31.あー、これ、耐えられないやつだ
―――【解除】
少年を【拘束】していた魔法を解く。
「身体はどう? 大丈夫?」
「大丈夫って……んなわけねぇだろ」
「だよね」
即答する私に、顔を歪ませる少年。
「軽くないか?」
「重い方がいいの?」
「はぁ。望んだ俺が悪かったな」
その通りだと思う。
「じゃあ奴隷契約切るよー。……【破却】」
「っ……」
奴隷契約を切った。
これで私たちは眷属契約だけをしている。
魔力は大量に消費してしまったが、どうせ時間が経てば回復するので気にしない。
一件落着である。
「……おい」
―――ん?
「なんで眷属契約をしたままなんだ」
「あー、それはねぇ」
ベッドの上に座り、後ろに倒れた。
柔らかい布団が包み込む。
「元のご主人様に報復する気はある?」
「それとこれと何の関係が……」
「なら、私の魔力はあって損ないはずよ。むしろ利になる。使える魔法の威力、数が大きく変わるからね」
「…………」
少年の警戒心が強い。
殺されるのは困るので、本音を言うことにした。
「……あなたが私を殺さない可能性はまだ低いから、一応契約を結んでおきたいの。あなたが私を殺す理由がなくなったら【破却】するわ。絶対に」
「前の主人を殺したら、か」
「そういうこと」
別に殺さなくてもいいのだが、少年の過去や心境のことだ。
きっと元ご主人様を殺してしまうだろう。
私には何も関係ないので手出しはしないし、害が及ばないと判断したら眷属契約は【破却】する。
ただそれだけのことだ。
―――この子は
すべては平穏な読者生活を満喫するため。
私の方針は今もこれからも変わることはないだろう。
―――それにしても、すごく眠くなってきたなぁ……。
小さく
ずるずると下に体が落ち、私は床に倒れてしまった。
「!? おい、なにやってるんだよ」
―――あー、これ、耐えられないやつだ。
幼子の体は何度か寝ないと持たない。
私は転生して、それをよく知った。
「……いっこ、たのんでもいい?」
「はぁ……!?」
眠気に襲われ、とろんとした拙い声になってしまった。
それをどう受け取ったのか、少年が駆け寄り、私を揺らした。
切羽詰まったような顔になっている。
―――そんなに焦るようなことじゃないよ。
そう言いたかったが、私には言うほどの気力がなかった。
「ベッドにね、てきとうに運んでほしいの」
「……は?」
「本を、おいといてくれる、と、さいこう」
「……変なやつだな、本当に」
転生者ですからね、はい。
生まれた時から変だと言われてもおかしくはないので(否定する力もないが)否定しない。
―――理由まで言えそうにないなぁ……。
今の状況では誰かに襲われて気絶させられたと思われる可能性があるが、私がベッドに寝ていて隣に本があった場合は違う。
この屋敷の人ならほとんどの人が、私が本を読んでいる最中に眠くなってそのまま寝てしまったのだろう、と解釈するに違いない。
誰も侵入者が来たとは思わないはずだ。
そうするために少年の手助けを頼んだのだ。
コクリコクリとうとうとする私に、少年は何かを察して従ってくれた。
「なんとかしておく。約束する」
「ん。あり、がと……」
そう言うと私は重い
魔力回復のためにも、たっぷり寝よう。
そう決めた後の体の切り替えは早かった。
魔力痕跡の心配は必要ないだろう。
少年の気配を察知した時から少年の魔力の扱いが人並み以上なことは知っている。
それにしても、今日はよく頑張った。
明日は今日読めなかった分、たくさん本を読もうと決めて、私の意識は夢の中へと落ちていった。
「…………それは俺が言うべき言葉だ」
その後のことはよく覚えていない。
少年が何かを言った気がしたが、私には何も聞こえなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます