29.さて、どうしよっかな
「そうね……あなたの依頼主はだれ?」
「…………」
―――ま、言うわけないよね。
こんなにまだ小さいのに暗殺者を名乗っており、且つ依頼主がいるということは相当な手練れであることを意味する。
当然拷問された時の対策や訓練はされているだろうし、素人の私に口を割るとは思えない。
―――さて、どうしよっかな。
殺気は出てないし、殺す気はもうなさそうな気がするけど……暗殺者だから油断はできない。
捕まえた後は無計画……と言ってはいるものの、そもそも計画なんてないので何をしようか現在進行形で考え中だ。
まあでも、とりあえず心を開いてもらわなきゃ何も始まらない気がする。
ということで、私は少年のことについて尋ねることにした。
「名前は? あなたの名前。なんて言うの?」
長い沈黙の後、少年は一言。
「……………………1699」
―――イチロクキュウキュウ……?
数秒ののち、私はそれが数字であることを理解した。
「なにそれ? 私が訊いたのは名前であって、数字の羅列ではないわよ?」
「……名前なんてない。管理番号だ」
―――管理番号……。
もしかして、と思い少年に尋ねる。
「その数だけ、あなたと同じように暗殺者として育てられている子がいるの?」
「そうだ。俺は前の方だから数字は小さいが、五桁や六桁のやつもいる」
そんなに暗殺者として育てられる子がいるのか。
だが、あまり暗殺された話は聞かない。
それはなぜなのだろうか。
「俺は運が良かったんだ」
ぽつりと少年が呟いた。
「人体実験も兼ねて、孤児はみんな育てられる。死んだやつなんて数えきれないほどいる。お貴族様にはわからないだろうが、下町のやつらの命は信じられないくらい軽い」
「…………」
本当に、そういうことがあるんだと知ったのはこの時だった。
「……あなたが依頼を引き受けるのはあなたと同じような境遇の子を助けるため?」
「そうだ。俺は見て見ぬ振りをするお前ら貴族が大嫌いだ。だから殺す」
―――なるほどね。
なんとなく、少年のことがわかってきた。
劣悪な環境、命の軽さ。
少年は平民が自由に生きられるようにしようとしているのだろう。
―――でも暗殺を
私は少し考えると、ある結論に至った。
「……ねえ」
「なんだ」
「あなた、なんで暗殺者になったの?」
「はあ?」
「だって、暗殺者としての実力があるなら、自分たちを実験台にするやつらを殺して解決するじゃない。これ以上不幸な子が出ないようにあなたが貴族を殺すことができるようになった要因である研究員? を消せばいいだけのことだと思うけど」
研究員を消した後ならまた別だけど。
「……そうだな。殺せたら違った道に行けるのかもしれないな」
―――殺せたら……?
不死身とでも言うのだろうか。
「一つ教えてやる」
少年は間を開けて、ゆっくりと言った。
「―――奴隷契約を結んでいる限り、俺は、俺らは、暗殺をやめることはできない」
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