第18話 悪と救済

 千秋は突進する。音速を超えるその突進は、周囲の物を吹き飛ばしていく。まずい、このままではぶつかる。俺は歯を食いしばり、構える。


 その時だった。牛頭と馬頭がその突進と同等の速度で武器を振るい、千秋の体を吹き飛ばしたのだ。


 危なかった、本気で攻撃しなければやられていた。双子は自身の汗を拭う。


 マカは天井を駆け上がり、飛び降りる形で剣を振り下ろした。が、それは千秋の片腕であっさりと防御されてしまう。なんという硬さ。鉄の塊がそこにいるようだ。


 彼女は咄嗟に後ろに下がり、千秋からの距離を取る。その直後だった。彼女のまた鼻の先を、千秋が反撃として繰り出した右拳が通り過ぎて行ったのである。


 しまった、マークされた。正面からではとても敵わない。マカは千秋から逃避を測る。彼は変わらず、周囲のものを破壊しながら突き進む。


「やべぇ……マカさん!」


 俺は千秋を追いかける。しかし、間に合わない。マカに追いついた千秋は、彼女に強固な拳を振るう……その時だった。両者の間に割って入った納言が、その拳の進路を逸らしたのだ。千秋の拳は納言の体を貫通し、彼の体はバラバラになって四方に飛び立った。


 即座に体を再生させた納言は、続けて千秋に飛びかかった。だが、その体は空を切る。千秋は、上に向かって飛び上がっていたのだ。


 そうか、上があった。奴が周囲を破壊したこの状態では、もはや天井など存在しない。


「離れろーーー!」


 俺たちは一目散に逃げ出す。が、完全に逃げることなど不可能だった。奴が着地した衝撃によって、俺たちの体は大きく吹き飛ばされた。


 俺は刀を地面に突きたて、転がる体を停止させる。


「くっそ……どうする?」


 隣にいる牛頭と馬頭に俺は聞く。


 2人は、後方の湊をチラリと見る。なるほど、実戦での成長とやらをしろという訳か。


「あいつはああは言ってるがよ、いきなりやれってったって……」


 俺は炎をイメージする。より明確な炎を。


 刀に赤い炎が宿る。


「……オラァ!」


 炎の斬撃を解き放つ。千秋の背中にそれは向かっていく。だが、それは背中にあっさり相殺されてしまった。


「クソっ!どうすりゃ良いんだよこれ。」


 千秋は俺の方をくるりと振り返ると、再び突進を始める。その時だった。


 その突進を、湊の薙刀が止めていた。


「落ち着いてください、カンダタさん。ただ瘴気をイメージするだけではダメです。貴方の体験してきたものに、瘴気の形はあるはず。それとイメージを重ねるんです。」


 湊は大きく、千秋を弾く。


 その後ろからマカが飛びかかり、千秋の背中に傷をつける。


 牛頭と馬頭はそれに続くように前に出ると、同時に奴に向けて武器を振り下ろす。赤い血液が壁に飛び散り、千秋は一歩後ろに下がる。


「本当に……イライラさせられる……!」


 千秋は舌打ちすると、体を膨張させていく。


「これは……下がって!」


 湊は一同に向かって叫ぶ。


 バキバキバキ、と周囲の壁を破壊しながら、千秋は怪物へと姿を変えた。


 8つの首、巨大な口。これはまさか、八岐大蛇か。


 ……昨日俺たちを襲撃したのと同じだ。奴に、果たして俺は勝てるのか?ガタガタと、刀を握る両手が震え始める。


「カンダタさん!僕は信じてますから!あなたはなんでも変えられる人だって…!」


 納言が俺にそう呼びかける。なんでも変えられる人……果たして、そうだろうか。


 その時、俺は思い出した。現楽がいなくなったあの時のことを。


 どうして、あいつは行きたくない戦に行ったんだ?どうして……


 そうだ、今の俺と変わらない。自分の守りたいものを守るために、戦ったんだ。


『怖えか?カンダタ。』


 現楽は俺に聞く。馬鹿馬鹿しい。アンタは俺の妄想だ。とっくのとうに死んでいる。それでも、俺は答える。


『怖いさ、勿論。だけど戦う。……別にあんたのためじゃない。俺のために、戦うんだ。』


 炎を自身の刀に纏う。先ほどとは違う、黒い炎。地獄で飽きるほどみてきた。


獄煉武刃ごくれんぶじん!」


 纏った炎を、解き放つ。


 周囲の水分が蒸発する。


 空間が歪み、収縮する。


 斬撃は、千秋に当たると同時に、爆発するようにその体を崩壊させた。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 怪物や腑、脳が勢いよく飛び出し、中から千秋が転げ落ちた。


「はあ……はあ……!!やっべぇなこれ……瘴気の消耗激しすぎ……」


 どっと押し寄せる疲労感に、俺は思わず膝をついた。シュン、と刀に纏われた炎が消える。


「まさか一撃で決めるなんて……貴方はどれほどの……!」


 湊は、カンダタの放った一撃に驚くばかりだった。なんという潜在能力。これは、あまりに上記を逸している。


「くそ……奈蜘蛛ぉ!早く来い!奈蜘蛛ぉぉぉぉぉぉ!」


 千秋は、血だらけの体で叫ぶ。奈蜘蛛?一体誰のことだ。俺たちは警戒を強める。その時だった。積み重なった瓦礫の上に、一つの人影が立っていた。


「千秋……やられちゃったんですね。」


 それは、ニッコリと笑う少年だった。見るからに怪しいその風貌を前にし、俺は思わず立ち上がった。


「奈蜘蛛…はやく……回収しろ。逃げるぞ。」


 千秋ヨロヨロと立ち上がると、奈蜘蛛と呼ばれた少年に手を伸ばす。だがしかし、その手は切断されていた。


「……?!」


 その場にいる誰もが驚愕した。どう考えても、今の攻撃はあの少年によるものだ。攻撃する必要など、どう考えてもありはしない。ならばなぜ……そう考えるうちに、奈蜘蛛は追撃を浴びせる。


 困惑する千秋の首を、一瞬のうちに切り落としてしまったのだ。


「千秋……貴方は本当に頭が硬すぎる……。いや、バカと言った方が適切かな?」


 奈蜘蛛は冷徹な笑みを浮かべると、俺にズンズンと歩み寄った。そこから解き放たれる瘴気を前に、誰も動くことができなかった。


 俺も、動くことができない。初めて瘴気を全力で使ったが故に、病み上がりのように身体が言うことを効かないのだ。動け……動け……動け……!自分に必死で言い聞かせる。


 が、その後に奈蜘蛛がとった行動は、更に予想を覆すものだった。


「カンダタさん!あの時助けていただいた蜘蛛です!ぜひご協力させてください!」


 先ほどの不適な笑みはどこへやら、満面の明るい笑みで手を差し出す少年がそこにはいた。


「「「「「「は?」」」」」」


 俺たちは、あまりに予想外の事態に驚愕した。


 ……………………………………………………


 奈蜘蛛は、ヒソヒソと話す俺たちをそっちのけに、茶を啜りながら座布団に正座している。


「……」


 俺は彼の方をチラリと見る。にこやかな笑顔で、彼は俺に向かって手を振る。気まずい。非常に気まずい。全くもって心当たりがないなんて言えない。かと言って誰なのか聞いてしまえば、なんだかもっと気まずいので聞けない。


「お、おいお前行けよ!」


 俺は納言の肩を揺する。納言は無言でフルフルと首を振り、全力でそれに抵抗する。


「貴方が関係ありそうな以上貴方が行くべきでしょう……!」


 湊の言葉に、俺以外の全員は賛同する。なんと言うことだ。正論だけども、正論だけどもすごい裏切られた気分だ。


 俺は恐る恐る、奈蜘蛛の隣に座る。


「え、えーと…‥久しぶりだな。」


 我ながら歪んだ笑顔を作る。ピク、ピクと口角が引き攣っているのが分かる。まずい、覚えてないのがバレるか?


