SaRF~警視庁公安部 特殊対幻象部隊 ファイルNo.1 大阪・梅田、泉の広場の赤い女

戸吹いちこ

プロローグ

 はぁ……どうして大阪の人ってこんなに元気なんだろう……?


 騒がしい関西弁を背中に受けながら、僕はお酒の匂いでいっぱいの居間をこっそり抜け出した。

 親戚の叔父さん達はみんな良い人なんだけど……ちょっと元気がすぎる。僕は一時の平穏を求めて、暗い寝室に避難した。

 スマホのライトで壁際まで進み、ほんの少しだけ窓を開ける。

 夏の夜特有のぬるい風が頬を撫でる。

 それでも新鮮な空気に顔を洗われて、僕はほっと息をついた。



 ここは大阪にあるお祖母ばあちゃんの家だ。

 毎年恒例、親戚達が集まる夏の楽しいイベントなんだけど……今日は最悪だった。


 実は……大阪に到着した時に迷子になったんだ。

 改札を抜けた地下街はとても混雑していて、母さんの後ろ姿を見ながら歩いていたはずが……いつの間にか知らない誰かの背中に変わってた。

 スマホですぐに連絡取れたんだけど、迷子になった瞬間は本当に焦った。

 周りの人は誰も僕の事を知らない。

 一人ぼっちで違う世界に放り出されたみたいで、胸がキュッと苦しくなった。

 

 その後がまた最悪!

 夜は親戚の皆が集まって、盛大な宴会が開かれたんだけど……予想通り、僕の迷子話はご馳走ネタにされた。


「あっはっは! 確かにあの辺は梅田ダンジョンって言われるぐらいやからな!」


 親戚のおじさん達が、子犬みたいに僕を揉みくちゃにしながら言う。のが嫌でこうして避難してるんだけど……はあ、明日どうしようかなぁ……?

 遊びに連れて行ってくれる約束だけど、うーん、そんな気分じゃない。何気なくスマホを取り出したその時──。


 ──ピコン♪


~君も『SaRF』の一員にならないか!?~

 SaRFとは、警視庁公安部に属する組織、特殊対幻象げんしょう部隊(Special anti-Reverie Forces)の略だ!

 任務は簡単、各地に出没する妖怪や悪霊について調べ、それらを鎮めて欲しい!

 何? 一人じゃ不安だって?

 ハハハ! 我々がサポートするから心配はいらない! さあ、今すぐ登録ボタンを押して、君も仲間になろう!

 ※今なら緊急任務「梅田・泉の広場」クリアでSRミコっちゃんプレゼント!



 ……なんだこれ? 位置情報ゲームかな、見たことないけど。梅田って大阪の梅田のこと……?


 画面の上を、親指がフラフラさ迷う。


 ……一人で梅田を探検してくれば、迷子の汚名も返上できるかな……。


 僕は少しだけ夜空を眺めてから──怪しい登録ボタンをタップした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る