第28話

アーロンへ心でツッコミを入れていたマチアスをよそに、ロドルフとステファニーは執務があるからと去っていった。

しかし最後にカナメとノアを紹介していたのだろう、カナメはノアに何か話したそうにしている。


「カナメ様?」

カナメとは全く違うタイプの美人といわれるだろう、ふんわりとした印象が強く残る容姿のノアは、その雰囲気のままの声でカナメに声をかけた。

「ノア様は、魔法が得意であると伺って……」

「はい。私の唯一の特技と言っても過言ではありません!魔法のことだけは何より自信があるんです」

「それと、精霊魔法も得意とか」

「はい」

パッと輝く笑顔で応えるノアに、カナメの顔も綻ぶ。

人を笑顔にする笑顔。まさにノアの笑顔はそれであった。

「よろしければ教えていただきたいことがあって」

「私でよければいくらでも」

どうやら婚約者同士の仲は良好な出だしだと、マチアスは肩の力を抜いた。彼自身も気がつかないうちに力が入っていたらしい。

二人の魔法談義──というか、一方的にカナメが聞きノアが答えると言う状態だけれど──を聞きながら、王太子同士は顔を見合わせ

「アーロンのを見る日が来るとは、思わなかったよ」

マチアスが素直に言葉にする。

されたアーロンは照れくさそうに

「だって、僕、マチアスに『彼が婚約者のバグウェル伯爵ノア・ディディエ・ヴィヨン』なんて紹介する日が、こんなに早く来るとは思わなかったからね。なんだか照れ臭いだろ。君だって、どこか照れ臭いだろうに」

をマチアスに返した。

会ったのは本当に片手で数えられるほどの日数。あとは手紙でのやり取りだけであったけれど、お互いが『俺』と『僕』であることを十分知る仲になっている。

婚約者同士も魔法の話を通じていつの間にか『俺』と『ぼく』に変化していて、マチアスもアーロンも再びほっとした様子だ。

いくら友好国だからと言っても、王太子同士が非常に友好な関係であったとしても、婚約者、のちの妃同士ももそうなるとも限らない。

こればかりはだ。表面を取り繕ってなんとでもするだろう。

しかしそうなった方が一層互いの国のためになるので、そうある姿を見ると国王となる身として安堵するのだろう。


「今から敷地内の離宮に案内しよう。もう荷物もそちらへ入っているはずだし、準備もできているはずだ。二人にはそこに泊まってもらい、朝食以外の食事はそこで俺たちも一緒に取らせてもらえたら嬉しい」

アーロンもノアはこれに喜んで了承した。

マチアスの提案は、互いの関係をより良くする様にと言う思いがあることは事実だけれども一方で、そうしてしまえばだろう、と言う狙いも含まれている。



美しい庭を横切り、四人は離宮へと歩いて向かう。

歩くには少し距離があるというものもいるだろう。しかし若い四人ならば──それにドレスを着ているわけでもないので──、会話をしていればそこまで苦ではない。

明日からは馬車を使うのかもしれないが、離宮までの道のりを二人に紹介しながらという目的もあるので、マチアスは歩く選択をした。

客人の二人はこの散歩も楽しんでいる様で、「歩かせるの……?」と思わず口にしたカナメの顔もホッとした様子だ。

「見えてきたあれがそうです」

あれと言われた目的地であるその離宮の前で、ノアの従者であるランドが頭を下げている。

アーロンの従者はその場にいない。

とりあえず落ち着いた頃を見計らってここにくる、と言うマチアスとカナメを見送った三人は少し可愛らしい雰囲気の四階建てだけれども可愛らしい小さな離宮へと足を踏み入れた。

離宮内を歩きながら、自分の従者エルランドの様子に気がついたノアがそっと声をかける。


「エル?どうかした?何かあった?」

「ええ。いえ。いや、あったといえば、そうなのですが……」

言って言葉を濁す。

気になったノアは自分の部屋にと割り振られたそこを案内されると、アーロンとエルランドを半ば強引にそこへ押し込み

「今魔法を張ったから。大丈夫。ぼくのを破れる人はそうそういないと思うから」

エルランドはそれでも小声で


「カナメ様が契約しているという精霊ですが……」


続いた言葉にノアは素直に目をまんまるくし、驚いた。



ハミギャからの客人とは夕食を共にしたのち、挨拶をしてすぐに別れた。

長旅で疲れているだろうことを思えば、当然の選択だろうか。

二人はこの国の特産品の一つである、通年日中と夜の寒暖差の激しい国だからこそ取れる野菜をいたく気に入った様子で、それを見たマチアスは早速、滞在期間中この野菜でさまざまな料理を一品は作るようにと厨房の責任者に伝えるようアルノルトに言い、ここでホストとなった二人の本日全ての予定が終了した。


自分のために用意されている部屋に戻ったカナメは、今日初めて会ったノアを思い出す。

彼のふんわりした笑顔の裏で同性の婚約者、しかも王太子の婚約者であることをどう思っているのか。とても聞きたくなっていた。

彼はどの様な覚悟を持っているのか、今の立場をどう考えているのか。知りたいことが沢山浮かんだ。

四人全員が同じ歳。そしてそれぞれ同じ立場。聞きたい気持ちがより大きく膨らんでもおかしくはない。


明日は王太子同士で『今より一層友好的になるにはどういった協力が必要か』などを話し合うと言っていた。

(その時間、自分はノアと話してみよう……)

カナメはそう決めてベッドに潜り込んだ。

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