天才魔法使いの天才魔法使いによる天才魔法使いの為のモテ必勝法

ドバーデル・ベン

消滅編

俺の子を産んでもらおうカナ!?


 


 おまえは腐った天才だ。凡人にすらなれやしない。どうしようもないほど卑屈で、努力することから逃げて、成果物だけ欲しいという卑怯者であり、そのくせプライドだけは高く、自分だけは特別だと思い込んでいる。小さな頃に才能を見出され、周囲に持て囃された時期があっても、それはその当時だけの話だ。少し成長すると、他の者も同じことができるようになりはじめ、突出していたはずの差は縮まり、やがて同程度の能力になる。十で神童、十五で才子、二十過ぎれば只の人という言葉通り、平々凡々極まりない人間になった。いや、それも〝かつては神童だった〟というプライドが邪魔をする。そう、おまえは凡人にすらなれやしないのだ。


 ――田舎の村出身の少年プエルは、護人ガードになるべくして王都に越してきていた。村では天才魔法使いとして持て囃され、天狗になっていたプエルは、王都でも同じような扱いを受けると思い込んでいた。なにしろ、当時は村一番の魔法使いとして有名で、王都から招待状が届いたことでブレイカーズ大学校に入学することが決まったのだから、それも無理はなかった。

 

 ブレイカーズ大学校とは、百年前に魔王を討ち倒した勇者リドル・ブレイクの名を冠しており、魔法使いを志す者ならば誰もが目指す学校だ。魔王が斃されても魔物は残り、今も増え続けて世界を脅かす魔物に対抗するために作られた組織がブレイカーズ協会で、ここに登録をすることで報酬を貰って生活をするのが護人ガードと呼ばれる。今のブレイカーズ大学校は魔法だけでなく、この護人ガード養成所という側面があり、プエルもこれを目指している。

 

 護人ガードには等級があり、最低限の実務能力とされるE級から〝生ける伝説〟とも云われるS級までさまざまだ。プエルはそこでC級の護人ガード認定証を貰っているが、あくまで仮の認定証であり、一人で魔物の討伐に赴くことは許されていない。それなのにプエルが一人で森に出かけたのには理由があった。それは、同じクラスの隣の席に天才少女がいたからだ。

 

 彼女の名はマホ・マギア。同じく天才と持て囃されて入学したであろう彼女は、プエルとは全てが大きく異なっていた。まず、彼女は炎の魔法と氷の魔法を同時に同じ威力で放つことができる稀有な魔法使いである。一般的に、魔法を同時展開すること自体もそれなりに難易度が高いものの、護人ガードになれる魔法使いなら難なく出来る。しかし、相反する属性の魔法を扱うのは、それも己の〝恩寵〟と異なる属性であれば、不可能に近いのである。

 

 全ての生き物には〝恩寵〟と呼ばれる魔力の特質が備わっていて、それらはそれぞれに相性がある。たとえば、マホの恩寵は公称では〝炎〟で、本来なら水属性を扱っても効果は小さくなる。聖典の一節に〝大地は炎を飲み込み、炎は水を干上がらせ、水は大地を穿つ〟とある通り、恩寵は基本的にこの三属性とされている。風や光、雷といった、元の属性から派生した例外もあるが、それらは相性という観点からは独立している場合が多い。

 

 マホはその特質から、入学時より天才魔法少女の名をほしいままにし、その実力でA級の護人ガード認定証を授かるほどで、学校中から期待と羨望の眼差しを受けていた。今でこそ〝仮〟だが、すぐに仮ではなくなるだろう。プエルはそれを横目にただただ焦燥感に駆られていた。天才だ、村の宝だ、と持て囃されてやってきたのに、貰えたのはパッとしないC級だ。悔しくて、恥ずかしくて、今に至るまで村に連絡の一つも入れることが出来ていない。それゆえに、だった。プエルは一人で魔物の討伐をすることで認められたいと思ってしまったのだ。

 

