第3話②「暗中の計略」
僕がシャルロットさんに提案したのは『騎士団退治』だった。
騎士団から逃げるのでなく、隠れるのでもなく戦う、倒す。僕らが倒す。
そのための作戦だった。
なーんて、口で言うなら簡単だけど、そう
相手の規模は五十人を超すらしいし、装備も練度も整っているらしいし。
正面からぶつかれば一蹴されて終わり、ゲームオーバー。
だけど僕には勝算があった。
僕とアイリスのコンビなら倒せるという自信があったんだ。
「――てことで、
僕はベンノさんから借りた毛布を体に羽織り、シャルロットさんから借りた白いヴェールを頭からすっぽりかぶった。
金髪巨○美少女から染みついた甘い香りが鼻先に漂って最高です……などというキモい感想はさて置き、簡単だけど彼女に成りすます準備を整えた。
「戻って来たら、必ず洗って返しますから」
「いえ、別に捨ててもらっても構いませんけど……本当にそんなもので大丈夫なんですか?」
どうしても信じられないようで、シャルロットさんはアイリスの陰から(男性恐怖症なので)僕に訊ねた。
僕はあくまで彼女に近づかず、彼女が穏やかな気持ちでいられるようにゆっくりと話して聞かせた。
「はい、大丈夫です。遠くからでもこの白い布は目立ちますし、この暗さの中なら毛布を羽織って移動してる人間が男か女かまではわからないはず。あとは言動がそれっぽく見えさえすれば、向こうが僕を追って来るだろうって理屈です」
「理屈はわかりました。でも、その結果ヒロ様が捕まってしまったとしたら……」
女性ならともかく、騎士団に捕まった男がどんな目に遭わされるのか。
それをシャルロットさんは気にし、身を揉むように心配している。
「大丈夫大丈夫。ここまで色々あったんで、僕って逃げ足だけは速いんです」
「でも……っ」
どれだけ言葉を尽くしても、シャルロットさんは納得してくれないだろう。
だから僕は、そこに関しては早々に諦めた。
『論より証拠』、結果を残して納得させるしかない。
「さ、行くよアイリス。さっき話した通りの作戦で」
僕が拳を突き出すと、アイリスはこれに即応。
犬歯をむき出しにすると、ニヤリ獰猛な笑顔を見せた。
「オーケイ、女の敵をぶっ殺してやりましょう」
僕らは拳を打ち合わせると、さっそく作戦行動に移った。
◇ ◇ ◇
「女神官だ! 女神官がいたぞー!」
場所を移して森の中。
毛布を羽織りヴェールをかぶった僕は、大声を上げながら走った。
僕をシャルロットさんだと思ったのだろう騎士団は、一斉に馬首を巡らした。
「あの女神官、あんなとこにいやがった! 俺たちのことを教会に
「追え! 追え!」
「奴だけは逃がすな!」
口々に叫びながら追って来る。
「フィーッシュ!」
騎士団の狙いが村から僕個人に向いたのを確認すると、僕はニヤリと笑った。
すぐさま『ぬるセ○ウェイ』を作ると、並走していたアイリスを抱き寄せ、互いの体を『ねばねばの糸』でぐるぐる結んで固定した。
密着感が増したことで遠慮なくスピードを出せるようになったので、騎馬にも負けない勢いでぐんぐんと加速、暗い森の中を進んでいく。
「アイリス……大丈夫? 作戦通りにいけそう?」
「ふっふっふっ、まっかせなさーいっ! これだけの安定感があれば大丈夫! ゆっくり呪文詠唱できるってもんよ!」
空元気でもやせ我慢でもなく、アイリスの調子も実際良さそう。
Vサインをする余裕まである模様。
「おー、いいねいいね! さすがはアイリス!」
やがて僕らがたどり着いたのは、川の傍にある窪地。
けっこうな深さがあり、しかも前日からの雨で相当にぬかるんでおり、ハマれば馬でもなかなか抜け出せない地形になっている。
そしてここが、僕の選んだ決戦場だ。
つい数時間前、ベンノさんに案内されながら通ったのを覚えていたんだ。
「よっし、着いた!」
窪地に着くと、僕らはぬるセ○ウェイから降りた。
アイリスがパタパタと物陰に走っていくのを横目にしながら僕は即座にスキルを発動。
窪地の上に『ぬるぬる』で蓋をすると、その上を歩いて渡って、対岸へとたどり着いた。
騎士団はすぐに窪地に殺到したけど、夜の暗闇のせいで『ぬるぬるの蓋』になかなか気づけない。
「なんだこれは……っ!?」
「やたらと滑るようなっ?」
足元を取られながらも苦労して直進している所を僕が「はい、そこまで」とばかりに『解除』してやると、足場を失った騎士団は馬もろともに窪地に落下した。
「落ちた……なぜだ!? 地面はどこへ消えた!?」
「泥濘が……っ!? くっ……まともに立てないっ!?」
混乱に次ぐ混乱、そして深いぬかるみに馬がハマったせいで彼らは混乱、大混乱。
そしてそこへ――
「ふうーっはっはっは! 待ってたわよ! 女の敵どもめ、目にもの見せてあげるわ!」
物陰に隠れていたアイリスが高笑いを上げながら現れると、満を持して呪文を唱え始めた。
身動きのとれない騎士団を前にした彼女の詠唱は実にスムーズに運び、一言の言いよどみも無く――
「喰っらえー! 『
窪地の上で炸裂した爆裂魔法は、凄まじい熱衝撃波を巻き起こした。
熱衝撃波は窪地に降り注ぎ、斜面のカーブに沿って跳ね返った。
熱、衝撃、熱、衝撃、熱、熱、衝撃。
入射と反射を何重にも繰り返すことによって、それらは猛烈な増幅効果を引き起こした。
強靭な鎧兜も、神聖魔法による加護もこれには堪らず、騎士たちのことごとくが意識を失い気絶。
やがて、動く者はひとりもいなくなった。
「ようーっしっ!」
「やったあーっ!」
僕とアイリスは会心の笑みを浮かべながらハイタッチ。
それが僕の、騎士団退治作戦の全容だった――
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