第50話 レベルの存在
この日、色々な時短効果もあり、合計30体のスライムを狩ってギルドに戻る。
そして無事にベリーズ、ミランダ、エリナはランクアップを果たした。
また、今回はスライムの魔石を手元に置いておきたく、魔石の買い戻しをすることにした。
解体場に行き、一度スライムを出してそこから魔石を抜くことを繰り返し、スライムが並ぶシュールな光景を作る。
ついでと言われ、解体中の魔物から魔石を抜き取る事に。
魔石は買い戻すので、常時依頼であるスライムの駆除依頼の達成報酬は消えてしまい、実質的に稼ぎとして受け取るお金はない。
代わりにリックガント店でのポーション販売による利益を分配することにしたが、ベリーズ、ミランダ、エリナは受け取りを遠慮した。
「ロイ殿、流石に今回はお金を受け取るわけには行かない」
「いえ。これから冒険者になるなら、装備とか必要ですからそのためのお金として受け取ってください」
半ば強引に受け取るように言い、後はソニアに託した。
何故かと言うと、ロイはリラに呼ばれギルドマスターのところに顔を出すことになったからだ。
なので、他の面々はリックガント魔法道具店に向かう。
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ロイとリラはギルドマスターの部屋に足を踏み入れた。
壁に掛けられた歴代の英雄たちの肖像画が、この部屋に訪れる者の勇気を試すかのように見下ろしている。ギルドマスターは彼らを待っていた。彼の目は、古い書物から知識を吸収した賢者のように深く、静かな池のように穏やかだった。
既にテリーと話し込んでおり、ようやく来たかと言いたげな表情をした。
「ロイ、リラ、待っていたぞ」
ギルドマスターの声は部屋に満ちる暖かい光と同じくらい温かく、歓迎していることを感じさせた。
「昨日ぶりですね」
テリーが一言告げると、ロイが挨拶する前にせっかちなギルドマスターが本題に入った。
「お前さんの話に興味がある。ギフトについて後天的に能力が上がるという話のことだ。時にリラよ、お前もそうだが鑑定能力は物に対してのみ有効ではないのか?人に対してはほとんど役に立たぬと聞いている」
リラは頷くと静かに答える。
「はい、通常はそうです。ご存知の通り、受付業務の一環でアイテムや討伐証明部位の真偽を確かめる為に鑑定を行います。確かに慣れてくると短時間で鑑定が行えるようになります。しかし、そういった能力だと広く知られていると思いますけれども」
テリーが手を上げた。
「しかし、私たちが試みたいのは、レベルという概念を探ることです。王宮で保護、いや秘匿されている鑑定士の話が本当ならパラメーターが見え、その中にレベルがあるという。我々の知っている常識だとパラメーターは誰にも見えないはず」
テリーの話が一段落するとロイが手を上げ、自信に満ちた声で言った。
「僕の考えはレベルが上がることで、身体能力が向上し、加護の能力や性質が向上するというのです。事実として、僕の剣はオークの肉を斬れました。ゴブリンに突きを入れるのが精一杯でしたが、明らかに鍛えた以上に膂力が出ました。何とかそれを確かめたいんです。もしリラさんがレベルアップすれば、鑑定の能力が上がり、パラメーターが見えるようになるかもしれません。ただ、ギフト自体も使えばレベルが上がるようで、僕は魔石をひたすら解体場で抜き取っていたから、レベルが上がったのだと思います。でなければゴブリンクイーンに殺されていたはずです」
テリーが疑問を投げかけた。
「しかし、リラが人に鑑定を行うことで、何か新しい情報を引き出せる保証はあるのか?分かるのは名前、性別、犯罪者か否か位だと思うのですが」
「確かに人物鑑定はかなりの魔力を消費するのと、犯罪者チェック位しか出来ないので、私も数日に一度行うかどうかと言ったところです」
リラの補足を聞き、ロイは静かに微笑みながら答えた。
「保証はありません。ですが、試みなければ何も始まりません」
「お前さんのいう話には少し矛盾がある。受付嬢は皆鑑定持ちで、毎日何度もアイテムや魔石の鑑定をしているが、お前さんのいうところのレベルアップをしているようには思えんが、これについてはどう説明する?」
「そもそも鑑定と言っても、ギフトには2つのパートがあると思います。物と人、又は生き物に対する鑑定は別物だと推測します。慣れてくるとアイテムの鑑定時間が短くなるのは、物に対する鑑定ギフトに対して経験値が貯まり、レベルが上がったからでしょう。人に対する鑑定をほとんど行わないことから、レベルアップに必要な経験値を得る人は少ないのだと思います。人と物にたいするギフトが別の物というのは、知られている話から魔力消費が違うことが物語っています。魔物を倒した時の経験値は、ギフトにも入ると確信しています」
ギルドマスターはうなずき、決断を下した。
「それならば、リラの鑑定能力を使ってお前さんの理論を試すことを許可する。しかし、注意深く進めるのだぞ」
「ど、どういうことかしら?」
「バカモン。晶石の舞に臨時加入し、魔物の討伐について行け!小僧の話だと、パーティーメンバーにも経験値が入り、レベルが上がるのだろう?」
ロイは感謝の意を表した。
「ありがとうございます。私たちは慎重に進め、命に代えてでもリラさんを守ります」
リラはロイの目を見つめ、意を決して力強く言った。
「ロイ君、私も信じています。ロイ君が守ってくれるなら・・・私もその検証に協力します。私たちの試みが、新たな可能性を開くことを願っています」
「お前さんは死んでも良いがな、こいつを死なせるのは許さぬからな。夢々忘れるでないぞ」
「父の名に賭けてリラさんをこの命に替えてでも守ることを誓います!」
その言葉にギルドマスターは頷き、リラは口を押えた。
ギルドマスターの指示の元、ロイとリラは未知の領域への一歩を踏み出すことになった。
テリーの生暖かい眼差しを背に、二人は、いや、リラは新たな冒険に向けて歩み始め、ロイはそれを守る騎士となる。2人の心は未来への希望と期待で満たされていた。
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