 マッスルビーくらいなら、C級の僕でもなんとか一人でやれるはず――と、プエルは獲物をその一体に定めて、ここセロスの森に赴いていた。

 

 マッスルビーは人一人ほどの巨大な蜂型の魔物で、腹部が赤いルビーのようであるためにそう名付けられている。臀部の針は岩を易々と砕き、筋肉隆々の両腕から繰り出される拳は言わずもがなの破壊力を秘めている。討伐対象ランクはCだが、プエルは誤解していた。討伐対象ランクとはそのランクの護人ガードが四人一組程度でなら倒せるだろうと振り分けられた等級であり、一人で討伐することは想定されていない。魔物とは、本来それほどの脅威なのである。

 

 それが今、プエルの目の前にいる。ところが――マッスルビーがプエルの方を向いた瞬間、その剛腕を地面に落とした。次に、突然の痛みに悲鳴を上げるその口が真っ二つに切り裂かれた。ぼとりぼとりと青い血と共に肉片が転がり落ちる。空洞と化したマッスルビーの肉体の向こう側から現れたのは、剣を手にした少女だった。

 

 錦糸のようなツーサイドアップをたおやかに揺らし、程よく鍛え抜かれて引き締まった肉体がしなやかな動きを作り出す。胸部の軽鎧と籠手、それと脚部だけを覆うシンプルな装備は、ゴテゴテとした重い装備で身軽さを失いたくない彼女のいつもの格好だった。

 

 彼女の名はサヤ・ブレイド。プエルとは同郷の幼馴染であり、プエルよりも一足先に上京して、ブレイカーズ大学校を出た先輩でもある。魔法使いでないにもかかわらず、わずか一年で正式なA級護人ガードとして既に名を上げており、史上最も優れた天才剣士との呼び声も高い。

 

 血走ったその目は空虚を捉えており、今の彼女はプエルの姿を見てはいない。動くものに襲いかかる習性を持った動植物のように、手に持った剣を振るう。無機質に、無感情に、腹が空いたら何かを食うように、目の前の少年を斬り殺すことだけを目的としている。そこにかつての面影は存在しなかった。

 

 どうしてサヤちゃんがここにいるんだ――と、プエルはまず困惑した。ここセロスの森は護人ガードになりたての者が修行に来るような、初心者向けの討伐対象しかいない。そんな初心者が運悪くマッスルビーに遭遇して命からがら逃げ帰り、そこから何かしらの経験を得られることはあれど、サヤのような凄腕が来て得られるものは何もない。理由があるとすれば、それはプエルの存在にある。

 

 故郷にいた頃から、サヤはプエルを気にかけていた。代々続く高名な剣士の家系でありながら、たまたま隣の家に生まれただけのプエルとも分け隔てなく仲良くしており、プエルにとってももう一人の姉のような存在だ。だからこそ、プエルには確信があった。サヤは一人でセロスの森に出向くプエルのことを心配し、後ろからついてきていたのだ。そのせいで、何者かに呪いを受けた――筋書きとしては概ねそういったところだろう。しかし、〝史上最も優れた天才剣士〟とされる彼女の隙を突き、あまつさえ呪いをかけるなど普通では考えにくい。そのことがプエルの思考を鈍らせた。サヤの剣が目に見えぬほどの速度で振り下ろされ、プエルの脳天を叩き割る――まさにその時、その刃はぴたりと停止した。直前で正気に戻ったわけでもなければ、プエルが魔法で止めたわけでもない。そこには片手で剣を受け止める男の姿があった。

 

「あ、あなたは……?」


 男は、腰にまで届く濡れ羽色の美しい髪を靡かせていた。彫りの深い整った顔立ちに高い鼻、控えめな逆三角の輪郭に鋭い目をしていて、誰もが見惚れる美男子であるように見えた。


「この子はおまえの何だ?」

 

 彼はプエルを一瞥すると、正気を失っているサヤに視線を戻しながら言った。

 

「サヤちゃんは、僕の幼馴染です……!」

 

「オサ、ナ、ナジミ? 聞き間違いかな。もう一回いいか?」

 

「え、はい、えっと、幼馴染です」

 

「おさななじみって、あの、幼馴染?」

 

「その幼馴染で合ってると思いますけど……」

 

「う"ら"や"ま"し"い"ッ‼︎」途端に、彼は滝のような血の涙を流した。

 

「うわっ! どうしたんですか⁉︎」

 

「俺もごんなガワイイ幼馴染おざななじみ欲じがっだ!」

 

「何なのこの人……」

 

 唇を結んで血涙を流している今も、サヤの剣を片手で止めたままである。驚くべきはその膂力だ。研ぎ澄まされた技量だけでなく、並の男など相手にならないほどの確かな筋量も有するサヤの剣撃を白羽取りするなど、一般人に出来るはずもない。サヤは今も地の底から響かせるような唸り声を上げながら、掴まれた剣を振り解こうと足掻いている。それをこのようにふざけた言動をしながら、微動だにしない。まるで癇癪を起こした赤子の額を押さえているかのようだった。


 とにかく解呪できる人を呼んでこないと――と、プエルが後退りすると、「おいおい、どこに行こうってんだよ」と男が呼び止めた。

 

「サヤちゃんは多分呪われてるんです! すぐ助けを呼ばないと取り返しのつかないことになるかもしれません!」

 

 魔法と呪いは、超常現象を引き起こすという意味では同じだが、基本的に魔物が使う魔法は呪いに大別される。それは〝人間がまだ解明していない〟という意味で、いつかはその言語体系も魔法に分類されるが、少なくとも今はまだ人間が太刀打ちすることが出来ないものとして捉えられる。そしてプエルの頭の中には、人一人をこのような暴走状態に陥らせる魔法は存在していない。


「呪いは恐ろしいものなんですよ! 僕だって……いえ、とにかく! 解呪できる人を呼んでこないと……!」

 

「なんだ、助けたくないのか? せっかくの幼馴染なのに」

 

「だから今助けを……っ!」

 

「俺はおまえの言う〝呪い〟を知ってる。これは数時間もすれば死に至る強力なヤツだな。死ぬまでの間にも苦痛は続くし、まさしく生ける屍になる。このサヤって子の状態からするとなかなか進行が早いみたいだし、もう一時間も持たないだろう。で、今すぐ王都に連絡を取って、運よく解呪できるヤツに取り次いでもらって、それから来てもらってここまで一時間はかかるだろうな。つまりだ。助けを呼ぶならこの子を見捨てることになる。わかるか?」


「どうして……そんなことがわかるんですか?」


「俺が天才魔法使いジーニアス・ナレッジ様だからだ」男は堂々と、一点の曇りもなく言い切った。「そして俺ならこの子を救える。てことは、選択肢はひとつしかないよな?」


「で、でも……」

 

 彼に頼ろうにも、プエルには確かな懸念があった。この人には――魔力がない。魔法を使える者ならたとえ微量でも身に纏っているはずの魔力が、髪の毛一本ほどの魔力さえ見えない。もちろん、魔法の知識だけを蓄えている天才なら存在する。しかし、知識だけでは魔法を扱うことは出来ないのだ。魔力がなければ魔法を扱うことはできない。これは魔法使いの常識だ。

 

「決断しろ! 助けたいんだろ⁉︎」

 

 サヤにかかっている呪いの正体は、プエルには判別できない。もし彼の言う通り、死に至るまで一時間もないのであれば迷ってる時間はない――。

 

「お願いします! サヤちゃんを……助けてください!」


「よし、なら約束しろ」男はほくそ笑んだ。「この子に俺を紹介する、と……」


 何を言い出したのか、脳が一瞬理解を拒み、プエルはぴたりと思考が止まった。


「俺はモテたいッ‼︎」プエルの呆れたような目を見て、男は叫んだ。「師匠に言われたんだ……俺には一生モテない呪いがかかってるってな……だけど、俺はそんなもんに振り回されて終わるつもりはねえ! 運命なんかに負ける気はねえんだ!」


