第8話『まぁ、この程度は大した敵じゃない』
レーニさんの魔術で、王都の北に位置する森へ降り立った私たちは、そのまま北にあるリヴィアナ様の封印書庫へ向かう事にした。
「あー。今代の聖女……名は」
「ミラです。ミラ・ジェリン・メイラーと申します!」
「そうか。ミラ。やや乱暴な救出となってすまないな。それと、私が手助けを出来るのはここまでだ」
「ヤマトへ戻るのか」
「当然だ。あの子達を一人で残しておくわけにはいかないだろう」
「聖女様には最低三人の侍が護衛に付いているはずだが? それに最近は巫女様と同じ場所に居る事が多いし、そうなれば七人は居るだろう」
「フン。お前たちが何人居ようと信用など出来るものか。三年前の事を忘れたか。私が居ない間にトカゲなんぞに襲われ、日和は命を落とし、楓の妹、桜が行方不明になったのだろう? 巫女だなんだと崇めて護ろうと息まいても、お前たちは所詮その程度という事だ」
「っ」
レーニさんの言葉に、シュンさんは表情こそ変えていなかったが、ショックを受けている様だった。
だから私は、そんな風にシュンさんが言われるのが嫌で、シュンさんを護るべくオーロさんの手を飛び降りて、レーニさんの前に立った。
「あ、あの! お二人の関係はよく分かりませんが、私はシュンさんに何度も助けられましたし、その強さもよく知っています! なので、そういう所も考慮していただけますと幸いです!」
「……ふっ」
何か笑われた!!
「変わらないな。セシルの言う通り、聖女とはそういう存在なのかもしれないな」
「……セシル? まさか、聖女セシル様!?」
「悪かった。瞬。謝っておこう。それにミラ。嫌な事があったらすぐに私を呼ぶと良い。風に乗って君の声が届けば、どこからでも私は飛んで来よう」
「え? あの!」
「ではな!」
レーニさんはあっという間に姿を消してしまった、最後に頭を撫でた感触だけを残して。
「レーニさん! レーニさーん!!?」
呼んでみるが、返事はなかった。
なんて事だ! 聖女セシル様について知っていそうな人に会ったのに!!
「あれがレーニ・トゥーゼか」
「知っているのか? オーロ」
「当然だ。俺はアレが居ない時を狙ってヤマトへ向かったんだからな」
シュンさんとオーロさんの話を何となく聞きながら、私はふむ。と考える。
とにかくだ。
レーニさんが実在した事は確かだし、シュンさんの知り合いだという事も確か。
という事は、いずれヤマトへ行った際に色々と聞けば良いだろう。
「とりあえず、追手が来る前に、目的地を目指しますか?」
と、私は二人に声を掛けて、リヴィアナ様の封印書庫を目指して進むのだった。
リヴィアナ様の封印書庫は、王都の北部に位置する人が寄り付かない森の奥にある。
歩けば半日程度で王都から辿り着くため、ただ距離だけを考えるなら非常に行きやすい場所だ。
しかし、その道中には恐ろしい魔物や、危険な場所を多く通る為、あまり人は寄り付かない場所なのだ。
だから慎重に進まなくてはいけない……のだけれど。
「あっ、危なーい!! 沼地に潜む毒カエル、ジャイアントスワンプフロッグは、別名死への誘いとも呼ばれ……ているんですが、特に何も無かったですね」
「そうだな」
「まぁ、この程度は大した敵じゃない」
「そうですか」
冒険者組合で、危険度Bに登録されている魔物なんですがね。
その大きさは大人と同じくらいで、体は柔らかく衝撃を吸収する為、刃物も通りにくい。
更に、いつも沼の中に潜んでいる事から発見が難しく、魔術で仕留めようにも、強靭な脚力で飛び跳ねるジャイアントスワンプフロッグは狙うのが難しく、冒険者ランクB以上でないと討伐依頼を受けてはいけない魔物なんですけどね。
沼から飛び出して……次の瞬間には胴体が真っ二つにされてました。
何が起きたのだろう……。
シュンさんが何かしたのだろうと思うけど、それしか分からなかった。
が、私は完全に油断していた所を襲い来る、次なる敵に気づいていた。
そして注意を促すべく、近くにいたオーロさんに声を掛ける!
「危ない!! 今、草むらの低い場所が動きました! しかし、姿はない。この様な動きをするのは危険度Aランクのクリアサーペントに違いありません!! この森に分布している種の中で、その様な特徴と体長の生物は他に居ませんから! 気を付けてください! クリアサーペントはその姿が見えないという点も危険ですが、何よりもその速さです! あまりにも早く地面を動くその速度に人は追いつけ……ない筈なんですけど、捕まってますね。あっ! でもそれだけじゃありません! クリアサーペントには強力な毒があり、その牙はどんな鎧も容易く貫く……筈なんですが、大丈夫なんですか? そうですか」
私は地面を走る。見えないハズの毒蛇を捕まえて、両手でちぎっているオーロさんをみて、うーんと唸った。
常識が通じない。
この二人には、まったくと言っていい程、常識が通じない。
「むー」
「なんだ。ミラは何を唸っているんだ」
「別に! 何でもありません!!」
違う。
何か私が思っていたのと違う!!
もっと、こう。強大な魔物にピンチになって、私のアドバイスが切っ掛けになって、魔物を倒す! みたいな展開が待ってると思ってたのに。
現実はシュンさんとオーロさんという暴力装置が暴れまわり、もはや魔物が被害者だ。
そして極めつけは。
「っ!? こ、この足音はかなり大型の魔物! 恐らくはジャイアントベアーでは無いでしょうか!? 都市近くの森に住まう大型の魔物はその多くがジャイアントベアーと言われております! 気を付けてください! 彼らの獰猛な生態は」
「なるほどクマか。シュン。いけるか?」
「あぁ。夕飯にちょうど良いな」
「並みの冒険者では……って、え?」
シュンさんが地響きのしている方へ走って行き、次の瞬間には大きな地鳴りと共に何かの悲鳴が森に響いた。
そして、それから少ししてシュンさんが、私たちの前にクマを持って帰ってくるのだった。
そんな!!
そのクマ、確かに危険度だけで言うならBランクですけど! かなり獰猛な魔物で、執念深く、しかも頭もそれなりに良いため、依頼を受けた訳じゃないのなら、目をくらませてから逃げろというのが常識なんですけど。
Aランクのチームですら準備不足では全滅するとすら言われる魔物なんですけど!?
「中々デカいな」
「うむ。これなら、数日は食料にも困らないだろう」
「それは違いない! ワッハッハ」
だというのに! それなのに!!
この人たちは当たり前の様にそんな危険な魔物を倒して、あげくにご飯にしようと言うのだ。
信じられない。
「じゃあ、どうするか。焼くか?」
「まぁ、それが良いだろう」
「ちょーっと待ってください! そのまま焼いてはいけません! 固くなりますよ! それに臭みも強い! ジャイアントベアーにはしっかりとした調理法があるのです!」
「ほぅ」
「では、頼めるか? ミラ」
「はい!! お任せください!!」
来た! 来た!
私の出番だ!
やっぱり知識がいっぱいある人というのは、必ず役に立つのだ。
力ばっかりじゃ、美味しくないご飯しか食べられないし、地図を見る事が出来なければ、迷ったまま目的地に辿り着く事も出来ない!
そう。知識は力なのだ。
という訳で、私はオーロさんと一緒に、臭み消しと肉を柔らかくする為の薬草を探すべく森の中を探索し、シュンさんには火をお願いする。
そして最高の夕食を作り、食べられない分は保存食にするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます