第21話:新たな領主

手紙を貰った翌日、俺たちは全員でノースウッドの街に来ていた。


領主邸に向かう前に、ギルドで換金しておく。


カーラとケイトは自分たちで狩った魔物を、ソフィアとノドカは自分たちで狩った魔物と俺の狩った魔物を換金してもらう。


その時に冒険者カードの冒険ランクを確認してみると、こんなランクになっていた。


ノドカ:G

ソフィア:F

カーラとケイト:C


ランクはGから始まりAまで行った後、Sになる8つの区分に分かれている。


そのためノドカは最低ランク、ソフィアは最低から1個上のランク、カーラとケイトは中位のランクということが分かる。


ただノドカとソフィアは冒険メインにしているわけないし、クエストもそこまで受けていない低ランクなのは仕方ないだろう。


ちなみに俺の冒険ランクもGだ。


ギルドで素材の換金が終わった後、俺たちは先に昼食を済ませるため食堂へ向かう。


領主邸で襲撃される可能性を考えたら、今ご飯を食べている方がいいからな。


顔なじみとなった店主が自ら料理を持ってきてくれ、賑やかなに昼食を楽しむ。


それが終われば、ついに領主邸だ。


俺たちは気持ちを引き締め、領主邸に向かった。




領主邸のチャイムを鳴らすと、若い使用人がやってきた。


その使用人に俺たちが貰った手紙を渡すと、すぐに使用人は確認すると言って屋敷に戻っていく。


数分したら、使用人ではなく昨日来た老人がやってきて俺たちを案内してくれた。


領主邸は俺が押し入った時とあまり変わらず、綺麗な内装をしている。


そして通されたのは押し入った時、カーラたちと戦った広い部屋だった。


だが今の広い部屋は中央に豪華なテーブルがあり、こちら側と反対側にイスが置かれている。


また窓はないが、俺たちが入ってきたドアとは正反対の位置にもドアがあり、恐らく領主はそこを通ってくるのだろう。


老人は人数分のイスを設置した後


「カイル様方、今しがた当主様をお呼びしますので少々お待ちください」


そう言って部屋から退出していった。


ここまでの間、武器を持った人間はもちろんのこと、敵意を持った人間や殺気を感じない。


今回もカーラ、ソフィア、俺、ノドカ、ケイトという左右と中央で守れる並びでイスに座っている。


ここでも数分待つと、俺たちの正面にあったドアが開き中年の男が入ってきた。


ソフィアは立ち上がって領主を出迎えようとしたが、他のメンバーは一切立ち上がらない。


「カイル様!ここは立って下さらないと……」


小声でソフィアに言われるが、俺はあえて立ち上がらない。


「あぁ、気にしないでくれお嬢さん。私は父とは違ってそこまで形式ばったことを言うつもりはないよ」


そう言って中年は、俺たちの向かいに座った。


「君がカイル殿でお間違いないかな?」


「……あぁそうだ」


真っすぐ俺を見据えて話す中年男性に、目を離さず答える。


「そうか、それではまず父が貴殿に迷惑をかけて済まなかった」


そういってテーブルに手を付き頭を下げてきた。


「……御託はいい。用件は?」


それを無視して俺は用を聞いた。


「おっと、君にはこのような策は通じないのか。これはこれは失敬」


そういって不敵な笑みを浮かべながら中年男性が頭を上げた。


「まず私の名前は、エリック。爵位は無いからただのエリックさ。おっと、そんなに睨まないでくれ」


「いいから、とっとと用件を言え」


「本当に君はせっかちだな。それより私を警戒してのことかな?」


不敵な笑みを崩さない中年男性が話を続ける。


「なに、今回はカイル殿に対する謝罪がメインさ。それも今終わった」


「それでは帰るぞ」


俺は立ち上がり、仲間に部屋を出るよう首を動かす。


「まぁ待ちたまえよ。今から話す内容は、君にとっても有益なものだぞ?」


「ならさっさと言え」


座ったエリックを見下しながら言うが、そんなこと意に介さず


