第20話

1日籠城をしていたカナメは、朝食の場に目を腫らし寝不足の顔で登場した。

あんまりなカナメの状態にマチアスは顔にこそ出さないが、カナメに知られないように深く呼吸をする。


大丈夫か。大丈夫じゃないに決まってる。

問題はない。問題しかない。

守るから安心してほしい。今現在カナメを守っているとは到底思えない。


何を言っても自分で否定出来てしまう状況で、マチアスが出来たのが、深呼吸一回、であった。

この顔のカナメにを伝えれば、また泣かせてしまうなとマチアスは思う。しかし言わなければいけない事だ。分かってもらわないといけない。

理解してほしいなんて言うつもりは、マチアスにはなかった。

理解なんてしなくても良い。

ただ自分がやろうとしている事、カナメに何をしたいと思っているのか、それらを聞いて自分の思いをと。


マチアスはするとのとでは、若干意味が違うと考えている。

分かると言うのは『この人が理解する』と言う感じで、というニュアンス。

理解というのは『この人が何を言っているのか』というようなイメージがあった。

だからマチアスは分かってくれれば良いと思う。

自分の思いと、そして何を成そうとしているのかという事を、分かってくれればと。

いつかは理解してくれれば良いなと思うけれど、それは自分のこれからを一番近くで見てから判断してくれればそれで良いと、そうなればいいとそう、マチアスは願うだけだった。


マチアスは、離宮で今使用している部屋にカナメを招いた。

フルーツや焼き菓子をたくさん用意して。

朝食後すぐではあるのだけれど、と言いながらそれらに釘付けになるカナメに知られないように笑うと椅子を勧め、カナメの隣にマチアスも座った。

隣でカナメの手を握りしめると、カナメは首を傾げて「どうしたの?」と言いたげな顔でマチアスを見つめる。

マチアスの長い1日が、始まろうとしていた。




「昨日、決めたことがある」

突然の前振りにカナメの手が強張った。

「側妃は持たない。子供はエティから養子を取る」

必要な事だけを端的に言ったマチアスに、カナメは驚愕で目を見開く。

そして無言で首を大きく横に振った。

そんな事、国王になるマチアスが。それがこの国だから、それは無理であるとカナメは

無理だと思うカナメの思考を、マチアスもよく理解出来る。


それがこの国であるからだ。



この国、トリベール国にはいつの時代からか、もしかしたら建国時代からそうだったのか、があった。

それはという、思想であり行動だ。

貴族の家はそれが普通ではないか、と思うかもしれないが、この国では少し狂気じみた側面を持っていた。

例えば、嫡男の妻に子がなかなか出来ないとなれば──仮に、夫に原因があっても、だ──尋常ではないほど、人の尊厳は愚か性格も何もかもを否定し破壊するが如く激しく責められ、時には一年も待たずに『追い出されて当然』と言う嘘の情報をばら撒き妻を追い出す婚家もあったし、責める義理の両親、助けてくれない実の両親に苦しみ自害を選ぶ者もいる。

時には妻の代わりに、同じ色を持つ女性を愛人にし妻の子として届け出た。実は他に比べればこの愛人を作るのはまだで、妻と同じ色の女性を攫い無理やり関係を持ち子を産ませるという家もある。

もちろん、これらはこの国で違法とされていたが、これらの所業をようなもの。

つまり、ほとんど摘発される事なく、当然のように繰り返された。

他にも、嫡男にがないと分かると、夫の兄弟、親類、驚く事に時には夫の父親義父との子を、妻の意思とは関係なく無理やり性交させ出産させるケースもある。この場合、心を病んだ妻が子と共に心中すると言う事件もあった。

また、優秀な嫡男に子を作る能力がないと判断された──この国、いや、世界で、まだそれに関して確実な正しい診察をする方法が確立していない──場合、次男ら嫡男の兄弟の中から選んだものをという事が起きた事もあった。

もしかしたら今でも起きているかもしれないと、王家は頭を抱えている。

この場合、この正しく嫡男であったものは生涯に渡り幽閉され、自分に成り代わった弟の代わりにただただ仕事をするだけの機械のように働かせられたりもしていた。

最後に、跡目争いが過激になっているような揉めている家では、嫡男の兄弟らが医師に金を握らせそのように診断させ跡取りから外し自分を跡取りとさせ、のちに領地経営に問題をきたすなどの事も起きた。


とにかく、先の事以外にもきっと、尋常ではない何かを行った家もあるだろう。そう想像してもなんらおかしくはないのが、この国なのだ。

どうしてなのか、嫡男の子供を何がなんでも。という狂気じみた思想がこの国には強く強く根付いている。

それが当然のように染み付いているから、カナメがなどという事になっているのだ。

けれども冷静になれば自分の家を存続させるには、で代替わり、そして跡目を決めていくべきである。

それを全く理解していないのか、それとも長きにわたるこの思想で目が曇ってしまっているのか、貴族の嫡男思想を前にすると健全という言葉が書き消えていた。

この異常な思考によって、健全さが掻き消えているのがこの国の危ない側面なのだ。

おかしいと思う国王もいた。そして行動した国王も貴族もいた。しかしどうしてもそれを改めされられなかった。どうしてもこれを消し去る事が出来なかった。

それほどまでに染み付いたものである。

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