 後半だけを抜き出せばどこかの物語のヒーローのようだが、言っていることは徹頭徹尾〝モテたい〟しか存在しない。一生モテない呪いとは、ピンポイントな呪いがあったものだ。


「紹介するのはいいですけど……サヤちゃんが貴方を選ぶかどうかまでは保証しませんよ」

 

「それでいい! 俺が助けてくれたんだって強調さえしてくれれば! あとはなんとかする!」


 男は鬼のような形相でプエルの両肩を掴んだ。必死すぎる。


「わかりました! サヤちゃんに紹介しますから!」


「よし、契約成立だ!」

 

 目ん玉をかっぴらき、喜色満面といった薄気味悪い笑顔を浮かべると、手元に魔力を発生させてサヤの頭にピッタリとくっつけた。彼のどこにも無いはずの魔力が放出され、プエルが驚いていると、サヤが暖かい光に包まれた。プエルにはそれが何の魔法なのか分からなかったが、医療魔法の一種であることだけは間違いないようだった。医療魔法を扱うには難関である医療魔法師という国家資格が必要で、天才を自称する彼がそれに値する魔法使いである証明でもある。


 気を失い、ジーニアスの手から離れて後ろに倒れ込もうとするサヤを支えながら、再度プエルは男の顔を見た。魔力のない、けれど高度な魔法使い。その長く黒い髪が異質なものに見えた。


「あ、あれ……ここは……? わたし……どうして……?」

 

 プエルの腕の中ですぐに目を覚まし、サヤは辺りを見回した。それからプエルに抱き止められていることを理解し、その顔を紅潮させる。


「サヤちゃん! よかった……。サヤちゃん、呪いにかかってたんだよ。それでこの人が助けてくれたんだ」


 プエルの視線の先には、ふふんと鼻を高くするジーニアスの姿があったが、サヤはそちらに目もくれずに両手で口元を覆ってさらに顔を赤くした。


「そっか……プエルくんが助けてくれたんだ……」


「うん……? 俺は?」ジーニアスが眉をひしゃげさせるも、サヤは続けた。


「この夢いいなぁ……プエルくんがわたしを抱きしめてくれるなんて最近見た夢ではトップオブザトップだよぉ……ワンダーオブユー……」


 そのままプエルの胸に顔をうずめ、サヤは大きく息を吸い込んだ。


「プエルきゅんのにおい……すーはーすーはー……いい匂いすぎるぅ……においまでかんじられるなんてさいこー、本物みたーい」


「本物だからサヤちゃん落ち着こう? この人が助けてくれたんだよ?」


「え? 夢じゃ……ない?」カッと目を見開いて、サヤは飛び跳ねるようにしてプエルから離れた。このごく僅かな短時間で全力疾走をしたように汗ばんでいる。「ご、ごめんね! わたし変なこと言ったかも!」

 

「いつもと変わらないから大丈夫だよ。それで、助けたのは僕じゃなくって……」

 

「そうだ!」ジーニアスは胸を張り、己に向かって親指を突き立てた。「俺こそがキミを助けた王子様なわけ。対価と言ってはなんだが、キミには俺の子を産んでもらおうかな」


「は? イヤですけど……キモいキモい、生理的に無理!」

 

 粟立つ肌をさすりながら後退りをするサヤに、ジーニアスは石化したが如く固まり、それから膝から崩れ落ちて地面に肘を突いた。「一生モテない呪い……キッツイ……」


「なんでいきなり『俺の子を産んでもらおうカナ⁉︎』とか言っちゃうんですか?」

 

「言い方に悪意を感じる」ふてくされながらプエルに反論すると、ジーニアスはおもむろに立ち上がった。「じゃあもういい! そっちのおまえ!」


「え、僕ですか?」

 

「おまえに俺の子を産んでもらう! この際だ、ちょっとガキくさいのは我慢するとして……ま、あと何年かすればいい女になるだろ! 俺に任せとけ、な?」


「プエルくんに子供を産んでもらうのはわたしなんですけど……?」


「その前に僕男なんですけど⁉︎ サヤちゃんは知ってて言ってるよね⁉︎


「ふぅん、お断りの常套句か? けど、おまえみたいな可愛らしい子が男だなんて流石に無理があるだろ。声も高いし、小柄だし、肩幅もなくて華奢だし、足腰の肉付きはそこそこエロいし? まあ胸が無いのは残念だけど、でも若いから将来性あるしな」

 

「わかる……全部可愛いよね……」

 

「なんか意気投合しちゃった……」うんうんと頷く二人に呆れ、ため息を放る。「というか、それ僕が本当に女の子だったら物凄く最低なこと言ってますからね」

 

 プエルは苦い顔をしながらバッグからブレイカーズ大学校の学生証を取り出して見せつける。

 

「ほー、本当に可愛い女の子は証明写真でも可愛いんだな。名前はプエル・アドラブルか。可愛らしい名前だ、よく似合ってるじゃねえか。そんでえーと、年齢が十四……げ、思ったより全然ガキじゃねえかよ。まあこの際なんでもいいや。性別、男――男……?」

 

 性別の欄を目にした途端、ジーニアスは学生証とプエルの顔を見比べた。何度見比べてみても、本人であることは疑いようのない事実だ。

 

「おまっ……! 本当に男かよ! 男なのかよ!」


「だからそう言ってるじゃないですか!」

 

「じゃあなんでタイツにミニスカートなんて履いてるんだよ! こんな可愛い顔して女装してんじゃねえよ! 詐欺だろ! ふざけんな! 俺の純情を返せ!」

 

「俺の子を産んでもらうなんて純情の欠片もないセリフを吐いといて言うセリフですか⁉︎」


「チッ、野郎なんざ助けて損したわ。もうさっさと帰れ、このチビ助が」

 

「何だこの人」女性と勘違いしていた時と打って変わって真逆といってもいい彼の悪態は、低身長を気にしていたプエルの眉を顰めさせた。「そんなだから一生モテないんですね」

 

「ンだとォ……? 助けてもらっといてなんだこの女装癖変態野郎がッ!」

 

「この衣装はうちの村の伝統なんですぅ〜! 村で選ばれた優秀な魔法使いはこのフリルの付いた服装で過ごすんです〜ッ! 僕を育ててくれた姉さんが丹精込めて用意してくれた衣装をバカにしないでくれます⁉︎」

 

「えっ、それ……そんなことある、のか? いや、まぁ、それが本当なら悪かったけど……いやでもやっぱ騙されてねぇ? 姉ちゃんに着せ替え人形にされてねぇ?」

 

「姉さんを詐欺師みたいに言わないでください! そんなだからモテないんですよ!」

 

「そうだそうだ! プエルくんの女装が似合ってるから勝手に勘違いしたんでしょうが!」


「う……うるせーっ! そんなもん認めねえ! 知らねーっ! クソボケ! ガキ! あほんだら! 潰れトマト! おたんこなす! あんぽんたん!」

 

 幼稚な罵倒を繰り返した果てに、ジーニアスは涙目で王都の方へ走って行った。


 天才――彼を見ていると、その二文字が脳裏に浮かんだ。かつてプエルが周囲から何度も繰り返し言われ、聞き飽きた言葉だ。すっかり忘れていた言葉で、今では遠い言葉でもある。自分が天才ではないことを思い知ったのは、マホの存在を知って一度目、ジーニアスを見て二度目だ。特にジーニアスからは、凡百の魔法使いとは一線を画するような、ただならぬものを感じていた。


 あれほどの魔法使いがどこから来て、どこへ行くのか、同じ魔法使いとしては興味深かったが、その背中を斬りつけようとするサヤを止めるのに必死でそれどころではなかった。結局、彼が何者であるかは何一つ分からなかったが、高位の魔法使いであることだけは間違いない。おそらくはどこかで出会うことになるだろう――と、プエルは直感していた。同時に、彼がモテないのは呪いでもなんでもなく、ただただ人間性の問題なのだろうとも確信していた。

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