第23話練習という名の本番
広く、頑丈な作りでできているこの部屋はトレーニングルームらしく強化ガラスでできた透明の壁があり半分は射撃場になっている
私達はその反対側にある部屋の稽古場へと向かうとそこにもたくさんの、刀やセットの双剣が綺麗に並んで置いてあった。
天明はその中から柄に赤い紐のついた双剣を手に取ると玲を呼び、一戦するから見ててと私と猿田を隅に寄せると、真ん中の方へ向かった
これから始まる2人の手合わせを観戦できるらしい
「師匠、お手柔らかに」
「うん、わかった」
正面で向き合う2人はそれぞれ双剣を鞘から抜きお互いの準備を終えれば、始まりの挨拶を交わす
天明の合図と共に、玲が凄い速さで走りだすと天明へといきなり剣を振り翳した
その瞬間、剣がぶつかり合う金属音が
カキィィィーンと音を響かせ私の鼓膜を震わせる
両手で守る様に剣を交差させ、盾の様にして玲の双剣を受け止めると、天明は軽々と玲を振り払い遠くへ吹き飛ばした
どさっと地面に転がっていく玲に天明はその場を動く事なく、また手招きをする
「おわり?」
すぐに立ち上がり、地面を蹴り上げるとすごい速さで天明の元に向かい、正面からまた飛びかかる。
と思いきや、次はタンッと地面を蹴りだすと、上へと高く飛び上がり、天明の後ろへと着地すると素早い動きで天明の首へと刃を突きつけた
しかし、玲の動きを読んでいたのか天明は、その場でしゃがみこみ、玲の剣は当たらず誰もいない場所をシュッと音をたて風を切っただけ
天明はしゃがんだ状態でそのまま、くるりと振り返ると迷わず玲の胸へと剣を突いた。
けれど間一髪の所で天明の動きに気づいた玲は
咄嗟に剣を避け、なんとか銀の刃から回避できた
流石に避けるのが早かった玲に当たらず、悔しそうに一言つぶやく天明は、先ほどの穏やかな彼とは全く違う顔をしていた
「…おしいナ」
ほんの1秒の差だが、あのまま玲が後ろへと避けなければ、完全に天明の右手に握る剣は彼の胸に刺さり、左手の剣は腹を切り裂いていただろう
一歩間違えれば、この場は悲惨なことになっていた
未だに、2人でキンキンと音を響かせながら手合わせ…いや、殺し合いを繰り広げているのを猿田と隅の方で見ていたが、2人の動きは少しも人間らしさは感じられない。
一体、何を見せられているのだと、目が点になりながら恐る恐る隣の男へと、声をかけた
「きょ、強ちゃん、私あれ無理だよ」
「まぁ、初手であれ見せられたらそう思うよなぁ…」
「あれってもう動きが人じゃないよね?私あんなにジャンプ力ないし、普通に避けれないから即死だよ」
軽々と駆け回り飛び上がる玲の様な、あんな真似は絶対に出来るわけがない、まずしたこともない。
しかも、あの力強い剣を受けても全くその場から動かない天明の様に、私には耐える力もない
もしかして、今から自分もあの殺し合いをするのだろうか?
そう思うと、今すぐにここから立ち去りたい
この、逃げ出したい気持ちを隣の男へと伝えれば、猿田は突然、笑い出した
「ははっ!お前、何も分かってないなぁ」
「…なにが?」
まだまだお子ちゃまのひよっこだから、俺が教えてやるよと彼は私の手を指差す。
とりあえず言われるがままに、自身の手のひらを見るが、やはり彼が何を言いたいのか分からない
「お前は今、吸血鬼化してるだろ?」
「うん…それが?」
「ただ、血を吸って怪我の治りが早い訳じゃなくて身体能力だって高いってこと!だから、練習すればお前もすぐに強くなるよ」
「じゃあ、強ちゃんも強いってこと?」
「あー…俺はなぁ死人には強いけど、マンツーマンは苦手というか…弱いの」
「…えぇ」
そんな凄い力を持ってしても、弱い人は弱いと聞かされ、慰めにもならない言葉をかけられただけ
余計に不安になるのは、きっと猿田強士郎のせいだ
隣の人物は、気を落とすなよというだけで軽い
段々と胃が痛くなってくるのを、誤魔化す様にため息を吐き、未だにやり合う2人に視線を戻せば相変わらず彼らは、楽しそうに剣を打ち合っている。
たしかに、見る分にはこちらも楽しいけれど実際、あれをやってみてと言われたら話は別だ
正直、何も知らない初心者から見ても彼らが強いというのはあの動きを見ていたらよく分かる。
特にあの白髪の天明は別格
彼は、最初からあの場から一歩も動いていない
それだけでも凄いというのに、玲を遠くまで弾き飛ばしているのをこの目で見れば、あの人が只者ではない事くらいは誰だってすぐに分かる
「あれ、ずっと終わらずに続いてくれないかな…私は天明さんと手合わせしたら死んじゃう」
「んー?珍しく弱音吐いてんなぁ…まぁ流石に初心者に天明さんも酷なことはさせないだろ」
そうかなぁ、と向こうで玲の剣を弾く天明を眺めた。
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