第59話 ベリーズ職人としての最後の仕事
ロイがギルドマスターと話をしている頃、ベリーズはとある子爵家の扉を交換していた。
冒険者活動に移行する為、木工職人として最後となる仕事で、ロイと知り合う前に受けていた分だ。
今は外した古いドアから丁番を外し、新しいドアへ流用する作業をしていた。
技術レベル的にまだまだ丁番は高価で、丁番は職人による手作業で作られるのだ。
ベリーズはソニアから油と金属のブラシ、布を受けとると丁番にメンテナンスを施す。
木工職人とはいえ、ドアの関連部材なので、基本的な手入れの方法は知っている。
今回仕入れたドアの素材は、付与師が結界魔法を付与することが可能な木で、それは先日ロイたちが回収した素材だった。
特に特別な種類で、耐熱性、耐久性、防水性能に優れており、ベリーズにとって最後の大仕事に相応しい出来に繋がった。
取り付けはベリーズの指示の元でソニアが行った。
正確には収納からドアを出すときに、きちんと収まる位置に出すだけの簡単なお仕事だ。
元の扉は少し焦げており、それはボヤがあったことを意味する。
そして40歳になろうかという子爵本人に、取り付けが完了した旨の報告を終え、帰ろうとした時にそいつは来た。
子爵が執事と共に扉の中に入ろうとすると、20代前半の肥え太った奴が外に出てきたのだ。
「ほうほう、これはこれは。お前に私の妾になることを許そう。今すぐ私の寝室に来るのだ!たっぷり可愛がってやるぞ!ぐへへへへへ」
ソニアはその言葉に驚いて固まったが、ベリーズは毅然とした態度で答えた。
「彼女はある貴族家の子息の婚約者です。いくら子爵家の子息様でもそれは叶いませぬ」
「わ、私に逆らうというのか!貴様、不敬罪だぞ!」
執事が首を横に振ると、子爵はため息を付いた。
「済まぬな。このバカ息子が!。ベリーズ君、愚息が迷惑をかけたな。こやつは最早病気でな。さて、もう行った方が良い」
子爵が息子の襟首を掴んで中に入っていった。
「なるほど。ロイ殿が貴族と関わりたくないのは、この手の面倒事が嫌だからなのか」
それから慌てて引き上げ、ロイと合流すべくリックガント魔法道具店に向かった。
先ほどの小太りの男のおかしな言動は薬によるものだ。麻薬、媚薬、阿片などの薬物が貴族社会に蔓延しており、当主たる父親の前であのような振る舞いをし、恥をかかせることに何の躊躇いもない位に精神を蝕んでいた。
子爵が部屋に閉じ込めていたが、どうやってか出てきたようだ。
その頃同じくリックガント魔法道具店に向かっていたロイは、裏路地からトラブルの気配を感じた。取り敢えずそこに向かうと、背の高い緑の長い髪を後ろで束ねた女が、4人の男に絡まれていた。
「おい、女、いくらでやらせてくれるんだ?」
「あたい売女じゃないし、あんたらが思うような体じゃないわよ?」
「けっ!こんなエロそうな…っち!オカマかよ」
胸を鷲掴みにしたが、パッドがずれ落ちたのだ。
「何がオカマよ!失礼な!」
会話がきちんと聞こえなかったが、女性が殴られそうになっているのを目撃したロイは、多勢に無勢な状況にも関わらず助けに入ることを決めた。
そして怒りを込めて叫ぶ。
「何をしている!大の男4人が女1人を襲うなんて、男の風上にもおけない!」
「ああん?なんだてめぇ!?このカマ野郎の仲間か?」
「知らない人だが、弱き者が襲われていて見過ごす選択肢は僕にはない」
「聞いたか!こいつ僕だって!ウケるぜ」
「危ないから僕ちゃんはお家に帰ってママのおっぱいでも吸ってろって!」
「財布置いていくなら見逃してやんぜ!」
「下衆め!吠えてないで掛かってきたらどうだ!」
ロイは珍しく熱くなり、手を突きだし、くいくいと挑発した。
激昂した男たちが抜剣して襲ってくるが、回りの者たちから悲鳴が上がった。
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