追放された黒魔道士は女剣士と共に冒険者ライフを送る

雪兎(ゆきうさぎ)

第1話 黒魔道士追放と剣士の提案

「キース、貴方はもう用済みです」



勇者であるアーレントがそう告げる。

嗚呼、とうとうこの時が来てしまいましたか。私は黒魔道士ですが攻撃は使えず、敵モンスターにデバフを付与することしか出来ない。黒魔道士として劣っているのは重々承知しておりましたし、薄々いつかはこうなるとは思っていましたが、また突然ですね。



「そうですか。まぁ構いませんよ……私はお荷物同然でしたからね」

「ふふ、分かっているではありませんか。そう、貴方は役立たずで無能で出来損ないでお荷物でしか無かったのです」



おやおや、そこまで言いますか。

さすがの私も傷ついてしまいますよ。


そんな私たちのやり取りを見ていた魔法使いのルークスや僧侶のリアン、弓使いのセルジュまでもが私をお荷物だと言い始めた。大聖女のユシュアは無言を貫いていましたが……相当私は嫌われているようですね。

そんな中、剣士のシストはわなわなと震えていた。どうかしたのでしょうか。不思議に思っているとシストはバンッと勢いよく机を叩いて立ち上がり、つかつかと私の方へと歩み寄ってきた。



「もうこのパーティーにはいたくありません。仲間を……キースさんを悪くいう人達となんか冒険なんてしたくないです!」



シストはそう言ってキッとアーレント達を睨みつけた。そして『行きましょう』と私の手を引いて宿を後にした。

アーレントがシストを引き留めようとしていましたが、完全無視でしたね……


―――無言のまましばらく歩く。

そろそろ何か話した方がいいのではないだろうか。しかし私の引き出しは少ない為こういう時に話す内容が見つからない。

どうしましょうかと頭を悩ませているとシストが口を開いた。



「腹立たしいです……あんなにキースさんに助けられてきたというのにもかかわらず無能? 役立たず? お荷物? なんてことを言うんですか……私は一度もそんなこと思ったことがありませんでした。寧ろ感謝しかないんです。敵モンスターへの強力なデバフ付与……あれに何度助けられたことか……それも分かっていないなんてあの方勇者失格なんじゃないですかね? そもそも―――」



これは長くなりそうですね……慌てて止めると、シストは渋々黙り込んだ。



「ですが、実際私の実力不足―――」

「キースさんの実力は本物です! キースさんのおかげでどんな強敵も討伐することが出来ていたんですよ? あの馬鹿達はそれに気づいていないだけで……」



ううん、なかなかの辛辣具合ですね。そんなにも彼らの事が嫌いなんでしょうか。

未だに怒りが収まらないシストを宥めながらゆっくりと口を開く。



「ですが私はデバフしかかけられない。攻撃もまともに出来ない出来損ないですよ」

「で、す、か、ら! そのデバフが規格外なんですってば! 通常よりも長くデバフ効果が続いていて、質だって全く落ちない……貴方はデバフ付与特化型だったんです。それに私はサポート職は大切だと思っています。ですからそんな悲観的にならないでください!」

「シスト……」



全て言いきったのか、肩で息をするシスト。

こんなにも私のことを思っていてくれていたなんて思ってもいなかった。本当に嬉しいことですね。


それにしても、兄と弟でこんなにも差が出てしまうとは思ってもいませんでした。双子の兄である私は攻撃の出来ない、デバフ付与しか出来ない黒魔道士。対する双子の弟であるアーレントは神に選ばれし勇者ときました。剣の腕も凄まじいものでしたよ。

勇者の弟と出来損ないの黒魔道士である兄。

なんて神様は残酷なのでしょう。もっと平等にしてくれたって良かったではありませんか。


ですがそんなことを考えても無駄なものです。

これからどうしましょうか……シストと共にのんびり静かに暮らすのもいいですが、シストのことなので戦いたがるでしょう。



「ふむ……」

「? キースさん、どうかしましたか?」

「いえ、これからどうしようかと思いまして」



そう言うとシストも考え始める。

そしてすぐにハッとしたような表情を浮べる。なにか思いついたらしい。



「一から冒険者ライフを送りましょう!」



…………え?


それは要するに冒険者になろう、ということですよね。それしか有り得ませんよね。ですが―――



「私達、2人だけですよ?」

「キースさんがいればクエストなんて楽勝ですよ」

「いえそんな事はありませんからね? シスト貴女……私の力を過信しすぎでは……?」

「そんなことありませんよー。だって事実ですから」



シストはそう言って微笑みを浮べる。



「何度も言いますが、キースさんは優秀な黒魔道士なんです。そんな黒魔道士と一緒なら勝てない相手なんていませんよ」

「それは言い過ぎですって……」

「そうでしょうか? でも、あのパーティーにいた頃だってキースさんのデバフ付与のお陰で楽々クエストクリア出来ていたんですよ? いやぁ、キースさんがいなくなって死ぬほど後悔する彼奴らの無様な顔が浮かんできますねぇ」



どんどん話が脱線しているような気がしますが……本当に私の力で、シストを守れるのでしょうか。

シストは前線で戦う剣士です。ですから、怪我もしやすい……もしも、本当に2人で冒険者になるとしたら、大怪我に繋がらないように敵モンスターにデバフを付与してシストが戦いやすい状態にしておかなければ。



「…………」

「どうでしょうか……我ながらいい案だと思ったのですが……」

「そうですね……2人で冒険者になってみましょうか。ですが、無理は禁物ですよ。シスト」

「ふふ、分かってますって」



それじゃあ早速ギルドへ行きましょう!


そう言ってシストは私の服を引っ張る。全く、はしゃぐと転んでしまうじゃないですか。


……冒険者、か。

あのパーティーにいた頃は冒険者ランクを気にせず高ランクのモンスターと対峙していましたね。まぁ、もう過去の話ですが。


そんなことを考えながら歩いていると、シストが口を開いた。



「実は私、キースさんとこうして2人で冒険することが夢だったんです」

「え?」

「ふふ、夢……叶っちゃいました」



そう言って心底嬉しそうに笑うシスト。

そんな夢があったなんて知りませんでしたよ……ですが、叶ってよかったと、そう言ってあげるべきなのでしょうか。

とりあえず近場のギルドで冒険者登録を済ませましょう。


心無しかルンルンとしているシスト。

可愛らしいですね―――

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