第14話『ミラ。二人きりで会いたい。ヘイムブルの、思い出の湖で君を待つ』

衝撃的なシュンさんの話は、信じられない様な話を重ねて、突き進んでいった。


「結局、時道と宗介の戦いは和葉の家を崩壊させるだけでは止まらずな、街にも被害が出始めて、正式に十二刀衆が招集された。という訳で俺も戦闘に参加する事になったが、余計被害が広がってしまった為、全員和葉に怒られ戦闘を止める事になったという訳だ」


壮絶な話だったなと思いつつ、私は最初に聞いていた事がどうなったのか気になり、シュンさんに聞いてみる事にした。


「そういえば、和葉さんと宗介さんのご結婚についてはどうなったのですか?」


「あぁ、その件か。実はヤマトにはな、巫女様という建国の神の末裔が居るのだが、この御方が、我らの訴えを聞き、宗介と和葉の結婚を後押しして下さったのさ。どうなろうが、二人は共にヤマトの子であると、故に生まれてくる子もヤマトの子であり、生まれた後にどの神刀の担い手になるか、刀に聞けば良いと言ってな。そして二人はめでたく結婚する事になった」


「……! それは素晴らしいですね!」


ここまで話を聞いていて、ようやくまともな人物が出てきたことに喜びを感じつつ、私は見た事もない二人が幸せな未来を歩み始めたという事に、大きく手を叩いた。


「あぁ。そうだな。めでたい事だ。素晴らしい事だな」


「くく。その様子だと相当派手に祝ったんだろうな」


「あぁ。時道と話していてな。折角の祝いの場だ。派手にいこうという話になってな。森の主と呼ばれていた巨大なクマを狩りに行く事にしたんだ」


ニヤリと笑いながらシュンさんが語り始めた言葉に、私は何だか嫌な予感がしつつ、唾を飲み込みながら話を聞く。


「森の主か。という事は俺達の体の倍くらいか?」


「いやいや。そんなモンじゃない。あー。そうだな……あそこに木があるだろう。俺達が手を繋ぎ合っても足りないくらい太い木だ。あの木よりもちょっとデカいくらいだな」


「ほー。中々の大物だな」


いやいや。中々どころの騒ぎじゃない。


木の大きさはヴェルクモント王国の城壁よりも大きいくらいだから、多分一般的な街や王都の城壁よりも大きいという事になる。


そんな物、国難級だ。


冒険者組合で危険度Sと認定されてもおかしくない。


ドラゴンと同じくらいの危険度だ。


そんな物に挑むなんて、とてもじゃないが正気とは思えない。


いや、ここまでシュンさんの戦いを見てきたけれど、もしかしたらこれがシュンさんの普通なのかもしれない。


「そして目的通りソイツを見つけたんだがな、このまま倒しても肉を持って行くのは大変じゃないかと気づいてな。二人で上手くソイツを誘導して式場まで連れて行ったんだ」


「えぇぇぇええ!? 何故、その様な事を!?」


「肉を運ぶのが面倒だったからな」


「さっきそう言っていただろう。聞いていなかったのか? ミラ。これがシュンの常識だ」


「聞いていましたけど、聞いていましたけれど! 結婚式ですよ!? 二人の幸せな場所ですよ!? 一番大事な瞬間じゃないですか! そこに!? 国難級の魔物を連れて行った!? どういう事ですか!」


「どういうと言われてもな、そのままだ」


「くぅっ」


私は過去の事とは知りつつも、今すぐその場所に移動して、シュンさんとそのお友達を止めたいと思ってしまった。


どうにか出来ないだろうか。


余りにも宗介さんと和葉さんが可哀想だ。


しかし、現実にはどうにも出来ず、ただ話を聞くばかりだ。


「それでな。上手く誘導出来て、式場まで運ぶことが出来たんだよ」


「ほぅほぅ。盛り上がってきたな」


「あぁ、あわわ」


「そして森の主と共に会場へと乱入した俺たちは、そのままその場で倒そうとしたのだが、ここで問題が発生してな。なんと、この魔物が暴走し始めたんだ。腕を大きく振るってな、地面に居る俺達を攻撃しようとした。まぁ、俺と時道は咄嗟に避けてかわしたんだが、コイツはそのまま体勢を崩して、会場へ倒れそうになってな」


