第三章 タビス帰還編

□月星暦一五四二年十月①〈戸惑い〉

【□レイナ】

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 竜護星国主としてレイナはヴァルムを案内人に、アトラスとハイネを始め、最低限の身の回りの世話をする者や警護の者を連れて、自国竜護星を発った。


 留守はモースとライに任せてある。


 当初、アトラスはレイナに送ってもらう形での月星入りを予定していたが、首都アンバルに入る際には、人数と名前、積荷が検められるのは例え王でも避けられない。


 月星王の従兄弟にあたるヴァルムの案内でも例外にならない程、祭りの時期は出入りが厳しくなる。


 ファタルで船に乗るまでは同行したアトラスだったが、おかが見えなくなるのを見計らって、竜を用いて先行した。


 万全を期すには、アトラスの帰還は直前まで、噂に留める必要があった。


 魔物がどこに潜んでいるかは未だ不明である。身柄を拘束され、くだんの剣を奪われるような事態だけは避けなければならない。


 大祭に出席する為、月星首都アンバルには国内外からかなりの人数が訪れる。

 滞在先は城内だけでは足りず、街中にある離宮や場合によっては臣下の屋敷に振り分けられる。


 竜護星国主には、同行のヴァルムの進言もあって海風星アキマンの屋敷の離れが選ばれた。

 場所は王城のそびえる高台に至る丘の中腹辺りになる。

 ニノ郭と呼ばれ、通行証が無いと立ち入ることは出来ない地区にあたる。


 所謂『』である。


 一ノ郭にあるのは王城と王立セレス神殿のみとなる。


 そちらに行くにも、更に通行証が必要になるのだが、外国の要人には期間限定の臨時通行証が発行される仕様である。


 内戦時、ジェイド派の密偵などの侵入を警戒した警備体制の名残りなのだが、竜護星から来た一行は戸惑いを隠せない。


「まあ、そうだよね」とヴァルムは苦笑ながらも共感の意を示さした。


 彼の故郷である海風星も王家と市井しせいの距離感が割と開放的フランクである。ヴァルムは父親のカームがアトラスの教育係だった為、半分は月星で過ごして来た為今更どうとも思わないというが、同郷の従兄弟や婚約者はやはり同じように戸惑っていたのだとのこと。


「さあ、レイナ。切り替えて。の時間だよ」

「ええ、行きましょう」


 顔に出ていた緊張を微笑で上書きしてレイナは顔を上げた。


 衣装係のストラとハールに完璧に身支度を整えて貰ったレイナは、ハイネを伴いヴァルムに案内されて王城に足を踏み入れた。

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