■月星歴一五四二年十一月②〈懸念〉

 王に二人を引き合わせた後、モースが月星の宰相のアルムと話をしに行ったのを確認して、ハイネはアトラスに声をかけてきた。


「少し話せないかな」

「どうした?」

「一度、竜護星にこられないかと思って」

「レイナに何かあったか?」

 すぐにレイナに結びつけるアトラスの思考にハイネは苦笑した。

「僕たちが大祭の為にこちらに来ている間に、新しい女官を何人か入れたんだ」

「数が足りてなかったからそれは良いんじゃないか?」

「もちろん。ペルラが吟味して採用し、女王不在中に研修をしていたそうだ。それはいい」

 少し声を落として、ハイネはアトラスを見る。

「一人、月星人がいる」

 月星人は俗に月星訛りと言われる、始めの音に強めにアクセントをおく話し方をするのですぐに判る。


「何か問題が?」

 さすがに王城勤めとなると、名家等の推薦が無いと採用は難しい。経歴の類は調べられている筈だ。


「多分、『』の関係者だ」

 アトラスは視線だけで先を促した。

「新人の割に物怖じしない。所作も態度も完璧すぎるんだ。城という環境に慣れている風なんだよ」


 王城勤めというのは、どんな貴族の娘でも初めは緊張し、舞い上がり、ぎこちない態度になるものだ。その様子が全く無いのが不自然だとハイネは強調する。


「生き残りという線は無いかな?」

「王女が一人いたらしいが自害したと聞いている。縁者が全くいないとは思わないが……」

 敵将たるライネス王を討った以降のことを、アトラスは実は知らない。精神的にそれどころじゃなかったというのが正しい。

 事後処理については報告書を読んだだけだ。


「どんな娘だ?」

「華やかな印象のアリアンナとは真逆の美人」

 そこでアリアンナを比較に出すのがハイネらしい。


「髪の色は君に似ている。背が高くて切れ長の目は青灰色そらいろ。知的な感じだ」

 ハイネはじっとアトラスを見て、すいと目を逸らした。

「……気を悪くしたらすまないんだけど、君を女性にしたらきっとあんな感じだ」

 妙な例えに、アトラスは眉を上げて顔を歪ませた。

「とにかく一度来て、実際に彼女を見て確認して欲しい」

 ハイネは繰り返す。


 アトラスは暫し考え込んだ。

 さすがに六年も留守にしていた手前、勝手をする訳にはいかない。加えて特にここ最近、女神の威光を使い過ぎている。

 正式に竜護星へ行くまでの期間、なるべく大人しく穏便にじっとしていたいというのが本音だ。


「兄上と相談しよう」

「でも、アトラス」

 内容の繊細さを慮り、ハイネは声を上げる。

「大丈夫、アウルムはいる」

「知ってって、を?」

「そうだ」

「本当に?」

 唖然とするハイネ。

「……ここはバケモノばかりか」

「なんだって?」

「器が大きいと言っている」


 アウルムのアトラスへの態度に、実の兄弟以外のものを疑う者はいないだろう。

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