片恋☆バレンタイン
宵宮祀花
片恋☆バレンタイン♡表
いっけなーい☆ちこくちこくー!
わたし、堂ヶ内
趣味はお菓子作りと筋トレで、特技はスチール缶潰し! 超エコでしょ♡
憧れの先輩にあげるチョコを気合い入れて作ってたら、いつの間にか夜が明けてて大ピンチ! キッチンで立ったまま爆睡ぶっこいてたとこをお母さんのドラミングで叩き起こされて、慌ててチョコ引っ掴んで飛び出してきちゃった!
先輩はモッテモテだから出遅れたら死ぞ! って散々友達に脅されてたのにー! いったいわたし、どうなっちゃうのー!?
「……ってなわけなんですよ!」
「なんも伝わってこねーのよ」
朝のHR前の自由時間に、友人であり恋の相談相手でもあるみゆみゆに思いの丈を全部ぶちまけていたわたしに、容赦ない突っ込みが刺さった。
いやだって、聞いてくださいよ。マジで今日は先輩のために気合い入れてきたっていうのに、とき既にお寿司だったとか激萎えじゃないですかーやだー!
「まあ、去年も今年も軽トラ持参しろよってレベルでもらってるからね、あの先輩」
「そーなんだよねー」
机の上でぐでたま化したわたしを見下ろす、心結の顔は険しい。なのに超可愛い。マジでその辺のアイドルなんか目じゃないレベルの美少女だ。うらやまけしからん。わたしが心結の顔面を持って生まれてきてたら、たとえ先輩の周りに軽トラ一個分のチョコマウンテンが出来ていたとしても、堂々と凸ってたのに。現実は非情である。
「ねえ心結ぅ、今年ももらってくれる?」
「しょーがないなーここ太くんは。伏して献上せよ」
「ありがとう、みゆえもん! お納めください!!」
がばりと抱きついたわたしを、心結は無表情で受け止める。
もはやあたまのよわいタイプのわんこを諦めてもふるときの飼い主の顔だ。心結、躾を諦めたらそこで試合終了だぞ!
「で、今年はなに作ったの?」
もー、心結ってばクールビューティープリチーガールなんだから。
「ブラウニーだよ。ちょっといいチョコ使ったから美味しいと思う」
可愛いラッピングが、可愛いネイルがされた可愛い子の手によって、無残にも塵にされていく。なんか毎年、心結ってばわたしの心がこもったラッピングを親の仇でもバラすみたいに破り散らすんだよね。
もしかして自分以外に可愛いものは存在しなくていいっていう意思表明? やだ、惚れそう……! 心配しなくても心結は世界一可愛いのに!
「ところで、いいチョコって?」
「あっ、そこ気になる? 気になっちゃいます!? 実はねー」
「……やっぱいいや」
「聞いてよー!!」
机の上でびたんびたんしてるわたしを、ゴミを見る目で心結が見下ろす。何だか、最近このクソ冷たい視線を浴びるのが快感になってきている自分がいる。ヤバい。
後戻り出来ない領域へとダイビングしてしまう前に、わたしは体を起こして心結を見つめた。形のいい唇がわたしのチョコを食べている。たまらん。
もうね、一生見つめていられる。
「あんまりじっと見ないでよ。キモい」
「キッツ! いやまあ、わたしも不躾でしたけどもー」
ふてくされて目を逸らすと、廊下を先輩が歩いているのが見えてしまった。左右と後ろに女子生徒がまとわりついていて、ぶっちゃけ怖い。あんな中を突撃したらまず確実に、明日の朝陽を拝めなくなる。怖い。
特攻かまして死ぬのは嫌だからって、いつも心結をダシにしちゃってるのは悪いと思うんだけど、でも、心結にあげたいのも事実だったりするんだよね。
わたしは先輩が好きなはずなのに、先輩にあげられないのはそこまで悔しくないというか、しょーがないかなって感じなんだけど、もし心結にあげられなかったらって考えると立ち直れなくなる。
心結が他の人のチョコを食べてたら、もっとしんどいと思う。想像だけでつらい。
「……?」
不意に、先輩の目線がこっちを向いた。でも、わたしとは別に目が合わなかった。そりゃまあ、わたしなんか塵芥にも劣るモブ女ですけども。
だったら誰のほうを見たのか。そんなのはわかりきってる。心結だ。
目線が向いたのは一瞬で、またふいっと前を向いてしまったから、幸いにして彼の取り巻き女子集団には気付かれなかったみたいだけど。
心結のほうを見れば、相変わらず涼しい顔でわたしのブラウニーを食べている。
「ねね、美味しい?」
「あたし、不味いものも汚いものも食べないよ?」
「知ってるぅー」
美少女は美しいもので出来てるんだもんね。
わたしの作ったブラウニーが美しいかどうかはわかんないけど、美味しい自信なら百パーあるから。
つーか心結は、他人の手作りが苦手で、ファミレスとかスーパーのお惣菜なんかも無理らしい。あれも裏でおばちゃんが作ってるからねえ。作業するときは手袋してるらしいよって言ったんだけど、なんていうか生理的なものだからだめなんだとか。
それなのに、わたしのチョコは毎年もらってくれる。目の前で食べてくれる。その事実に優越感を覚えてしまうわたしは、きっと性格が悪いんだろうな。
心結は苦しんでるのに、ずっとわたしの手作りだけ食べていればいいだなんて……いつか罰が当たりそうなのに、願うのをやめられない。
「そうだ、一先ずお礼」
「なにこれ?」
心結が渡してきたのは、金魚草の可愛い栞。ピンク色の花と生成っぽい色の台紙が凄く綺麗。しかも、ほのかな香り付き。美少女はお返しも優雅だ。
「ホワイトデー、期待してて」
自分じゃ絶対選ばない可愛くて繊細な押し花の栞に喜んでいたら、追撃がきた。
悪戯を企むような顔にドキドキしているのは、きっとヤバいなにかに目覚めているせい。そうだと思いたい。
……いや、それもそれでどうかと思うけど。
心結は可愛いから仕方ないんだよ。うん。仕方ない。
だからさ、顔が熱い気がするのはきっと、恋とかじゃなくて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます