第九章 後継者
◯月星暦一五七六年一月末①〈雪崩〉
突然だった。
月星北部の国境を警戒していた筈の砦が奪取された。
たまたま、
先行隊が現場にかけつけたのが翌日深夜。
以来一週間睨み合っている。
隣国蒼樹星軍が陣取る砦に向けて何基も並べられた投石機。できれば砦は無傷で奪還したいこともあり、今は牽制の意味あいが強い。
砦の先には、蒼樹星につながる断崖沿いの細い街道と海がある。
荒れた天候の時などは波が被り、海に沈み、通行禁止になることも多々あるほど細い街道だった。本来なら進軍など考えられない為に完全に油断していたと言えよう。
しかし、この年は酷い寒波が来ており、海が凍っていた。
凍ること自体は無いわけでは無かったが、まさか人馬が歩くのに耐えられる程に厚いとは月星側は把握していなかった。
海の上を渡ってくるという発想がそもそも無かったと言っていい。
※※※
投石機の一基が明後日の方向を向いて突然放たれた。
立て続けに同じ場所を狙って放たれる石礫。
一度砕き、同じ重さ、同じ大きさの球体に整形しなおした石を使うようになって久しい。投石機の方も目盛りを打ち、絞る力が調整がしやすいように改良を重ねてある。
何度も同じ位置に石轢球をぶつけられた崖から、轟音が響き渡った。
「山を背に全速直進!」
肚によく響く、通る声があがった。
戦場を横断する雪の流れに混乱し、逃げ惑う敵を追う黒づくめの騎馬集団があった。
正規軍ではない三十程度の騎馬隊は、どさくさに紛れて、戦線を追い込んだ。
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