第18話:ゼロからのリスタート

ノースウッドの事件の数日後、俺たちはまだ街の宿に泊まっていた。

もちろん俺の体調が回復していないこともあるが、何より拠点を失っていたからだ。

俺を救うためにやったことだから責める気はないが、今後どうするか悩んでいた。

夜、俺の部屋にソフィアがやってきた。

何かあったのか聞く前に、ソフィアが突然頭を下げて謝りだした。

なぜ謝っているのか分からない俺は、とりあえずソフィアに事情を聴いた。

ソフィアは涙を流しながら説明する。


ソフィア曰く、今回の事件は自分が原因だという。

自分と父を守るため俺が身体を張って守ったらから目を付けられたこともある。

だが、それ以上に自分がカーラとケイトがパーティーに入ることを意固地になって拒み、その隙を狙われてしまったからだという。

確かに今回の事件の始まりは、俺が頑なに拒否するソフィアを宥めようとして毒物の確認を怠ったことから始まっている。

だが毒物の確認を怠ったのは自分の責任であり、誰かに擦り付けていいものではない。

もっと言えば、ノドカやソフィアに確認することなくカーラとケイトをパーティーに入れたことで発生した問題だ。

ならば、その責は勝手にパーティーに入れることを許可した者、つまり俺が悪いことになる。

そう言ってもソフィアは謝罪してばかりで、俺の言葉は届いていない。

俺はソフィアの顔を抑えている手を取って、安心させるように言葉を紡いでいく。

「あれは元々俺が1人でカーラたちの加入を決めたのが悪い。もっと相談していればよかった」

「いいえ、カイル様は正しいことをされたと思います。パーティーリーダーがメンバーを」

「それでも相談すべきだった。特に意見を決められないリーダーならな」

俺の責任を否定しようとするソフィアの言葉に重ねて俺は言った。

強いリーダーシップや決断力を持っている訳でもないのに1人で決めて、結果としてパーティーメンバーの不和を引き起こした。

どこをどう見ても、リーダーの責任であろう。

だからこそ、俺はこれを反省して同じことを起こさないようにしなければならない。

「ソフィア、今度からはしっかり皆で話し合って決めていこう」

「……はい」

俺はソフィアの肩を掴んで、しっかりと反省点を宣言する。

「だが、ソフィア。君も反省してもらわねばならない。できたら、なんであそこまで意固地になって拒否してたのか教えて欲しい」

「……」

パーティーメンバーが不和になった原因を知っておけば、不和を回避することができる。

そう思って聞いたのだが、なぜかソフィアの顔が少し赤くなり消え入るような声で、理由を語った。

「ただ、私は2人に嫉妬していただけです。恩返しも何もできていないのに、自分が貢献できる場所が奪われてしまうのですから」

そこまで聞いてやっと分かった。

恩返しをしようとしているソフィアは、計算能力やお金の管理が上手いと自負していた。

だがその全てでノドカの方が上手くてできているため、自分は何もできないと思っている。

そんな時、唯一ノドカに勝てていたのが戦闘力だった。

だがそこに新く来た者の方が優れていた場合、またソフィアは自分では何もできず何で恩返しをしたらいいか悩むだろう。

だからこそ、ソフィアは自分より強いカーラとケイトの加入を頑なに拒んでいたということか。


俺はソフィアを抱きしめ、頭を撫でながら言った。

「ソフィアには随分助けられているよ。これから自分の得意なことを見つけて頑張ってくれたら、それが恩返しだ」

強張っていたソフィアの身体から力が抜けていく。

「それにだ。あんなドジっ娘の世話役とか武器に関する知識とか、お前が思っているよりずっとすごいことをしているんだぞ?」

最後は笑いに持って行ってしまったが、ソフィアも明るい顔で笑ってくれる。

「そう、そうですね。カーラさんやケイトさんが居ても、私は私ですよね」

スッキリした顔で笑っているソフィアは、きっと悩みを解決できたのだろう。

元気になったソフィアは、俺のベッドから飛び降りる。

「これからもよろしくお願いしますね、カイル様」

そう言って、俺の頬にキスして走り去っていった。


……初めてキスされた俺は、何も言えずただ固まってしまった。

そこにカーラとケイトがやってくる。

「モテモテだねぇ~。色男め」

「天然タラシ」

カーラはまだわかるが、ケイトのはただの悪口だぞ?

だが2人揃ってきたからには用事があるのだろう。

「いんや?ただアタシらは今度どうすっかな~と思って相談しにきただけ」

「でも解決した」

「は?相談しに来たのに、もう解決したのか?」

そう俺が聞くとカーラが答える。

「相談内容がソフィアのことだったからねぇ。彼女が受け入れてくれたなら、何にも問題ないさ」

「同意」

そのまま俺の部屋から立ち去ろうとしたカーラとケイト。

「おい!」

「ん?どうしたのさ?」

「これからよろしくな」

俺は2人を呼び止めて拳を突き出す。

カーラはヘヘっと笑いながら拳を突き合わせ、ケイトも恥ずかしそうに拳を突き合わせた。


未完成で未熟なメンバーだらけだが、いまでも俺を頼ってくる人がいる。

惰性に流されたまま引っ張るのではなく、しっかりとパーティーのことを考えて行動できるリーダーになろう。

この日、俺は冒険者として、そしてパーティーを率いるリーダーとしてリスタートすると決心した。

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