「な、なんてことを……」


思わずその光景を想像して倒れそうになってしまった。


多くの苦難があり、ようやく一つのゴールへとたどり着いた二人に対するあまりにも、あんまりな仕打ち。


せめてこのお話の最後がハッピーエンドで終わる様にと私は祈る。


「会場も気づき、迎撃態勢を取ろうとしたのだが、どうやっても間に合わない。そこで俺と時道は己の限界を超え、代々家に伝わる技の域を超える領域へと足を踏み出した。それを両側から森の主に放つ事により、森の主はまた空中へと跳ね上がり、それに向かって宗介と和葉が共に己が放つ事の出来る最高の技を放ち、森の主を見事に打ち取ったという話だ」


「はっはっは。もう無茶苦茶だな。ヤマトの民というのは!」


「そうでもない。どこでも普通に行われている事だろう。確か、そう。結婚式では、二人で手を合わせて何かを真っ二つにするという……」


「もしかして、ケーキ入刀の話をしていますか?」


「あぁ、確かそんな名前だったな」


「少なくとも、シュンさんのお友達以外はその様なケーキ入刀を行ってません。普通にケーキを二人で切るだけです」


「そうか。だが、まぁ似たようなものだろう」


「……」


どこも同じじゃない!!


同じじゃないのに、オーロさんはまぁ、似たような物だな。なんて言ってて、私はそんなんじゃないのに! と訴えた。


だが、二人は笑うばかりで何も分かってはくれなかった。


「しかし、ミラは結婚に対して大分夢があるようだな」


「それはそうですよ。綺麗なドレスを着て、大好きな人と一緒に過ごせる最初の第一歩ですよ。夢もありますし、願いだって大いにあります」


「そういう物か」


「そういう物です!」


「なるほどなぁ。しかし、確かミラは貴族の子だろう? 好きな相手と結ばれるとは限らないだろう?」


「それは確かにそうですが、まぁ、結婚する相手を好きになれば良いじゃ無いですか。どんな人だって良いところも悪いところもありますし。全てが完璧な人なんていませんよ」


「結婚に夢を見ている割には、妙なところで現実的だな」


「まぁ……そうですね。限られた世界で夢を見る様になったという所でしょうか」


「そうかい」


「ミラ」


「はい。何でしょうか。シュンさん」


「もし、お前が貴族の子だからと、嫌な相手と結ばれる事になるなら、俺を呼べ。世界の果てにまでだって逃がしてやる」


「……!」


真剣な眼差しで、私を射抜くシュンさんに、私は心の奥底から湧き上がる嬉しさを噛みしめながら、小さく頷いた。


その願いは叶わないと知りつつも、今この瞬間だけは、夢を見ていたかったのだ。


「そうですね。もし、そんな機会があれば、お願いします」




すっかり夜も遅くなってしまった時間に、私はふと聞きなれた人の声に目を覚ました。


それは私の持ってきた荷物から聞こえてくる声で、私はそれを手に取って、通信機の向こうに話しかけた。


「テステス。こちらメイラーのミラです」


『こちら、ヴェルクモントのセオ。ミラ。聞こえるか?』


「はい。聞こえておりますよ。殿下」


私は酷く懐かしいやり取りに、笑みを零しながら通信機をキュッと握りしめる。


「殿下……私は」


『ミラ。二人きりで会いたい。ヘイムブルの、思い出の湖で君を待つ』


「殿下……!」


私は通信機の向こうに呼び掛けるが、殿下はそれ以降通信機を切ってしまった為、私の声は届いていない様だった。


「……」


「ミラ。行きたいのだろう?」


「オーロさん」


「後悔しないコツはな。行動する事だ」


「シュンさん」


私はいつの間にか起きていた二人を見据え、強く通信機を握りしめた。


殿下への想いを心に描きながら。


「……私、殿下にお会いしたいです」


「あぁ」


「任せろ」

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