第43話

婚約式とそれに関するパーティからしばらくすれば、平民も貴族も、いつもの日常が帰ってくる。

それは正式に婚約者として発表された二人も同じだ。

マチアスは王太子教育を終えているため、卒業後は王太子としての執務をこなしながら王となる教育を受ける。

彼ならば問題なく、いや、今の彼ならば父王が驚くほど優秀にそれを収めていくだろう。

また、カナメは結局のまま王太子妃教育を終え、こちらも卒業後王妃教育に入ることになった。

現王妃ステファニーは気持ちが落ち着いてきたカナメなら今よりも進みが早いだろうとロドルフに進言しており、卒業するまで王族へ嫁ぐための教育を休んでも王妃になるまでに教育が終了すると、十分間に合うと太鼓判を押している。

王妃になるべく覚えることは多い。責任の重さも変化していく。

それでも、今のカナメであれば教えるほうが驚倒するほど早く進むだろうとステファニーは自信があった。

だからこそ、今度はゆっくり向き合ってほしいと願っている。

自分の未来と、そして周りの人たちの想いと、ゆっくりと腰を据えて向き合ってほしいと。

そうしているうちにきっと、カナメならば彼らしい王妃としての自分を見つけ、そして王妃としての覚悟をしていくだろうと彼女は心から信じていた。


これはきっと、二人がであるからこそ思うことであろう。



さて、多くの国──────この世界の主だった国は、共通の暦を使用している。

それは他国への留学そして他国からの留学生を受け入れやすくするためにと話し合い、忘れてしまうほど昔に決めたから。

その共通の暦を使うこの国も他国同様、花栄月はなさかのつきが卒業式典である。

花栄月は先の婚約式が行われた木の芽月このめのつきの翌月。

花栄月の次は七彩月ななさいのつきとなり、入学の式典や学年がひとつ上に上がる月。

カナメもマチアスもこれに合わせて復学をする。

つまり、二人はあとひと月で最終学年に上がる。復学をすれば11ヶ月で卒業式典だ。

そしてそこから一年後、予定では七彩月、常に温暖なこの国も一番花と緑であふれるこの時に二人は婚姻をする。



それが短いのか早いのか、カナメにはもちろん、誰にも分からない。

しかし、早いと思うものもいれば、遅いと思っているものがいるのも事実である。



シルヴェストルは、時間を止める魔法はないのかといい出した。

王家にやるのはやはり早いと「今からならないのか?いやいっそ、はどうだろうか」なんて文句を言うようになったのだ。

シルヴェストルの側近が「お願いでございますから、城の中では、決して決して言わないでくださいね」と必死に頼み込んでいる。

可愛い息子を手放せない、いや、手放せなくなってしまった親バカシルヴェストルのせいで、側近らは胃薬が手放せなくなったらしい。可哀想に。


デボラはカナメのために『妻の心得』なるものを紙に書いていこうと思い至り、彼女の侍女にやんわりと、しかしかなり必死に止められていた。

素直でマイペースなカナメが、同じ性格の母親が作ったを読んだら何がどう転んでしまうか誰にも想像がつかない。

マチアスが項垂れるくらいならばいい──と思っているこの屋敷の使用人も大概だが──が、そんなで済むとは侍女である彼女たちにはどうしても思えなかった。

必死に止め回避した侍女たちの判断は素晴らしかっただろう。賞賛に値する。

噂によると、話を聞いたシルヴェストルから臨時給金が支払われたとか。


サシャは時折──さすが超弩級のブラコン、という発言である。内容は想像にお任せしたい──を吐き出している姿を、彼の友人であるアントネッリ伯爵家の三男リンス・アントネッリに目撃をされては、「不敬になるから……本当にやめといた方がいいって……!!!」と言われている様だ。

それで止まる様なブラコンサシャではないので、きっと、今日もどこかで呪詛を吐いていると思われる。

弩級のブラコンは、この先一体どのように進化するのだろう。

おせっかいな友人の心配は、可哀想に、尽きることがなさそうだ。



そう、誰もが少し落ち着いて、ゆとりが少しずつ生まれていった。



二人を支える事を成そう。その思いをきっかけに形になった王立デュカス療養所は、今も人を保護している。

保護されたものも、彼らを支援するものも、いつかきっと祈る少女の像の願いが通じ、「この建物はもとは何のために作られたの?」と言う声が響くことなると信じている。

それには時間がかかるけれど、次代の国王と王妃はそうなる未来を作る努力をしてくれるとも、信じていた。


花と緑であふれる七彩月。

二人は復学をする。

王太子とその婚約者として。

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