第20話 side

「おい見ろよ!あの方がかの有名なガルムン様だぜ」


「もう出で立ちからして違うよなぁ。強者の風格っていうかさ」


「きゃー、ガルムン様ぁ結婚を前提にお付き合いしてぇ」


「うほっ、いい体っ♡お突き合いならアタシの出番よぉ///♂」


「かっけー!!おれも将来はあんなふうになるんだー!」


 あの者かの者、男を見てはあれやこれやと麗句を述べる。

 どうして嘲罵などあるだろうか。いやない。


(ったく…。今日も相変わらずだぜ)


 今となっては歩くだけで人混みが割れ、道ができる男。

 髪をかきあげるだけで、全ての女から求婚される男。

 数百ものゴブリンとオークを一度に片手で始末した男。

 ブラックタイガーの群れをデコピン一つで月まで吹き飛ばした男。

 なおその全てが噂の独り歩きによって成り立っている男。


 そう、俺。ガルムン・マジカである。


 ことの経緯を説明しようか。


 俺がブラックタイガーを追っ払ったと適当な嘘をついてからしばらくして、ある知らせが街中に広がったんだ。

 それは、『ブラックタイガーが完膚なきまでに蹂躙されて殺された』という情報だった。


 そうして必然的に、皆の目線が集まったのは俺だった。

 当時の俺は、なんという幸運だと舌を巻いた。そして言ってやったのさ、


『ああその事か。実は追っ払っただけじゃまだ足りないと思ってな。探し出して討伐しておいたのだが……もしかして迷惑だったか?』


 するとギルド内ではもう称賛の嵐よ。


「神!」「感謝ぁあ!」「お前はどこまで実力を隠していたんだ…」「な、なあ俺たちパーティー組まないか?」「うふふ//♂」「黄金時代キタァァ」


 と言った具合に。


 それからこの惨状になるまで時間は掛からなかった。冒険者が住民に話して、住民が曖昧な記憶を語り回った。


 そうして。

 ゴブリン十数体とオーク5体をなんとか倒したという嘘は、ゴブリンとオーク数百対を片手であしらったと言う嘘へと転化し、

 ブラックタイガー一体を念の為倒してきたと言う嘘は、ブラックタイガーの群れをデコピンで月までぶっ飛ばしたとかいう、少し考えれば嘘だとわかるレベルまで誇張されていた。


 それでもそれを信じて疑わない市民。

 ちょっとは疑えよ!そこまで話が飛躍してるなら!


 初めは崇拝される優越感と全能感に浸って気持ちよくなっていた俺もここまでくると流石に焦りというものが現れ始める。

 ブラックタイガーが倒された事には驚きだが、その手柄が完全に俺のものになりつつあるのはガチでまずい。

 倒した本人に見つかった時点で殺されてしまう…。


 幸い、まだ見つかってはいないみたいだが、もはや時間の問題だろう。


 やっぱり潔く本人を探して謝るしかないのだろうか。でも絶対怒ってるだろうしなぁ。嫌だなぁ。けどこのままだともっとまずいことになりそうだよなぁ。


「おにーちゃーん!ガルムン兄ちゃんのお話聞きたいなぁ」


「ん?いいだろう僕ちゃん。何の話が聞きたい?」


「えーっと、えーっとねぇ。」


「なんだい?」


「隣の国の勇者だった時の話がいいな!」


「………いいだろう!あれは確か15歳の時だったんだがな。突然足元にこーんな大きな魔法陣がな?―――」


 噂の独り歩きはまだまだ続く………。

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