第187話 歪められた迷宮

ダンジョンに入ってすぐ、私は五感で――第六感も含めてすぐに違和感に気が付いた。


「平原…?そんなバカな…」


本来森のはずの渋谷ダンジョン第一階層が、平原へ変わっていた。

鼻腔をくすぐる草の匂いや、森と比べて暖かい風が幻覚ではない事を教えてくれる。

それに…第一階層ではあり得ない強さのモンスターの気配をそこかしこから感じ取れる。


「生還者が居ないのはそう言う事か…弱くともレベル120はあるかしら…?」

「私達二人で切り抜けられますか?」

「やってみないとわからないよ。絶対に生き残る」


そう意気込んで一歩前に踏み出すと、すぐに一体のモンスターが反応してこちらへ走ってくる。

遠くに見える影を見るに…とんでもなくデカいトカゲだ。

コモドドラゴンのもっと大っきくなったやつ。


ああいう生物は、噛みつかれると厄介。

爪はまあ良いとして、噛みつかれると肉が千切れるまで絶対に離さないから、本当に面倒くさいんだよね。

私はともかくかずちゃんは特に…


「大きなトカゲですか…鱗の硬さ次第ですね」

「そうね。…まあ、私なら硬さなんて関係ないけど」

「神林さんの攻撃は内側に浸透して破壊してきますからね…本当に恐ろしい攻撃です」


迫りくるトカゲを前に、私は魔力武装を纏う。

そして、今にも私に噛みつきそうなトカゲの下に潜り込むと――


「うん、いける」


そう言って発勁を使い、トカゲの体を撃ち抜いた。


バゴォンッ!!と言う独特な爆発音が響き、喉から脳天にかけて風穴が開く。

まず間違いなく即死だ。


予想通りすぐにトカゲの体が煙へと変わり、経験値が私の体の中に流れ込んでくる。


「流石の火力ですね〜。私も負けてられない」

「そうね。さっきのでほぼ全部のモンスターがこっちの存在に気付いたみたいだし、これからは入れ食いだよ」

「嬉しいけど嫌だなぁ…」


音を聞いたか魔力を感じ取ったか、モンスターが一斉にこっちへ走ってくる。

単体火力に優れる私達は多対一の戦闘が苦手だけど…

数で押し潰されるほどモンスターは居ないし、大丈夫だろう。


飛んで火に入る夏の虫。

全部倒して経験値に変えてしまおう。


「ふっ!!」

「せあっ!!」


迫りくるモンスターの群れを次々と粉砕し、一応前へと移動する。

何処かに必ず出口があるはずだから、それを探知で見つけられるように移動しなきゃいけない。


それでもモンスターは数発で倒せるから、移動にも探知にも集中できる。 

このままいけば、そのうち出口が見つかるだろう。



ただ、一見順調そうに見えて、そうでもない。


「流石に数が多いね。…しかも、倒すのと同じかそれ以上の速度で増えてる」

「生還者がいない理由の一つかもしれませんね。あとどれだけ倒せばモンスターは全滅するのやら…」


移動しているからと言うのもあるけれど、倒したそばからモンスターが復活するんだ。

しかも、私達がモンスターを倒せば倒すほど復活する速度が増している気がする。


これもヒキイルカミの仕込んだ罠なのかな?


「魔石が落ちてるから、インベーダートレントのような無限復活のモンスターじゃないと思うけど…」

「それでも、このモンスターの量はやばいですよ?もうレベルが3も上がってますからね」

「そんなに倒したのか…」


今の私達のレベルが3も上がるなんて、相当な数を倒している。

流石に疲れてきたし…ちょっとやばいかも。


「全力で逃げたら振り切れるかな?」

「多分無理ですよ。隠れられそうな場所もないですし…どうしましょうか」

「……無いなら作ればいい。とりあえず、一旦近くのモンスターを掃討するよ」

「はい!」


私は魔力を全力で使って少しの時間戦闘力を大きく上げる。

魔力武装に使う魔力も多くして全身でそれを使うと、目に付くモンスター全てをワンタッチで倒してしまう。


「流石の火力ですね。……でも、私だって!」


そう言うと、かずちゃんは膨大な量の魔力を刀に集める。

その間基本的に回避に徹し、とにかく逃げ続ける。

…もちろん、ただ逃げてるわけじゃない。

自分を狙うモンスターが常に全部同じ方向に居るように調整しているんだ。


そして、十分な量の魔力が刀に集約されると…


「三ノ太刀――『鳴草薙ナルクサナギ』ッ!!」


魔力を過剰に溜め込み、発光する刀が横薙ぎに振るわれる。

雷が目の前に落ちたような轟音が響き渡り、溜め込まれた魔力が刃の形になって飛んでかずちゃんを狙っていた全てモンスターが両断される。


…いや、魔力の持つ破壊力が強すぎて両断どころか完全に消し飛んでるヤツもいるね。

おっそろしい攻撃だ…


「とんでも火力はどっちだか」

「タケルカミとの修行の成果ですよ。…まあ、これが使えるようになったのは本当につい最近ですけど」

「咲島さんも使えるのかな…?」

「あの人の場合は一帯が氷の大地と化しますよ…」


そんな話をしながら、こっちに向かってくるモンスターがほとんど居ないことを確認すると、かずちゃんに魔法で穴を開けてもらう。


小さな洞窟のような穴を作ると、その中に入って《鋼の体》の結界を張ってモンスターが入れないようにした。


「これで少し休める。こっち来てるモンスターもちょっとだし、それを倒したら一旦休憩するよ」

「天井がびっくりするほど不安定なんですが…」

「私が《鋼の体》で補強するわ」


天井はただの土。

ちょっと揺れたら崩れてきそう。

だから私が《鋼の体》を使って強度を上げないと、安心して休憩出来ないだろう。


「とりあえずモンスターを始末したら、交代で休憩。私が先に見張りするから、かずちゃんは休んで」

「分かりました。じゃあ、半日くらい寝ますね」

「冗談のつもりでしょうけど…私が起こさなかったら本当にそれくらい寝るよね?」

「はい」

「子供とは思えないくらい肝が据わってるよね…かずちゃんって」


この状況でそれだけ眠れるかずちゃんの胆力は、もはや尊敬するレベル。

見習いたくはないけど、すごいとは思うし真似してみたい。


「じゃあ、ゆっくり寝るためにもさっさとモンスターを倒してしまいましょう!」

「そうね」


穴の入り口に到着し、《鋼の体》の結界を破ろうとするモンスター達に向かって刀を構えるかずちゃん。

私も魔力武装を整えると、結界を解いて攻撃を仕掛ける。

ここに来ていたのは6体くらいのモンスターだけだったので、すぐに倒し終わり宣言通り穴の奥で寝息を立てて寝始めてしまった。

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