夏目 晴斗2話 サイコー

「んー、人に見つからない場所……」


田舎であれば場所はいくらでもあっただろうけど、都内となるとそうもいかない。深夜の閑静な住宅街でも意外と人が普通に歩いていることがある。

ふと考え込む晴斗の顔に、突然閃きが浮かんだ。


「あっ……!ここじゃん!!」


思いついたのは今まさに自分が勤務しているこの大学だ。深夜の大学は基本的に警備以外は常駐している人がいない。

正門だけは24時間体制で常に誰かが見張っているが、それ以外の門に夜間は人がいない。各建物に配置されている警備員も仮眠の時間だ。


しかも、晴斗が担当している建物は警備員が1人だけ配置されているだけだ。さらに、正門から監視できるカメラは各門のカメラのみ。建物内や構内に設置されているカメラも事件や事故が起こらない限りわざわざ録画を見返すことはない。

とはいえ、念のためにカメラに映らないように配慮するに越したことはないが。


「よし!どうせ明日休みだし、今日は寝ないで色々試してみよう!」


晴斗は心の中で決意を固めた。勤務中の仮眠時間は23時から5時までの6時間。念のため、1時から実験を始め、長引いても4時までには終わることにした。


「フォールドゲート……平たく言えばどこでもドアだが、そんな便利な物だろうか?」


彼は自分の新しい能力を試すべく知りたいことを頭の中で整理する。大前提として、移動先で人に見つかってはいけない。そして、晴斗が知りたいことは以下の5つ。


1.距離はどれくらい移動できるのか

2.行ったことがない場所にも行けるのか

3.出口が何かに干渉した場合どうなるのか

4.連続使用は何回できるのか

5.入口を広げて車などの大きな物も移動できるのか


彼が思いついた実験項目はこんなところだ。

3、4、5に関しては、すぐに職場でも実験できると判断し早速行動に移す。


結果として、3に関しては、出口が何かに干渉すると入口を通ってもそのまま通り抜けるだけで移動できないことがわかった。


4については、廊下で10回ほど連続して使用してみたところ、少し疲労感を感じた。あまり連続使用はしない方が良さそうだと考えた。


5については、入口を意識的に広げることで、大きな物も移動できることが確認できた。

しかし、晴斗が最も気になるのは、1と2の項目だ。まずは、移動距離を試すことにした。


「とりあえず、確実に人に見つからず、ある程度距離がある場所といったら……家だな」


晴斗は自分の部屋を思い浮かべ

「フォールドゲート」と呟く。

すると、目の前に再び空間の歪みが生じた。

「さて、どうかな~」

少し緊張しながらも、足が軽くなるのを感じる。すると次の瞬間、目の前に広がったのは自分の部屋だった。


「おっ!おお!いけんじゃん!!」


「……あっ!靴履いたままだった!!」


家から職場までは約10km。これで少なくとも10kmは移動できることを確認できた。晴斗はニヤニヤしながら、すぐに職場に戻り、次なる実験に取りかかることにした。

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