「いやーカンダタさん!ようやく会えましたよ本当にー。上からの許可がなかなか降りなかったものでして……」


「上?」


 俺は首を傾げる。上、と言うと何処のことだ。


「ほら、天界ですよ。天界から僕、糸を垂らしたでしょ?」


「…………あ。」


 思い出した。完全に思い出した。そして色々繋がった。生前ふと助けた蜘蛛が、俺に地獄で糸を垂らしたのか。


「えーっと……もしかして覚えてなかった感じですか?」


「……」


 まずい、完全にバレた。このままじゃ機嫌を損ねて聞くことも聞けなくなる……


「カンダタさんは良いことをしてもいちいち覚えてはないような人なんですね!凄い!」


 良かったあーー。めっちゃ都合の良い方向に解釈してくれたぁーーー。俺は心の中で胸を撫で下ろした。


「聞きたいんですけど、貴方はどうして奴らと仲間のフリを?」


「黙れガキが、殺すぞ。」


 湊のこぼした質問を、奈蜘蛛は罵倒で一蹴した。プルプルと震えて拳を握る彼女を、マカはどーどーと宥める。


「ま、まあ俺からも頼むよ。」


 俺が要求を投げたその途端、奈蜘蛛は掌を返して


「はい!喜んで!」


 と笑顔でそれを了承した。少し経ち、正門、額、美琴達も集まり、奈蜘蛛は話し始めた。


「……まずは、僕の目的について、ですね。僕の目的は潜入。奴らの情報を集めるために天界から遣わされたんです。」


 不適にも見える笑みを浮かべ、奈蜘蛛は言う。


「……で、実際どうなんだ?その奴らの正体とやらは?」


 正門は質問を投げる。しかし、奈蜘蛛は答えない。


「あ、その正体について聞きたいんだが……」


 代わりに俺が質問すると、再び奈蜘蛛は明るい笑顔を作り、話し始めた。めんどくせぇ……と言うような表情を、正門は露骨に浮かべた。


「奴らの正体は、悪霊憑きです。とは言っても、その中でも特殊な存在。完全に悪霊の主導権を握った、謂わば人の形をした悪霊です。そんな集団が徒党を組んでしまったのが、奴らです。その名は罪人アンダーズ


 ……僕は蜘蛛族の中でも動物体と人間体の両方がある特殊な個体ですので……奴らと性質が似てるんです。だから奴らの中に潜入できた。」


「……奴らの目的はなんだ?」


 ゴクリと唾を飲み、俺は質問する。奈蜘蛛は、先ほどまでの笑みを消し、冷徹な真顔で答えた。


「この国……日輪の崩壊です。


 貴方がたもわかっていると思いますが……奴らはここ最近での悪霊事件の大半に関わっている。


 それは、瘴気の均衡を不安定化させるため。既にこの世界の瘴気の天秤は、悪霊事件の増加によって傾きかかっている。……後はどうするのか……公安の皆様は分かるでしょう?」


 奈蜘蛛は、チラリと正門の方を向く。彼は眉を顰めると、一言溢すように言った。


「悪霊の大量放出……。」


「そう、それです。悪霊は人々の負の感情から生まれる……。悪霊そのものと言える彼らにとって、負の感情の操作は理論上なら可能……。そうやって生み出していった低級の悪霊達が人々を襲う事で、世界の瘴気のバランスは急激に崩れる。


 急速な瘴気の変化に、この国が耐え切れるかどうか……。」


 奈蜘蛛は、淡々とした口調で語り終える。あまりにも途方もないスケールの話に、俺たちは絶句するほかなかった。まさか、俺たちはこの国の命運を背負うことになってしまったのか?俺のひたいから汗が垂れる。


「……期限は、残り幾つだ?」


 ゴクリ、と唾を飲み、俺は彼に質問する。これを聞かない事には、どうにもならないだろう。


「1週間です。実際この目で見たから間違いない。……本当は、この情報はひっそりと伝えたかった。ですが、恐らく既に僕の裏切りはバレてしまっていた。故に、奴らは既に元いた場所にはいない。念のためつけた追跡装置も取り外されてしまった。」


「……つまり、公安に全面協力しろと?」


 正門の質問に、奈蜘蛛はコクリと頷いた。しかし、彼から帰ってきた回答は予想外のものだった。


「どうやって、信頼しろと?お前が天の遣いだと言う証拠は?」


 正門は、奈蜘蛛をギロリと睨んで言い放った。俺は思わず立ち上がるが、それをマカが静止した。確かに確固という証拠はない。だが、そうまでして人を疑うと言うのか。俺は、2人の会話を黙って聞くことしかできなかった。


