第2章:領主の始まり
第19話:新居での生活始め
多くの町民からの支援で、俺たちの新たな拠点は半月ほどで建った。
あのボロかった掘っ立て小屋が、今では立派な一軒家に変わっている。
俺は新築祝いと町民への感謝を込めて、貯めていたお金を全て使って街で食事会を開いた。
木材倉庫で助けた娘たちや領主の手にかかって亡くなった人の関係者が、何人も俺に挨拶へ来た。
木材倉庫は俺の手柄かもしれないが、それ以外は全てノドカやソフィアたちの頑張りなのだからそちらに挨拶に行って欲しいと言っていく。
ちなみに、俺が毒でやられた時に居た食堂の店主も俺に挨拶へ来た。
どうやら食堂の店主は何も知らなかったらしく、ジョッキを運んできた人は雇ったこともない人だったという。
あまり気にしないでくれというのも悪いと思った俺は、もし悪いと思っているなら今度は食事を負けてくれと言っておいたから、これでいいだろう。
食事会の途中、俺は外の空気を浴びに出る。
外は寒くて静かな時が流れており、中の喧騒とは全く違った雰囲気になっていた。
その喧騒を眺めながら、俺は少し物思いに耽る。
ただ狭い小屋で1人暮らしをしていた俺が、こんな風に人々に囲まれてることなんて誰が想像できたんだろうな。
俺は今の境遇になれた幸運に感謝しつつも、そんな俺を慕ってくれる仲間に深く感謝しようと改めて思った日だった。
だが、ノドカとソフィアよ。
俺の横に引っ付いて、やってくる娘たちに威嚇するのはやめろ。
相手の娘がしっかりと挨拶もできなくて可哀そうだろ。
食事会が終わった翌日、俺たちは本格的な新居生活をスタートさせた。
だが、朝起きたらなぜかノドカとソフィアは俺のベッドにもぐりこんでいた。
もしかすると、それだけ心配させてしまったのかもしれない。
そうじゃなくても、ノドカは父親というものを知らないし、ソフィアも父親と会いたいのかもしれない。
だからこそ、父親という存在に憧れているんだろうと思ってしまう。
ただ覚えていて欲しいのは俺も同年代なんだが……。
それだけ俺はおっさん臭く見えるのだろうな。悲しいことだが。
俺はノドカとソフィアを起こさないようゆっくりとベッドを出て、家の周りの探索した。
今までのブランクを取り戻す意味もあるが、家の周囲に張っておいた罠を再び張りなおす作業もやらなければいけない。
これまでならノドカとソフィアを起こしていたが、今は家に戦えるカーラとケイトがいるから、最悪彼女たちの方で何とかしてくれるだろう。
そう思って作業していたら、ケイトが俺を呼びに来た。どうやら朝ごはんらしい。
久しぶりに拠点でノドカのご飯を食べた後の午前中は、各自ですべきことを行っていった。
俺は罠の再設置の続き、俺以外のノドカとソフィア、カーラ、ケイトは隠していた装備を探しに行った。
この隠していた装備というのは、ソフィアを預かった時にマックから貰っていた装備たちだ。
俺を助けるため家を焼く時に、これらの装備を焼きたくなかったソフィアが皆に頼み込んで森の中に隠したらしい。
箱は燃えてしまったが中身は無事なので、全て回収できたら拠点の倉庫に置いておくようだ。
午後からは拠点近くのダンジョンに潜ってみる。
ただノドカとソフィアはまだ1層辺りで、カーラとケイトは奥まで行けると思うので分かれて行動した。
もちろん俺はノドカたちの引率で1層にいる。
「そういえばノドカは転生する時に、ある程度相手の行動を読める能力を貰ったって言ってたな」
ちょっとはマシになってきたノドカの戦闘を見ながら俺が聞く。
「そういえばノドカはそう言ってましたね?どうなんですか?」
ゴブリンを斬りつけながらソフィアも尋ねる。
「ん~。なんとなく相手の行動が分かるというか見えるというか、微妙な感じなんですけど見えるんですよね」
それが本当だったら、かなり便利な能力だと思う。
「それじゃあ例えば、俺が今からどう動こうとしているのか分かるのか?」
「あぁ~それは無理ですね。私が行動が分かることを知らない人じゃないと、多分意識的に行動を変えられるので効果ないっぽいです」
俺は顎に手を当てて考え、ノドカに言う。
「それじゃあ今までと変わらずか。というかノドカはその能力があったのに敵の攻撃を避けれなかったのか?」
「だって身体が付いてこれないんですもん!か弱い女の子に筋肉を求めるのはひどいですよ?」
俺のノドカのイメージが誰かの股間を蹴り上げているイメージしかないから、か弱いイメージが全くない。
「あっ!?今、か弱くないって思ったでしょ!?」
どうしてバレたのかと思いつつm俺はノドカに問い詰められることになってしまった。
「おいおい、ダンジョンの中だってのに暢気だねぇ~」
「ダンジョンでは静かに」
そう言って奥に行っていたカーラとケイトが帰ってきた。
日も頂上まで来ていいタイミングだから、俺たちは一緒に拠点へと帰ることに。
午後の余った時間は座学になるのだが、ノドカの教師役としてソフィアを、カーラとケイトの教師役が俺になった。
拠点の前で軽い準備をしているカーラとケイト。
「準備はできたから、いつでもいいぞ」
俺がそういうと真っ先にカーラが正面から殴り込みに来た。
俺は木剣をその拳の横に当てて受け流し、カーラの後ろから切り込みに来るケイトの木短剣を弾く。
そして、すぐ横で足を踏み込んだ音が聞こえると、その足を蹴り払ってカーラを転ばせる。
そのまま俺はすぐにカーラの喉元に木剣を突き付け、勝利となった。
「こうさ~ん」
カーラから気の抜けた声が聞こえ、俺は木剣を下ろした。
これで今日の稽古は終了。
相手に攻撃を受け流された時の対処法や短剣の扱い方などを教えた後、俺はカーラとケイトにどのような依頼を受けていたのかを聞いた。
どうやらカーラとケイトは採取や魔物討伐のクエストをメインに受けていたようで、対人関係の依頼はほぼ受けたことが無いらしい。
その状態で金稼ぎのためこの国に入り、クエストを受けさせられたと。
「でも最初はアタシらも受ける気はなかったんだぜ?」
「1回断った」
カーラとケイトがそう言う。
自国では有名で高ランクになったが故に、この国ではどうして高ランクになったかまでは伝わっていない。
だから、採取とか魔物討伐依頼のプロと知らずに暗殺任務を無理やり受けさせたってわけか。
納得した俺は、次に気になっていた今日の成果について聞く。
「それで、今日はどれくらいまで潜ったんだ?」
「今日は20層くらいまでだな」
「準備不足」
ダンジョン20層くらいまで余裕そうだな。
だが数日かけていくならもっと準備は必要だということで、今後は15層付近くらいでお金を稼いでもらう。
もうちょっとノドカとソフィアが強くなってから、本格的に準備してダンジョンに潜るのもアリかもしれない。
その日に備え、俺たちはただ着々と準備を整えていった。
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