第6話 異世界神の加護

「レイノルド様。どうやら追手が来ているみたいです。少し予定の道を変えます」


 御者台から声がして、馬車が早くなり揺れも酷くなった。


「王家の隠密部隊か?」


「いえ、そこまでではないようですね。あと少しで撒けると思います」


「確かに妙な動きをする奴らだ。連携が全く取れていない。お前に任せる私も援護するから頼む」


 二人のやり取りを聞きながら、私はふとリーダイ様の手下かもと思った。


 王宮を出たのに後を追ってくるなんて、もしかして、悪役令嬢物によくある婚約破棄後されて修道院に行く途中に襲撃を受け、娼館へ売られるというパターン。


 私がそう思いついて顔が引きつりそうになったその時、馬車が大きく揺れて私は座席から転げ落ちそうになった。


「ひゃっ」


「大丈夫か? これだからこの馬車は……」


 レイノルド様が支えてくださったので怪我はなかった。


「ありがとうございます」


 レイノルド様は何が別のことを考えていらっしゃるようだった。そして、こんなことを呟いていた。


「捜索。領域拡大、清掃活動」


 私がその言葉に意識を向けると、ぱあっと周囲の状況が3D状態で表された。そして視てしまったのだ。不可抗力よね。


 だって検索って多分スキルだし、領域拡大だってスキルの一つだろうし……、それ以上にレイノルド様のスキルって多すぎるの。


 触っているので目の前にレイノルド様のステータスと思われるものが表れていた。でも全部は表せていない。とにかくスキルが多かった。


 普通の人のレベルではないと思う。あまりのスキルの多さに私は気分が悪くなった。


「うっ、酔いそう……」


「アゼリア嬢、大丈夫か?」


 慌てるレイノルド様に大丈夫と言いつつ、無理無理と呟くとレイノルド様のステータスは見えなくなった。


 この鑑定眼の使い方はまだ慣れていない。魔法だってまだまだ。いつか使いこなしたい。


 馬車の車輪とは違う金属音が聞こえた気がした。


 多分、先程のレイノルド様の検索で敵と思われる存在があった場所かなとふらふらする頭で考えた。


 実は私がアゼリアの中で目覚めた時に目の前に現れたアゼリアのステータスっぽいのにいろいろと書かれてあったのだ。


 だから、私がアゼリアは魔法が使えることを知っていた。


 そして、魔法以外にもアゼリアにはスキルとかもあってその中にとんでもない文字を見つけた。


 異世界神の加護という文字。これは魔法でもなく、スキルにも当てはまらない。性能としてはどちらかと言うとスキルに近かった。こんな能力は聞いたことはなかったけれど異世界という言葉で納得できた。


 私の持つ異世界の加護には異世界神の鑑定眼というのがあった。職人系のスキルに鑑定と言うのがあるのでそれに近いと思う。


 それでレイノルド様が何をしてるか視てしまったのだ。視るつもりはなかったけどね。


 レイノルド様は追手の足止めをしていたみたいで、追手の武器や鎧をバラバラにして戦意喪失させてるみたいだった。


 暫くすると馬車の速度は落ちてきて普通の速度になった。レイノルド様は窓の外を見遣った。


「どうやら撒いたようだな」


 そう言われて私も窓から見るとお城から広がる貴族街も抜けていた。


 そこは私が目指していたシエナ国の冒険者ギルドの近くに見えた。建物と看板でなんとなくそう思った。


 ここからは裕福な庶民達が暮らす家が立ち並ぶところらしい。


 でも、アゼリアはほとんど来たことなかった。高位貴族令嬢の深窓のご令嬢だったから。


 ただ貴族街より、ここの街は活気があった。行き交う馬車や人々の声が響いてくる。


「ここの冒険者ギルドには寄れないけれど隣国かどこかで寄るつもりだ」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 私はお礼を言ってレイノルド様に頭を下げた。それから物珍しくて窓から街の風景を眺めていた。


 だからこの時、私を不思議そうに見るレイノルド様の様子に気がつかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る