「これです。天界の特別通行手形。」


 奈蜘蛛は、腰に隠していた手形を机に置く。


「そんなもんは幾らでも偽造できる。」


「言いたくなかったですが……お釈迦さまの使いの印です。」


 奈蜘蛛は、机の上にカードを置いた。そこには、奈蜘蛛の写真が印刷されている。それをみた途端、俺を除いた全員の顔が強張った。


「テメェ……神の従者か!」


「ええ……神の従者は他者にそれを口外してはならない。とくに地獄のものについては。……ですが、これで信頼してもらえたでしょう?」


 シーン……と沈黙が広がる。正門は、しばらく考え込むような姿勢を見せた後


「わかった、信じよう。悪かったな、疑って。」


 フゥ、と肩を落とすように言った。


「とにかく……状況の整理をしよう。今から会議に来てもらう。獄卒公安にも連絡を取ろう。」


 正門はそう言うと扉を開き、奈蜘蛛を案内する。


「カンダタさん、後で。」


 彼はそう一言言い残すと、部屋から出ていった。日輪の、崩壊。肌で感じ取っていた以上に途轍もない事態になっている事を実感し、俺の頬から汗が垂れる。


「……とにかく、残り1週間しかないなら、出来るだけ強くなるしかないですよ。特にカンダタさん、貴方の瘴気の精度を高めていきましょう。」


 湊は、若干声を震わせながら言う。


「で、でも獄卒公安も協力するんでしょう?」


 納言が投げた質問に対し、彼女は首を横に振った。


「……獄卒が協力すると言っても、それは他の地獄公安への協力の呼びかけでしょう。彼らの戦力はあまりに高いですから滅多なことがないと……」


「なんだそりゃ。起こってからじゃ遅せぇだろ。」


 俺はポツリと呟くように言う。いつの時代も、上に立つものは常にこうだ。きっと他者を見下しているに違いない。


「……とにかく今日は休みましょう。色々ありすぎて流石に疲れた。」


 そう言うと、湊は部屋から出ていった。2度にわたる襲撃、内通者の登場、そして明かされた真相。1日に巻き起こるにしては余りにも多すぎる情報量に、俺たちはすっかり疲れてしまった。


 ……………………………………………………


 成り行きから、俺たちは公安に泊まる事になった。しかし、俺はどうにも眠る事ができず、ビルの屋上から景色を眺めていた。車の行き交う音のみが、周囲に聞こえる。雲ひとつない夜空を、月が照らしている。


「……良いですか、カンダタさん。」


 俺の隣に、奈蜘蛛が座る。


「あー……お前、俺を助けようとしてたんだよな。それに関しちゃどうも。」


 なんとなく気まずい気持ちを振り切ろうと、俺は感謝の言葉を告げる。


「いえいえ、カンダタさんに助けられた事に比べれば。」


 満面の笑みで奈蜘蛛は言う。


「お前にとってそんなに大事なことか?言っちゃ悪いが、人間に踏まれなかっただけだろ?」


 そう言われた奈蜘蛛は、うーんと考え込むような姿勢を見せると、再び笑顔を作り、話し始めた。


「なんて言うか……あの時の僕はやさぐれてたんです。誰よりも強くあろうとして、それで最終的に孤立した。全部どうでも良いと思ってた。そんな時に、初めて優しくされたんです。……そんな理由じゃ、ダメですかね?」


 奈蜘蛛は、照れくさそうに笑った。俺の出す回答は、ただ一つだった。


「救われたのは、俺の方だよ。俺もその時、全部がどうでも良いと思ってた。その時、お前を助けてよ……自分の中の良心って奴に気づけたんだ。


 俺、さ。ここに来て、路頭に迷って、そんで助けられたんだよ。……なんとなくわかったよ、お前の気持ち。」


 フッと俺は奈蜘蛛に笑いかけた。彼もまた、優しい顔で笑顔を作った。


 ……………………………………………………

 その会話を、盗み聞いていた者がいた。


 マカは、壁に背中をつけて考えこむ。


「……」


 自分が助けた事が、そこまで彼を救っていたとは思わなかった。悪霊を祓って、堕天使と罵られたあの日、彼は私の為に人を殴ってくれた。


 彼の為に、私ができることは……。


 彼女は、自身の部屋へと戻っていった。


 ……………………………………………………


 朝になり、朝食を終えた俺は、柔道場へと連れてこられた。


「さて……カンダタさんにしてもらう事は、瘴気の固有化です。」


 湊は、相変わらずの早口で語る。


「ええ。熟練した者は、みな各々の瘴気の技を持っているもの……それを獲得していただきます。まあ要するにアイデア勝ちですね。」


 うーん……と俺が考え込んだその時だった。


 ドォォォォォン、と凄まじい衝撃が走った。


「何だ?!」


 俺たち2人は外に出る。そこには衝撃の光景が広がっていた。


 空を飛ぶ、大量の低級悪霊たち。その中央からは、大量の瘴気が溢れている。


「おい!1週間じゃなかったのか?!」


 正門は奈蜘蛛に詰め寄る。


「おかしい……一体どんな手を使って……!」


 奈蜘蛛は、その状態に驚愕していた。


「他の公安との連絡は取れるか?!」


 正門は幽晴に聞く。


「ダメっす!瘴気が強すぎて電波を遮断されてるっす!近隣なら行けるっすけど、遠方となると…」


「とにかくやるしかねえ……お前ら、準備だ!」


 正門は、無線機越しに公安に呼びかける。


「第三局の維持……見せてやる。頼むぞ、六道。お前らの力を見せてくれ。」


 正門は、俺たちの方へ向き直ると、余裕のない表情で言う。


「……任せろってんだよ。そうだろ?お前ら。」


 俺は自慢げに答えると、後ろにいるマカ達に向かって言う。一同は、コクリと頷いた。


「よし……じゃあ僕は悪霊を狩る。君たちはあの瘴気の出所へ向かってくれ。……奈蜘蛛、君もついていってくれ。」


 額は刀を引き抜き、悪霊たちが放出される所を刺す。奈蜘蛛は額に対してコクリと頷く。俺たちは一斉に飛び出すと、その方向へと向かっていった。


 街へ入ると、凄惨な光景がそこには広がっていた。人々を、絶え間なく発生する悪霊がくらっている。この野郎、めちゃくちゃやりやがって。俺は拳を握りしめると、大きく飛び上がり、周囲の悪霊たちを一心不乱に切り裂いて行く。


「……来るぞ、カンダタ!」


 美琴が、前進する俺を引き止める。その瞬間、上空から何者かが2人着地した。


 それは、鎌を背中に携えた女と、触手を生やした男だった。


「……!」


 牛頭と馬頭は、武器を握りしめる手を強める。マカは、ワナワナと震え始める。


「さーて、六道の面々がお揃いで……とっととぶっ殺しちまおうぜ、カイナ。」


「まあ落ち着きなよカラス。やるにはまだ早い。」


 カイナと言う女と、カラスと言う男は、それぞれの瘴気を解放する。


「行くよ、牛頭。」


「わかってるよ、馬頭。」


 双子は、それぞれの武器を握りしめ、敵の攻撃に備える。


「……皆さん、ここは任せてください。私たちがここはやります。」


 マカはチラリと俺たちの方を見ると、そう言う。


「……わかった。死ぬなよ、マカさん。」


 俺は一言良い残すと、他のメンバーと共に前に進む。


「行かせるかよ!」


 カラスは触手を伸ばす。しかしそれは、突然間に割って入ったマカによって、切り裂かれていた。


「……?!」


「覚悟しろ。私はあの時とは違う。」


 彼女は、カラスをギロリと睨みつける。


「はっはぁ!良いぜ!そうでなくっちゃなあ!」


 カラスは、爆発させるように触手を増幅させた。


「良いの?行かせちゃって。君ら子供が勝てる訳?」


 カイナは、双子を挑発するように言う。


「余計な、お世話。」


 馬頭はため息混じりに言う。


「はっきり言って貴方、楽勝ですから。」


 牛頭はニヤリと笑い、武器を構える。


「死神の鎌に狩られるのはどっちか……試してみる?」


 カイナは、口角を思い切り横に広げてそう言った。

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