第86話 聖女の加護

「枢機卿はいいのか?」

「枢機卿はみんな聖痕持ってるからね」

「ん? 聖痕持ちってそんなにいるのか?」

「いないわよ。っていうか、自然発生するパターンは本当に珍しいんだから」

「じゃあなんでみんな聖痕持ってるんだよ」

「枢機卿ってさ、みんな一度はイングラム教会の大司教を務めるのよねぇ」

「……もしかしてその聖痕って」

「たぶんね」


 今の枢機卿、みんなそのナイフで自分を切ったのか……。

 なんて奴らだ。


 ただまあ聖別の短剣で切ってるんだったら、枢機卿の中に邪な奴はいないと言える。

 だが、中には聖痕が出来ずに消えた奴もいるだろ。

 いいのかそれでエル・テオス教。


「まっ、そんなわけで、聖痕っていろいろと特別なのよ。だからその作り方は内緒だし、効果も内緒になってる」

「なるほどな」


 勇者ルートで聖女が聖痕の設定を言わなかったのは、そもそも言えない情報だったからだ。

 勇者って教会所属だし、後ろに教皇がばっちり付いてるしな。

 下手に勇者に話して、どこかからそれが漏れたら、聖女は勇者パーティから外されて処刑される。


 だから、言えなかった。


 さてさて、すっきりしたところで現実に目を向けよう。

 丘の下じゃ、今もベリアルや悪魔が街を破壊してる。


 おっ、ベリアルの取り巻きが上手い具合に剥がれてるな。

 ユルゲンとジェイが頑張ってくれてるおかげだ。


 その二人は……うん、探すまでもなく見つかったわ。

 めっちゃ悪魔群がってるし。フレアバンバン飛び交ってる。


 綺麗な建物が並んでたはずなのに、真っ平らになってるし……。

 まさに地獄絵図だ。


 戦力の均衡は、ギリギリ保たれてる。

 これなら俺の支援はいらないな。


 そんじゃあ俺は心置きなくボスと殺り合いますか。


「待って!」

「なんだ?」

「ちょっと、大事なこと忘れてない?」

「ん……?」

「力……ほしくないの?」

「あ、ああ! 欲しい!」


 ベリアルは確実に殺れる。

 だが、力が増えるなら有り難い。


「じゃ、じゃあ……目を瞑って」

「は? いや、なんで――」

「いいからッ!」


 聖女の剣幕に圧され、急ぎ瞼を瞑る。

 ここは戦場だぞ。目を瞑るとか怖いんだが……。

 そわそわする俺の額に、なにか柔らかいものが触れた。


 次の瞬間だった。

 体中に、暖かい気が湧き上がる。


「えっ……」


 瞼を開くと、一番にそっぽを向いた聖女が目に入る。

 すごい、耳まで真っ赤だ。


「ど、どうよ」

「ああ、確かに力が漲ってる」


 まさかこれは……。


 急ぎ、ステータスを確認する。


○名前:エルヴィン・ファンケルベルク

○年齢:16歳  ○肩書き:国王

○レベル:99

○ステータス

 筋力:21889→24078 体力:24354→26789

 知力:22008→24208 精神力:50391→55430

○スキル

 ・大貴族の呪縛 ・剣術Ⅵ ・身体操作Ⅶ ・魔力操作Ⅴ

 ・強化魔法Ⅵ ・闇魔法Ⅵ ・威圧Ⅴ ・調合Ⅳ

○称号

 ・EXTRAの覇者

○加護

 ・聖女の祝福 NEW



 なん、だと……ッ!!

 なんで聖女ルート専用の加護が、俺についてんだよ!?


『聖女の祝福』は、ラスボスを討伐しに行く前に、聖女が勇者に与える加護だ。

 その効果は全ステータス10%アップという、破格の性能だ。


 たしかに、パワーアップはした。

 おかげでびっくりするくらい強くなった。


 でもこれ、勇者専用じゃないの?

 いいのか俺なんかに加護渡して……。


 ってか、一番大事なこと思い出した。

 この祝福を与えるやり方って――額にキスじゃねぇかよッ!!


「お前……」

「な、なによ?」

「……」


 一体どういう腹づもりだ?

 ……さっぱりわからん。


 意図がわからなさすぎて怖い。


 えっ、俺、これが原因で脅されないよね?

 どう脅されるのかちっとも想像出来ないが……。


「何で黙るのよ!? ……も、もう! 何もないんだったら、早く戦いに行きなさいよ!」


 まあ、パワーアップしたし、貰えるものは貰っておこう。

 どうせ後からクレーム付けられても返せないしな。


 気を取り直して刀剣を抜く。


「それじゃあ――行ってくる」

「神のご加護があらんことを」


 パワーアップした肉体に、さらに聖女のバフが乗る。

 いいねぇ。これなら魔王だろうと倒せそうだ。


 賑やかな夜を終わらせるため、俺はベリアルに向けて全力で走り出した。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



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