ」
「今、オーブンでパン焼くわね」
「お願いします。私、テーブル出して拭いてます」
別にケトルでお湯を沸かすぐらい許可を取らなくても大丈夫だ。
葵はオーブンで食パンを二枚焼く。
その間に優はテーブルを出して朝食の準備をする。
……待って。
これってまるで新婚さんみたいではないか。
優はテーブルを拭きながらその事実に気づく。
二人で協力して朝食の準備をする。
確かに新婚さんみたいだ。
葵の方を見ると、鼻歌を歌いながらインスタントコーヒーを作っている。
多分そう思っているのは優だけで葵は全く意識していない。
その後、食パンが焼き上がり、テーブルへと運んでくる。
朝はあまり食欲がないので、食パンとマーガリンとインスタントコーヒーだけである。
「「いただきます」」
向かい側に座った葵とあいさつをしてから食パンにマーガリンを塗って食べる。
「なんだかおいしいわね」
「確かにそうですね」
「もしかして中村さんと一緒に食べてるからかもしれないわね。食事ってなにを食べるかよりも誰と食べるかが大事だし」
食パンを食べながら葵はおいしそうに食べる。
優も食パンを食べるが、確かに葵の言うように今日の食パンはいつもよりおいしいような気がする。
なにを食べるかより誰と食べるかが大事。
それはその通りかもしれない。
例えば校長先生と一緒に高級料理を食べるより、葵とスーパーで買った食パンの方が何百倍もおいしいと感じるだろう。
「楠先輩ってコーヒーブラックなんですね」
優は葵がブラックでコーヒーを飲んでいることに気づき、驚く。
優はブラックは苦すぎて未だに飲むことができない。
だからコーヒーをブラックで飲める人は本当に凄いと思う。
「えっへん、私はコーヒーをブラックで飲めるのです」
葵は胸を張りながら自慢げに言う。
時々見せる、年相応な葵もまた可愛いと優は思う。
「凄いですね。私は砂糖とミルクを入れないと飲めないです」
「コーヒーは好きな味にして飲むのが一番良いわ。私もブラック飲めるけど、たまに甘いコーヒーとか飲みたくなるし」
ブラックでコーヒーを飲めないことが恥ずかしいことだと優が感じていると思った葵はすぐさま優のフォローをする。
本当に優しい先輩である。
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