第59話 物資ロンダリング
「いつか行ってみたいな」
「本当になにもないから、びっくりするわよ?」
「そうでもないぞ。田舎には田舎の良さがある」
「ふぅん、そうかしら」
首を捻る聖女だが、表情は少し嬉しそうだ。
そりゃ、自分の故郷を褒められて喜ばない人はいないよな。
「それで、あの村は迂回する?」
「……いや、念のため通過しよう」
念のため、というのは方便。
本心は〝是非とも通過したい〟。
だって、プロデニにはない村だぞ?
見ないなんて選択肢はないだろ!
さっそく村に入る。
中は、外から見た通りの場所だ。
大ぶりなテントがずらりと並んでいて、たぶん村の長のものなのか中央には木造の建物が一軒だけ建っている。
「ふむ。テントには食べ物が並んでいるな」
「そうね。……それにしても、多くない?」
「ああ、かなり多い」
どうやらテントは、商人たちの店だったようで、入り口に食品や日用雑貨が並んでいる。
その数は、百人の村の規模を考えるとあまりに多すぎる。
並んでいる商品の量から逆算すると、千人くらいは余裕でまかなえそうだ。
さらに不審な点を2つも見つけた。
まず、宿がある。
街道上にある村だから、宿があっても不思議ではないが、その数が5件ともなると違和感を覚えずにはいられない。
さらに、花屋もある。
普通のお花屋さんじゃないぞ? 大人の男性向けのお店だ。
なんでこんなところに、花を用意する必要があるんだよ……。
マジ、この街、なんなの?
めちゃくちゃ不審すぎて引くわ。
「怪しいな」
「怪しすぎるわね」
裏社会の臭いがぷんぷんするな……。
俺たちが村に驚いていると、こちらに小太りの男が近づいて来た。
「これはこれは! エルヴィン様にニーナ様。我が村へようこそいらっしゃいました!」
「「……」」
怪しさ10ポイント追加。
この男、なんで俺たちに気づいた?
眉根を寄せると、男が慌てて頭を下げた。
「大変失礼いたしました。この街を預かっている、ポンチョと申します」
「そうか。して、ポンチョよ。話を聞かせてもらおうか」
「は、はいッ! どど、どうぞ、こ、こちらへッ」
ポンチョが丸めた絨毯を敷くような仕草をしながら、俺たちを木造の家に導く。
そんなにかしこまる必要はないぞ。
こんな不健全で不自然すぎる村を作った理由を、すこぉしだけ聞かせて貰うだけだ。
ファンケルベルクの街の近くに、こんな意味不明は村があったんじゃ、具合が悪いからな。
「あ、あまりに唐突でしたので、な、なにもおもてなし出来ず、申し訳ありません」
「気にするな」
木造の家に入った俺たちは、応接間に通された。
む、この応接間にあるもの、やたら質がいいな。
ソファやテーブル、調度品や絨毯の質が家の格に全く釣り合ってない。
なんだか普通の年収のサラリーマンが購入した、新車のフェラーリみたいだ。
違和感がすごい。
ソファに座ると、ギュッという音とともに柔らかく沈む。
おー、これファンケルベルク邸にあったやつと同じくらい、すげぇ座り心地いいぞ。
隣に座った聖女も、格別の座り心地におっという顔をしている。
ポンチョは俺たちの前に立って、額に浮かんだ汗を拭っている。
「……座らないのか?」
「よ、よろしいですか」
「よろしいもなにも、お前の家ではないか」
「は、はひ……。それでは、失礼いたします」
どっちが家主なんだかわからんな。
まあ、こいつは俺が元貴族(?)で、ニーナが聖女だって気づいてるみたいだし、ただの村長なら緊張もするか。
「して……話してくれるな?」
「はひぃ! た、ただいまこの村の売り上げはじゅ、順調ですッ! 通行量の多い街道ですので、そ、想定通り利益が、あ、上がっておりますッ!」
「……む?」
なんの話かさっぱりわからん。
他人宛てのメールを読んでる気分だ。
俺が聞きたいのはそういうことじゃないんだが。
「ぶ、物資ロンダリングについては、一切手数料を取っておりませんッ! 断じて! それはエルヴィン様に対する裏切りに他なりませんから。も、もしお疑いでしたら、調べて頂いても大丈夫ですッ!」
「……エルヴィン?」
隣から、冷えた声が聞こえた。
途端に背中に脂汗が吹き出した。
知らないよ?
俺、何も知らない!
……うん。
この村には不審な点は一つもなかった。
さて、先を急ごうか!
腰を浮かしかけた瞬間、ニーナが無情に問うた。
「アンタの上司は誰?」
「ユルゲン様でございます」
うわぁぁぁあああ!
ユルゲンお前かぁぁぁッ!!
ほら、やっぱねって聖女の視線が痛い痛い。
いや、まあ物資ロンダリングなんて台詞を聞いた時点で薄々思ってたけどさ……。
「物資ロンダリングって何かしら?」
「ここを中継地点にして、ヴァルトナー家の物資を、ファンケルベルクの街に卸すことでございます」
ラウラ、お前もかッ!
っていうか俺だけなにも知らされてなかったの?
俺、ファンケルベルクの当主で、一応国王ってことになってるのに……。
しかし、ここでやっていることがなんとなく見えたわ。
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