「君たちの拠点まで、道を作ってみないか?」


予想外の提案に全員が驚く。


「君たちは長い時間をかけて、我がノースウッドの街まで来ているのだろう?今後付き合っていく人々だ。道があることに越したことはない」


確かに道があればリアカーを安全に引けるし、より早くノースウッドの街まで行けるだろう。


だが


「一体何が狙いだ?」


それをして一体この男に何の利益がある。


俺はエリックを見定めるように聞いた。


「簡単な話さ。この街を発展させたい。ただそれだけだ」


「答えになっていない」


「仕方がないね、私は君たちの拠点の位置に街を作って欲しいんだよ」


「……何を言っているのか分かっているのか?」


「もちろん。それにどんな価値があるのかは、そこのお嬢さん方に聞けばいい」


そう言ってノドカとソフィアを見る。


2人は俺たちの仲間でも、それなりに商売が分かる奴だ。


「カイル様、エリック様はノースウッドの街を街道都市として発展させるため、拠点の位置に街を作りたいのです」


……俺にはさっぱり分からん。


「でもエリックさ……ま?」


「あぁ呼び捨てでいいよ、お嬢さん」


「分かりました、エリック。私たちの拠点に街を大きくするだけのはないですよ?」


ノドカが質問する。


「君たちは豊富な魔物素材を頻繁に売っている。ということはダンジョンが近くにあるのだろう。それに木材もある。それだけ十分だ」


なるほどと言ってノドカとソフィアが納得しているが、俺とカーラ、ケイトはさっぱり分からん。


「ともかくだ。俺たちが街を作ると言っても住民がいない」


「それならちょうど行先に困ったダークエルフたちがいてね。彼らを領民にしたらいい」


エリックは持ってきていた紙を見せながら言う。


最初から俺に街を作らせることが目的で、ここに呼びつけたな?


「領民の問題は解決したとしてだ。なぜ知りもしない領主とかに俺たちの拠点を奪われなければならない」


「おや?君が領主に成ればいいじゃないか、カイル・リッター殿?」


「……貴様、どこまで知っている?」


「全てさ。もちろん元Sランク冒険者であることも、異名の」


「もういい!黙れ」


俺は怒鳴り声でエリックの言葉を遮る。


「それを知ってなお、俺を領主にしようと?」


「そんな君がからこそ、領主にしたいと思っている」


俺を真っすぐな目で見てくるエリック。


「君は知らないかもしれないが、若い貴族の間では君の評判は分かれていてね。隠れファンは意外に多いのだよ」


「……もういい。この件は帰って仲間と話し合わせてもらおう」


「あぁそうしてくれ」


俺は再び、ノドカたちを立ち上がらせカーラを先頭に部屋を出させていった。


俺も部屋から出ようとした時。


「そう言えばカイル殿」


「まだ何かあるのか?」


「最後に耳寄りな情報を1つ教えよう」


「さっさと言え」


「近々、君の拠点に査察隊が行くだろう。準備はしておくれよ」


「まだお前のところからか?」


「いや違う。元いた派閥のところからだ」


まだ拠点が襲撃されると思うとうんざりするが、分かっているだけありがたい。


「お前のところで止められないのか?」


「私のところは既に止めてある。だが親派閥が体面のために動いているのだ」


「ふんっ、分かった」


「あぁ、これは貸しにしておくから今度返してもらうよ」


突然エリックが訳の分からないことを言い出した。


「は?それならお前らが俺を襲撃したことでチャラだろ?」


「いいや。それは君たちが貴族の屋敷を襲撃したという事実をチャラにしたことで相殺してある。本当なら君たちは領主邸を侵入・破壊したならず者扱いだったんだぞ?」


俺はそれ以上反論できず、逃げるように領主邸から出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る